るに

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7/3/2025, 4:10:55 PM

あれもダメこれもダメ。
人は所詮コマ。
テキトーに近づいて
情を持たず
上下関係さえ築けば、
あとは勝手に動いてくれるし
守ってくれるし
扱いやすい特攻隊にもなってくれる。
けど一人、
また一人と
人がいなくなる度に、
何のためにこんな事をしていて
ここにいるのか分からなくなる。
毎日
誰がどう私を倒すのか
考えて考えて
気づくと倒されたいと思っている。
定番のボスである魔王。
私には荷が重すぎる役割だった。
生まれた時から
両親がおらず、
生まれるといっても
そこにいる
私が私であると思う私は、
既に歳をとる魔王であった。
世界中の人を怯えさせ
脅し、操り、奪い、
時にはモンスターを生み出し
襲わせる。
人々の憎しみの対象に
私はなっていった。
役割を全うしようと私なりに…。
魔王は邪悪でいなくちゃいけない。
だから私がぼやぼやとしてたら
ダメなのに。
この重く太い鎖が
私を魔王の座から縛って逃さない。
"Good Midnight!"
ある時一人の猫又に
ネブラスオオカミを紹介された。
ネブラスオオカミは
他者をネブラスオオカミにし、
群れを作るのだが
あいにく私は頂点なので
群れることは不可能ということで、
願いを一つ
敬意を持って承ると言われ、
こう願った。
遠くへ行きたい。
勇者に倒されることも、
魔王の役割も
何もかも捨てて。

7/2/2025, 3:48:53 PM

遺跡のクリスタルの床を
コツコツと歩く少女は
どこからともなくピアノを見つけ
身体を操られているかのように
スラスラと弾いていく。
そこには
優雅さがあったが
どこか悲しみもあった。
たった一人で
故郷へ戻ってきたかのような。
しかし少女は
枯れることのできない花。
そう、不死身。
少女は、
不死身の身体を治すために
永遠の命を捨てるために
故郷を出たが、
方法が見つからず
戻ってきたのだ。
戻ってきた頃には
200年ほど経っていて
故郷は
家族や友人はもちろん、
人一人いない静かな所となっていた。
大昔からある、
遺跡と合体している教会では
屋根は崩れ、
ツタや苔が好き放題生え、
ピアノだけを残して
遺跡となっていた。
雨が降ってもお構い無しに
少女は弾き続ける。
このまま
命が尽きればいいと思った。
このまま
自堕落にいたらいいと思った。
だってもう
少女の名前を知る者も
少女より年上の者もいないのだから。
悲しくても
涙は流れてこない。
私はまだ
誰かに涙を拭って欲しかったのに。
そう訴えるかのように
ピアノが弱く
ゆっくりになる。
いやまだ負けちゃダメだ。
対抗するように
ピアノが力強く
高い音と低い音を使い分けていく。
あと何百年、いや1000年経っても
きっとまだ少女の命は尽きない。
"Good Midnight!"
次はどこへ行けばいいのだろう。
どこを目指せばいいのだろう。
寂しげな目をする少女は
7時間迷走するピアノを弾き続けた。

7/1/2025, 3:59:22 PM

記憶の中はいつも
夏の匂いがする。
あの何とも聞き取りにくい
盆踊りの音楽。
夜なのに提灯で明るくて
屋台がいくつもあって
ヨーヨー釣りに夢中な子どもも見えて。
砂利の上をザッ、ザッ、と
下駄で歩く音。
ふと通りすがったのは
狐に似た人。
今日は特に用はないので
話しかけようとは思わない。
人混みを避け
屋台から外れた所に出る。
祭り用の下駄は
いつもの下駄とは少し違うから
歩きにくくコケやすい。
下駄だけでも、と
いつもの高下駄に履き替える。
高下駄というのは
下駄よりも台が高い履物のこと。
重くてこっちの方が歩きにくい
という人もいるが、
私は履きなれている方が楽。
浴衣も少し着崩し、
いつもの着物と
ほぼ変わらない着方になってしまった。
黒いインクを水で洗うと
綺麗な白髪が露になった。
九尾と間違われることが多いが、
しっぽとプライドだけのやつと
一緒にされちゃあ困っちゃうなぁ。
そんなことを言いつつ
しっぽの数を負けているのだけれど。
猫又の私は
狐に似た人と
フクロウに似た人に会いに
わざわざ化けて出てきた。
狐に似た人とは先日話したので
次はフクロウに似た人に会いに行こうかと。
"Good Midnight!"
あれから事は順調に進んで
私ももう化ける必要がなくなった。
けどあの化けていた時間は
共に過した時間は
忘がたい記憶の匂いとなって
染み付いて離れなかった。

6/30/2025, 3:49:13 PM

カーテンを通して見えるのは
健気に咲く
一つ前の雨の季節の花。
梅雨明け、というのは
早いもので
夏が来たというような
ジリジリと暑い日差しが
部屋に差し込んでいた。
今日は寝坊。
何にもやりたくないと思ったので
水を一杯飲んでから
二度寝した。
でも暑くて
エアコンをつけるために
また起きた。
外は今にもセミが鳴きそうな暑さ。
気を取り直して三度寝をすると、
今度は寒くて起きた。
リモコンを見ると18℃。
26℃まで上げて
風量を少し下げた。
さて四度寝。
次はお腹がぐ〜っと鳴った。
そういえばお腹が空いてたんだった。
けど今日の私は
食べることにすら
エネルギーを使いたくない。
短期冬眠…というか
短期夏眠を取る事に。
1日中寝たい。
寝て起きたら世界滅んでて欲しい。
"Good Midnight!"
大嫌いだけど大好きな
夏の朝と夜。
寝苦しい夜と言わずに
いい真夜中になりますように。
五度寝中の私は
夢の中でそう願った。

6/29/2025, 3:10:24 PM

劣等感が青く深く
私に染み付いて
手放したくない
日常のちょっとした幸せ、
例えば
白い服に何か零したと思ったら
ギリギリのところで
お皿がキャッチしていたときとか。
そんなのを手放してしまうかもしれない。
何も考えられなくなって
呼吸の仕方さえ忘れて
何をするにも息切れして。
手放したくないという感情が
欠如してしまうかもしれない。
趣味もやるべきことも
何もかも他の人より劣るなら
最初からやらなければよかったと、
全ての行動は無駄だったのだと。
ここで踏ん張って
手放さないと決めたものは守り抜き、
思考を止めず、
劣等感など抱く隙を与えない人が
前に進めるんだって
よく分かってるのに。
ずっと同じことの繰り返しで
もう分かっているのに。
"Good Midnight!"
踏ん張れない私の、
青く深かった劣等感は
いつしか黒く海溝のように
大きな穴を開けていく。

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