るに

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8/2/2025, 4:53:37 PM

その日は風が強かったんだ。
放課後ポストだか何だかに入れた手紙、
喋る変なカモメが
しっかり届けてくれるって
言ったのに。
風が強くてカモメは海に落ちた。
一瞬ボソッと
誰かの名前を呼んだ人が
いたと思ったら、
それは隣にいた少女で
海に飛び込んでカモメを助けに行った。
私も海辺まで駆けつけた。
2人ともずぶ濡れで
高い波にさらわれなかっただけ
マシだと思っていた。
カモメも少女も
ごめんと謝りながら
ぐちゃぐちゃに破れた紙を渡してきた。
波にさらわれた手紙は
ボロボロだったけど
たしかに帰ってきた。
その事が少し嬉しかった。
多分この2人の他に
海にまで手紙を取りに行ってくれる人は
いないだろう。
クソみたいな世界に
クソじゃない人がいたなんて
それはそれで驚いた。
2人には
手紙はちゃんと届いた、
取りに行ってくれてありがとうと
言っておいた。
私が書いた手紙の宛先は
私自身だった。
当たり前のように
文通する相手なんかいるわけなかった。
私は共有・共感したいことを
私とするのだ。
そして初めて幸せを感じる。
あぁ、私を幸せにできるのは
私だけだと。
"Good Midnight!"
私が書いた私への手紙を拾ってくれた
2人に敬意を表し
私はまたクソみたいな世界で生きる。

8/1/2025, 3:56:22 PM

8月、君に会いたい人が
いることを願うよ。
そう言って、
名前も覚えてないし
覚える気もなかった人は
去っていった。
1人で始まる私の物語。
怠惰に生きてきた私だけど
人とそこまで関わりはなかった。
まあ何人も勝手についてきては、
勝手に離れるから
中々目障りだ。
気になることや
好きなことには
歯止めが効かないほど
のめり込むけど、
興味が無いことには
とことん関心がない。
だから人も別にどうでもいい。
けど1人、
おかしなことを願った人がいた。
その人は7月の梅雨が開ける頃に、
8月、君に会いたいって
思ってくれる人が
出来ることを願うよ、と言い
また勝手に離れた。
当然そんな人はいるはずない。
数年経った時、
あの人に2つほど貸しが
あることを思い出し、
暇だったので返してもらおうと思って
聞き込んで見つけた。
8月に入りたての頃だった。
その人は既に亡くなっていて
貸しは返して貰えないままだった。
"Good Midnight!"
それからは
その人が拾って育てて
その人の最期を見届けたであろう
少女を引き取り、連れ出した。
驚くほど私に懐いていたので
少し聞いてみた。
もし私が君を置いて去ったらどう思う?
少女は微笑み、こう言った。
また会いたいから
何処までもついて行きたいと思います。
セミが五月蝿い8月半ばの頃だった。

7/31/2025, 4:16:42 PM

私が生まれた村は
おかしな村だった。
赤いアクセサリーをつけた
毎年決められた家の子どもを
大樹に生贄として捧げ、
豊作を願い、
病が治るよう願い、
幸せを願った。
小さい命を犠牲に。
赤いアクセサリーをつけた子どもは
6歳から村の一番端にある
地下の実験室に通うことになる。
そこでは病を治す薬の投与実験、
未知の実の毒味実験、
薬と薬を混入させる変異実験、
薬物を打たれ症状を観測することも
あるんだとか。
そうしてボロボロのまま
12歳から16歳の間に生贄となる。
良くないものが身体に入っている者を
生贄として捧げて
何が願いを叶えてくれ、だ。
なんて思っているが、
私の耳には赤いピアスが
生まれた頃から付けられていた。
何度も実験台にされ、
その度に死にたいと思った。
だけど不意に現れたその人は
外は広く美しいと、
その村から連れ出してくれた。
幸い後遺症はそこまで酷くなかった。
ああ、そうそう。
外ってのは眩しくて
知らないことだらけだった。
助けてくれた人は
私に色んなことを学ばせた。
そして暖かい暮らしを教えてくれた。
私はそれを受け取って
これからの糧にした。
教会に入ったこともあったけど、
教えられたことはどれも、
助けてくれた人が毎日1つずつ
話してくれることだったので
すぐ辞めてしまった。
そのうち助けてくれた人は
不治の病にかかった。
私を置いてまだまだ世界を見るんだと
助けてくれた人は言っていたが、
私はずっとその人のそばにいた。
私は言った。
救ってくれてありがとうって。
あなたに出会えたから
生きててよかったって思えたって。
だから今は少しの眠りについて、
また私を救いに戻って来てって。
"Good Midnight!"

7/30/2025, 4:13:47 PM

ドンドン鳴り響く
祭りの太鼓の音に合わせ
心臓にも響く熱い鼓動。
全身に太鼓を埋め込まれて
それを叩かれてるみたいだ。
ビリビリと振動が重い。
かき氷のシロップの匂いと
焼きそば、唐揚げの匂い。
浴衣を着て走っている少女たち。
いかにも夏祭りって感じがする。
私は揺れる装飾がついたかんざしが
落ちないように気にしながら
金魚すくいの屋台に来ていた。
金魚をすくいたい訳でも、
金魚を飼いたい訳でもなかった。
ただ祭りっぽいことをして
安心したかった。
金魚すくいで金魚をすくう
あの丸いやつ、ポイの紙は
元々の乾いたままで
すくいに行ってしまうと
すぐ破れやすい。
少し浅く水に濡らして
浸してからすくいにいく。
大きいやつはなるべく選ばず、
角にいる小さいやつを狙う。
入れ物をポイを持ってる手に近づけ、
ここだと思った時に
オルゴールを優しく回すようにすくって
入れ物に入れる。
綺麗な赤い金魚がすくえた。
気づいたら4匹もすくっていたので、
屋台の人に言って、
1番最初にすくった赤い金魚をもらった。
鈴の音が鳴る。
シャラシャラと近づいてくる。
まさかと思い振り向くと
狐に似た人がいた。
こういうイベントでは
知り合いと会いたくない私は
会釈をして
笑顔のまま道を外れた。
狐に似た人もまた
会釈をし、
笑顔のまま去っていった。
"Good Midnight!"
花火が打ち上がる前に
金魚と空き地へ行く。
事前に買っておいた線香花火で
早いとこ私の祭りを終わらせる。

7/29/2025, 5:06:02 PM

あれもこれも
全部タイミング。
あのタイミングでこうしていたから
ここに私がいて
わたしの周りに
あって当たり前の物たちがある。
でもこのタイミングだったから、
ふとした瞬間思い出す嫌なこと、
ずっと頭に残ってる
苦しかったことがある。
これからもタイミングが大事で
タイミングに運命を握られる。
自分で選んでるけど
こっちだよって
道を辿っていくみたいな。
"Good Midnight!"
望んで生まれた訳じゃないって
よく聞くけど
無意識に自分で選んだタイミングかもね。

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