記憶の中はいつも
夏の匂いがする。
あの何とも聞き取りにくい
盆踊りの音楽。
夜なのに提灯で明るくて
屋台がいくつもあって
ヨーヨー釣りに夢中な子どもも見えて。
砂利の上をザッ、ザッ、と
下駄で歩く音。
ふと通りすがったのは
狐に似た人。
今日は特に用はないので
話しかけようとは思わない。
人混みを避け
屋台から外れた所に出る。
祭り用の下駄は
いつもの下駄とは少し違うから
歩きにくくコケやすい。
下駄だけでも、と
いつもの高下駄に履き替える。
高下駄というのは
下駄よりも台が高い履物のこと。
重くてこっちの方が歩きにくい
という人もいるが、
私は履きなれている方が楽。
浴衣も少し着崩し、
いつもの着物と
ほぼ変わらない着方になってしまった。
黒いインクを水で洗うと
綺麗な白髪が露になった。
九尾と間違われることが多いが、
しっぽとプライドだけのやつと
一緒にされちゃあ困っちゃうなぁ。
そんなことを言いつつ
しっぽの数を負けているのだけれど。
猫又の私は
狐に似た人と
フクロウに似た人に会いに
わざわざ化けて出てきた。
狐に似た人とは先日話したので
次はフクロウに似た人に会いに行こうかと。
"Good Midnight!"
あれから事は順調に進んで
私ももう化ける必要がなくなった。
けどあの化けていた時間は
共に過した時間は
忘がたい記憶の匂いとなって
染み付いて離れなかった。
7/1/2025, 3:59:22 PM