「幼馴染み」
二人は同じ年に同じ病院で春と夏に生まれて、双子の姉妹のように育った。
大人しくて優等生学級委員の春と、天然で悪戯好きな夢想家夏。
おばあちゃん同士も同級生で気がつけば、ばあちゃんの引く乳母車に乗せられて二人並んで笑っていた、真っ赤な夕焼け空の下。
口喧嘩が得意だった夏は、眼鏡の優等生春をからかう男子を片っ端から、その口で叩きのめしたのだった、ついたアダナは口だけ大将。そんな二人は塾の帰り道よく自転車で海へと走った真っ直ぐに続く青い青い田んぼ道、初夏の風は潮風と青い田んぼと青く波打つ苗の匂い。その匂いを揺れる髪に纏わせ春と夏は海岸に着くと自転車を降り堤防に座る。
「もう、そろそろかなぁ」
「ジュッていうね」
ジュッというのは、水平線に沈む太陽だ。
これを、見るために二人は塾が終ると急いで海岸に向かう。
内海の穏やかで静かな海にゆっくりと沈む夕日
は、いつからどちらが言い出した訳でもなく、神様のお風呂。
1日の疲れを取るように、燃えてる太陽神は「ジュッ」という音をたてて
「あゝとでも言いそうに海に浸かるの」夢想家夏のそんな空想話を春は喜んで聞いた。
二人は、そんな神様のお風呂を見ながら、明日の約束をする、、そんな日がずっと続くと疑わなかった。
卒業証書を抱いて、沈む夕日を見た。
バラバラの人生は走り出す。
季節が春から夏へ秋から冬へ移り行くように。
それでも、たまに何の約束もなく夕暮れの故郷の海岸で二人は出会う時がある。
べつに、どちらから誘う訳でもなく。
並んで堤防に座り
「ジュッって聞こえるね」
「今日も、いちにお疲れ様です」
そう言い合って
沈む夕日を眺めて
それぞれの家路につくのだ。
2024.4月7日
心幸
4/7/2024, 12:43:15 PM