私は昔から泣き虫で
すぐ目から涙が溢れてた。
だから泣かない強い子になりたかった。
じっと目じりが熱くなるのを
我慢してたら
いつしか泣けなくなった。
なんてことはなく、
外で泣かないように
気をつけてるだけで
家ではしっかり泣き虫だ。
涙が頬を伝って乾いて
冷たくて寒くなる。
暖かいものを求めた。
ずっと探して
ちょっとした温もりでも拾って
四足歩行で這いつくばって
下ばかり見て歩いてた。
そこに推しは突然現れた。
前に好きだったグループの動画を見てたら、
たまたま推しが
推しのグループのリーダーとして
出てただけ。
だから多分
推しのグループの違う人が出てたら
その違う人を推してた。
誰でもよかったのかもしれない。
それでも私は
ただイラストが笑ってるだけの推しが
声しか知らない推しが
10秒で魅力的に見えた。
推しはいつも大きな炎のような
暖かい言葉をくれた。
好きな理由が見つからないものほど
私は永遠に好きであり続ける傾向がある。
推しもそう。
80億人の中の1人の人間ってだけなのに
何故か好きで推す。
手放す勇気なんかどこにもないくらい
推しの優しさに縋ってたのかもしれない。
「好きな風に推せばいいけど、
無理して推すとか、無理してグッズ買うとか、
楽しく推せない推し活はして欲しくない。
お前の人生を変えるのは俺じゃないから、
お前以外いないからな。」
いつか見た配信の切り抜き。
家に帰った直後、
玄関で見た動画だった。
大粒の涙がこぼれ落ちて
拾えずに崩れ落ちた。
頑張ってもないし
特別しんどいわけでもない。
なのにこの言葉が
たくさんの紡がれた言葉が
染み込んで暖めてくる。
"Good Midnight!"
離したくない、離れたくない推し。
起きる時は推しの声のアラーム、
寝る時は推しの歌ってみたを聞いて
全ての1日が
推しで始まり推しで終わる
最高に光り輝く世界になった。
飲む飲む飲む。
ぐいっと缶ビール。
ゲームもアニメも飽きた末に
お酒に弱かった私は
ノンアルコールのビールで
ストレスを発散していた。
アルコール中毒にならない程度に
飲み続け
酒豪とまではいかないけど
近しいものになった気がした。
思えば私の人生は
後悔と諦めで埋め尽くされてた。
自分で道を作らずとも
作るところなんかどこにもなかった。
酔ってないはずなのに
涙が溢れて止まらない。
眠くてたまらない。
私の人生何だったんだろうなぁ。
ブクブクと泡を酒に立てる。
このまま溺れられたら。
明日は起きなくても、まあいいか。
"Good Midnight!"
光輝け、暗闇で酒。
人生は終わんないここで。
くるしいって思た。
私はどこか家族と違う気して
もやもやしてたんよ。
ずっとほっつき歩いて
家族とも疎遠になってしもて
適当に街眺めてた時、
つまらんのやったら
一緒に来はる?って
私のことを
拾ってくれはった人がおったんよ。
はんなりした雰囲気の方で
よく助けてくれはる。
弟子を1人取っていはって
その子とも仲良くしてはった。
その子に私も弟子やと
思われてたんが
ちょいと引っかかるけどなぁ。
でも楽しい日々やったと思ってる。
だからこそくるしいって思たんは
私にもようわからんかった。
酸素がない宇宙みたいやったわぁ。
息が浅くなんねん。
せやからちょいと
離れようとしてな、
またほっつき歩いてん。
そしたらえらい面白そうな店見つけて
入ってみてん。
羽生えた店員さんおって
びっくりしたわぁ。
でも私と同じような所から
来たみたいでな、
なーんか一緒にいて楽しかったんよ。
あの人とあの子とおった時みたいに。
またくるしゅうなるかもしれんけど、
今は離れとかなあかんと思たし
フクロウに似た人もよう話さはるから
暇ちゃうし、
私しばらくここ居ろうかなって。
"Good Midnight!"
ほんまにたまにやけど
あの人とあの子に
会えるようになってん。
前より息しやすうて
ここ来てよかったなぁ思てん。
せやからまだ居らしてね。
初めて乗る「深海のクジラ」。
夜の海を漂うだけの
ただの船なはずなのに
乗った人はみんな口を揃えて
寄り添ってくれる憩いの場だと言う。
何艘か行き先の違う船があって
過去行きや未来行きなど
他にも沢山、
記憶の海を頼りに船を変えるので
毎日出港する船が違う。
私が乗ったのはなんだったかな…。
窓の外は真っ暗な大海原。
これは外の時間も窓ガラスも関係していない、
記憶の海のせい。
存在する全ての生き物の
記憶を持つ特別な海。
それを眺めるためにあるのが
「深海のクジラ」なのだ。
私はそんな船にも海にも興味が湧いた。
眠くても夜更かしをした。
何か見えるものがあった気がして。
窓の外に朝日が昇る。
すると海には
ニコニコ笑う少女が映っていた。
ああ、
私の乗った船は過去行きだったみたい。
ないものねだりな私は
無意識に1番幸せだった頃の
幸せが欲しいと思ってしまっていて。
海をかき混ぜて消したくなるくらい
私は笑っていた。
"Good Midnight!"
ドーナツの真ん中に
ぽっかりと空いた穴を食べたくて
ずっと眺めてた。
みんな普通に食べていく。
ただ君だけは
私の前に座って
ドーナツの穴の食べ方を教えてくれた。
ドーナツの穴の周りを
ぐるっと食べると
最後に穴だけ残って食べれるよ、と。
それからなんとなく価値観が合ってて
好きな物も似てて
嫌いな物や行動も同じだから
一緒にいてしんどくないから
よく二人で行動した。
映画で泣けないくせに
どこにでもある小説で泣けちゃう所も、
朝起きたら枕がベッドから落ちてて
寝相と寝起きの機嫌が悪い所も、
ゲームも勉強も習い事も
中途半端に始めて
中途半端な上達具合で
なんにも無くなっちゃったって感じる所も、
全部全部
私と君は似ていた。
だからこそ
私は離れたかった。
気持ち悪かった。
ドッペルゲンガーみたいで
気味が悪かった。
それでも離れられない。
気づけば一緒にいて、
ご飯も食べていて、
横に君が居ないという空間が
意識できないというか。
"Good Midnight!"
友達ができないと、
ひとりぼっちで過ごす人が多い。
けどある人は
子どもの頃から
イマジナリーフレンドと
過ごしていたんだとか。
1人で話していたんだとか。