これからも、ずっと。
「春よ来い」 作詞 松任谷由実
淡い光立つ 俄雨
いとし面影の沈丁花
溢るる涙の蕾から
ひとつ ひとつ香り始める
それは それは 空を越えて
やがて やがて 迎えに来る
春よ 遠き春よ 瞼閉じればそこに
愛をくれし君の なつかしき声がする
君に預けし 我心は
今でも返事を待っています
どれほど月日が流れても
ずっと ずっと待っています
それは それは 明日を越えて
いつか いつか きっと届く
春よ まだ見ぬ春 迷い立ち止まるとき
夢をくれし君の 眼差しが肩を抱く
夢よ 浅き夢よ 私はここにいます
君を想いながら ひとり歩いています
流るる雨のごとく 流るる花のごとく
春よ 遠き春よ 瞼閉じればそこに
愛をくれし君の なつかしき声がする
春よ まだ見ぬ春 迷い立ち止まるとき
夢をくれし君の 眼差しが肩を抱く…
昨日、護国神社にお詣りしました。
桜が満開で、祖母と祖母の若き日のじゃなかった方の恋愛の想い出話を思い出し満開の空を越えて祖母の声と眼差しを思い出しました。
祖母の元彼は護国神社に居られます。
昔、古い写真を見せながら、まだ10代にもならない私に語ってくれた 祖母の恋物語
その実らなかった恋と恋人を語る祖母の横顔が何時ものどの表情よりも優しく美しかったことを覚えている。
それから十数年が経ち、私が20代になった春に祖母はその写真を私に手渡し、
「もしも、ばあちゃんが死んだらこの写真 おばちゃん(祖母の娘)にも誰にもナイショで ばあちゃんに持たせて」
ばあちゃんの密約の申し出に私は
「分かった、でもひとつお願いがあるの、1枚私に頂戴」
その写真は何枚かあり、祖母の昔ばなしに感涙した私は、若くて可愛い見たことの無いような笑顔の写真が欲しくなって頼んだのだ、祖母は1枚私にその写真をくれた。
猫を抱いた祖母と彼の写真。
そして、別れの日私は叔母には告げず残りの数枚の写真を入れた小さな包みを祖母の胸に抱かせた。
ばあちゃん、じいちゃんと結婚してくれて有り難ね。
お父さんとおばちゃんを産んで育ててくれて有り難ね。
おかげで、私はここにいます。
お疲れ様です、あっちで彼と再会してね。
じいちゃんはどうするのかなぁ…!
きっと、じいちゃんも待ってるんじゃないの?
よく、ばあちゃんが言っていた
「共に生きる幸せも幸せ、添えずに懐う幸せも幸せ」と彼の話しをした後に呟いた言葉を思い出した。
子供だった私は、ちょっとじいちゃんを可哀想にと思いながら、ばあちゃんの横顔がいつになく艶々して見えていたことを思い出した。
今ならなんとなく分かる気がする、共に生きる幸せと懐う幸せ…。
ばあちゃん、あの写真は誰にも見せずに仕舞ってます、ばあちゃんとの約束だから。
これからも、ずっと。
2024.4月8日
心幸
「幼馴染み」
二人は同じ年に同じ病院で春と夏に生まれて、双子の姉妹のように育った。
大人しくて優等生学級委員の春と、天然で悪戯好きな夢想家夏。
おばあちゃん同士も同級生で気がつけば、ばあちゃんの引く乳母車に乗せられて二人並んで笑っていた、真っ赤な夕焼け空の下。
口喧嘩が得意だった夏は、眼鏡の優等生春をからかう男子を片っ端から、その口で叩きのめしたのだった、ついたアダナは口だけ大将。そんな二人は塾の帰り道よく自転車で海へと走った真っ直ぐに続く青い青い田んぼ道、初夏の風は潮風と青い田んぼと青く波打つ苗の匂い。その匂いを揺れる髪に纏わせ春と夏は海岸に着くと自転車を降り堤防に座る。
「もう、そろそろかなぁ」
「ジュッていうね」
ジュッというのは、水平線に沈む太陽だ。
これを、見るために二人は塾が終ると急いで海岸に向かう。
内海の穏やかで静かな海にゆっくりと沈む夕日
は、いつからどちらが言い出した訳でもなく、神様のお風呂。
1日の疲れを取るように、燃えてる太陽神は「ジュッ」という音をたてて
「あゝとでも言いそうに海に浸かるの」夢想家夏のそんな空想話を春は喜んで聞いた。
二人は、そんな神様のお風呂を見ながら、明日の約束をする、、そんな日がずっと続くと疑わなかった。
卒業証書を抱いて、沈む夕日を見た。
バラバラの人生は走り出す。
季節が春から夏へ秋から冬へ移り行くように。
それでも、たまに何の約束もなく夕暮れの故郷の海岸で二人は出会う時がある。
べつに、どちらから誘う訳でもなく。
並んで堤防に座り
「ジュッって聞こえるね」
「今日も、いちにお疲れ様です」
そう言い合って
沈む夕日を眺めて
それぞれの家路につくのだ。
2024.4月7日
心幸
「カサブランカのネタバレ」
「君の瞳に乾杯」とかもう古すぎる気障な台詞が印象的な古い映画を思い出した。
あの映画のヒロインは若く美しく無垢でそして愚か。この最後の愚かさを理解するのに、女は随分と歳月を費やした。
