入道雲って
なんで「道」って漢字が
入ってるんだろう。
蝉の声がうるさ過ぎる夏。
縁側で寝そべって
大きくなる入道雲を見てた。
起きたら半日終わってて
まだまだ寝ていたいと思ってた。
ずっとここに居たいとも、
ここじゃないどこかに行きたいとも
思った。
生ぬるくて懐かしい
何かの感じを思い出す度に
少しの涙が零れた。
私は現状の何かに満足してなくて
どうにかしようとしてるんだ。
でもその度に後ろに振り向いて
昔にすがりついている。
もう動く気がない身体に
燃え上がるような日差し。
やっぱり縁側はいいなぁ。
超暑いけど
超気持ちいい。
入道雲はまた大きくなっていた。
色々やらなきゃいけないことがある。
でも休みたいし、
やる気起きないし、
そうこうしてるうちに
明日になってるし。
"Good Midnight!"
いつかは私も
満足できるような環境を作って
今の私を迎えに行くから、
それまでまたね、
今日の私。
声を犠牲にしてまで
足を手に入れて
王子様に会いに来たのに
激しい勘違いで他の人と結婚する
私の王子様。
王子様と結ばれなかったので
私は海の泡になって消えてしまう。
って状況整理してみたものの
正直、
人間が嵐の海から
人間を助けるなんて
無理な話なのに
それを信じて結婚までいった
あの馬鹿王子は
死ぬほど殺したい。
こっちの声が出ないことをいい事に
勝手に解釈して、
一瞬でも好きになって
ここまで会いに来た私も
馬鹿みたいじゃない。
まあ、ここで我慢できなかったら
話が変わっちゃうから
何が何でも堪えなきゃなんだよね。
けど、
そんな私の努力とは裏腹に
お姉様たちは髪の毛を犠牲に
ナイフを持って
私を助けにきた。
これを王子様に刺して殺せば
あなたは泡になって消えずに済む、と。
お姉様たちにはいつも助けられたなぁ。
末の娘だからって
不自由にならないように
たくさん良くしてもらった。
でもその優しさ、今は要らない。
私超ムカついてる。
もちろんあの馬鹿王子にね!!
ナイフなんて貰ったら
今すぐにでも殺してしまうわ。
結婚相手共々
お亡くなりになって欲しい所だけど
この怒りが消えるのは
私の不幸が報われるのは
泡になって消えることだけみたい。
ナイフも身も海に投げ出して
心の中で強く思った。
早く泡になりたい。
"Good Midnight!"
気づいたらずーっと
海の中にいたような
海と空を見ていたように思った。
あぁ、今日は月が綺麗だなぁ。
ただいま、夏。
気温は前より何度も上がっていて
アスファルトで
目玉焼きが作れる。
海は蒸発気味で
年々少なくなっているようで
雨があんまり降らなくなった。
生き物たちは
ずっと水不足で
最近は進化が見られます。
水が無くても生きれる生き物です。
表面はカラカラしていて
活動のために必要なのは気体だけ。
その生き物の種類によって
必要な気体が異なるようで
お互いの吸う気体、吐く気体で
支え合っているんだとか。
昔の生き物はほぼ絶滅。
人間や鳥、虫はもういない。
地球に与えられた水という資源が
必要な生き物から絶滅、
稀に進化をした。
"Good Midnight!"
ごめんね、逃げてごめん。
私は地球から逃げた。
他に水がある惑星を1人で見つけて
1人でそこに行った。
久しぶりに戻った地球は
変わり果ててた。
涙が乾いた地面に落ちる。
ただいま、夏。
あぁ、この悪夢が
醒めたら、醒められたら、
どこへ行こう。
ちょっと憧れてた弓。
でも夢の中では
ただの武器だった。
家で普通に過ごしてた。
特に変なこともなくて
いつも通り2階で寝たり、
アニメ見たり、
ぐだぐだしてた。
1、2時間してから
1階に降りたら
誰もいなかった。
今日は休日だから
家族はみんないるはずだった。
けどリビングは静かで
何をしていたかの痕跡すらない。
すると、
私はずっと気づかなかった、
背が高く弓を持つ男がリビングにいた。
着いてこいと言われ、
庭まで歩き出した。
私は嫌な予感がして聞いてみる。
誰を殺したの?
弓を持つ男は答える。
さぁ?
俺にとっては全員動く的だった。
そんなことを話してるうちに
庭に着いた。
そこには私の母がいた。
泣いてはいなかった。
母以外の家族は
みんな喉に矢が刺さって
紐に吊るされてた。
やったのは2人の弓を持った男たち。
母は運良く矢を避けたのか、
無傷だった。
そして弓を持つ男は
私と母に弓と矢を渡して
これで俺たちを殺してくれ。
と、そう言った。
"Good Midnight!"
正直もう何もかもどうでもよかった。
腹に刺して
苦しませて殺そうと考えてた。
そんな考えが
私の中にあった事が1番恐ろしかった。
どうせ簡単に日常が壊れるなら、
どこかへ行きたかったな。
そこで目が覚めた。
二度寝しそうになると
またあの光景と考えが
頭をチラつく。
ぬるい炭酸と無口な君と
五月蝿いくらいの風鈴と
あとそれから。
私を退屈させるものは
たくさんある。
なのに楽しませてくれるものは
片手で数えられるくらいしかない。
冷蔵庫に入れ忘れた炭酸ラムネは
ぬるくてピリピリしない。
黒猫の君は
無口で中々鳴かない。
暑いから部屋で寝っ転がって。
風が少しあって
1階でチリチリと
鬱陶しいくらい鳴っていた。
今は何もなくて
どうでもよくて
自分は何をしたいか
眠たいのか
お腹が空いてるのか
ちっとも分からなくて。
あー、
空っぽで暑くて
何かをどうにかしたいなーって
なんとなく思ってきて
君を起こした。
にゃあっと
滅多に鳴かない君が鳴いたので、
少し驚いた。
いつの間にか1時間経っていて
冷蔵庫に入れたラムネは、
冷たくてピリピリした。
風は幾分かマシになっていて、
風鈴は鳴らなくなっていた。
君と外に出ると、
大きくて街を飲み込むくらいの
入道雲があって
入道雲にはとてつもない量の
水があることを思い出した。
このまま君と入道雲を目指して
夏から逃げて
飛び込んで、溺れて、
冷たくなりたいなぁって
走り出したら
君も走り出した。
"Good Midnight!"
ねぇ、私たち
今なら何でもできて
どこへでも行けるなら、
入道雲に飲み込まれちゃおうか。