志それを愛だと思った若い女は、革命の獅子を夫に選んだ。ただ、好きにならずには要られないという、衝動的な若い情熱に満ちた熱を酒場の男から教えられるが、勇気が持てず躊躇し志を選び、密かに密約した列車に乗らなかった。
時は過ぎゆくままに流れ再び再会した二人はやっぱり惹かれ合い恋に落ちる。
今度こそはと、彼女はその美しい瞳に涙を溜めて男を見つめる。
「君の瞳に乾杯」はそこで生まれる使い古されたような気障な男の台詞だが。
そこからカサブランカ・ダンディは生まれた。
ボギーあんたの時代はよかった
男のやせがまん粋に見えたよ♪である。
べつに、虐待でもなんでもないのである。
想い出ばかり積み重ねても
明日を生きる夢にはならない
男と女は承知の上で
つらい芝居を続けていたよ…
男は女を連れて行かなかった
同士と共に生きろと、彼には君が必要で君は彼を支えることが出来ると告げ、政府に追われる革命の獅子と共に生きろと諭すのである。
確かに、男のやせがまんが粋に見えるのである。
阿久悠は流石だ。
二人を逃がした男は、何も喪わせたくないと願った女の瞳に映っていた自分の姿、男はそれを守りたかったのではないだろうか?そのためにつらい芝居もやせがまんもする。その気障が粋に見えた時代の恋物語は、互いの目映る自分の姿を守れるかという純粋さを今に伝えているのではないだろうか。
君の目に棲、君の目に映る、自分を嘘でもやせがまんでも守る。
それも、ひとつの愛し方愛され方なのかも知れない。
もう一度、君の目が見たかったと最後の最後に呟けたなら、この上ない幸せなのかも知れない。
最後に君の目を見つめたら、君が見たわたしが映っていた君が見た全てのものと共に。
ちょっと手直しの再投稿。
2024.4月6日
心幸
「父の想い出」
父は文学青年の成れの果てのような人で、夜よく星を眺めながら、父創作の実は色んな名作を足して脚色したような物語を聴かせてくれた。
随分田舎に住んでいたので、その頃夜空の星は近くて、星はいっぱいあって手が届きそうで、そしてまた、吸い込まれてしまいそうな得体のしれないゾクゾクとした怖さもあった。
夏の夜は縁側に座り父の横でその星空を眺めながら父の物語を聞いた。冬の夜は、深夜勤務で真夜中に出勤する父は私が受験勉強や試験勉強をしていると、夜食のラーメンを部屋に持って来る。
「早く寝ろよ」と声をかけ自分は仕事に向かう。ラーメンを啜りながら、父が出て行くバイクの音を聞き窓を開け「いってらっしゃい、気つけてね」と声をかける、なぜだか何時も心配で、もう会えないんじゃないかと不安になって勢いよく窓を開ける。深夜の冷たい風が突き刺さるのを跳ね返すように大きな声で。
見上げると吸い込まれそうな満天の星空の下に小さな小さな私たち親子がいた。
父が身罷った初七日忌の夜に、私はこの星空の夢を見た、父が夢枕に立ち物語を聴かせてくれていた時のように私の髪を撫でたその感触を今も覚えている。
「行かないで…」何故だかそう呟いた瞬間父は優しい笑顔を浮かべて消えた。
目を開けると私の頬は涙で濡れていた…
冬の夜。
窓を開ければ、子供の頃に父の隣で見上げた満天の吸い込まれそうな星空が広がっていた。
あれから何年も経ち、あの頃と違い星空は随分遠くなり星の数も少なくなったような気がする。
それでも、たまに寂しくなると星空を見上げながら父を想う。
星空の下で。
2024.4月5日
心幸
燎平は、大学時代を新設の大学で一からテニス部を作りあげて行くことに、その仲間たちと奔走した。
何でもない、青春の日々の一瞬一瞬が今走馬灯のように脳裏を過ぎゆく。
燎平とその仲間たち、親友でありテニス部の初代キャプテンを務めた 慎一。
燎平のマドンナ夏子とその親友でもあり燎平に片想いの裕子、テニス部のヒーローだった克己
と異端児の朝海。
プロ野球選手の夢を諦めてミュージャンを目指すガリバー。
それぞれの葛藤と友情そして恋。
よく、転がっている青春時代の残り香は初夏の木立を通り抜けた日を思い起こさせる…。
裕子は、燎平とすれ違ったまま見合い結婚をします。
歌手デビューしたガリバーは、足もとをすくうように女に溺れチャンスを逃してしまいます。
そして夏子は、略奪愛から駆け落ちをし、その男に捨てられました。
燎平と夏子は卒業試験の追試を受けました。
二人並んで帰る帰り道、夏子は燎平に
「私みたいな傷物はいや?」と聞きますが燎平は答えることが出来なかった…。
夏子と別れた後 燎平考えました。
皆、大切な何かを喪った。
でも、自分だけは、何も喪わなかったのではないか。
何も喪わなかったということは、実は数多くのかけがえのないものを喪ったと同じではないだろうか。
燎平は、何も喪わなかったという喪失と混沌とした青春時代の哀しみを身に沁みて味わったのであろう。
風が変わって
季節が変わったから
歩いて行こう
それでいい。
宮本輝著書 「青が散る」引用。
2024.4月4日
心幸