渚雅

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2/2/2025, 9:55:15 AM

大嫌いだった。

今でも、好きにはなれない。ああ、でも。大人になった今ではそうそう使うことがないのは、歳をとった利点のひとつかもしれない。


『バイバイ』
『さよなら』

別れの言葉は不得意だ。
いっそ、嫌悪しているといっても過言ではない。それらは未来が見えないから。すべてから拒絶され見放されているような心地になる。

おおげさ、なのかもしれない。被害妄想と言われればそれまでだ。でも、それは。

帰って来なくなった人物を知らない、幸せな人間だから言える正論だ。目の前で大切なものが失われてゆく無力感も喪失感もなにも経験したことのない、素晴らしい人生を生きてきた恵まれた存在だけ。誰しもに明日が来ると無条件に信じられる人だけ。


『バイバイ』
『さよなら』

当たり前を奪い去っていったそれは、酷く冷たい響きをしていた。

12/19/2024, 1:21:42 PM

──331.5 + 0.6t



冬は、嫌いだ。

日が短くて天気も悪くて、曇天か雨かどちらにしても蒼穹は遠い。雪は綺麗ではあるけれど音もなく降り積るそれはどこか近寄り難い。

どうしようもなく温もりが恋しくなるけれど触れ合う熱は傍にはなくて。毛布を握りしめて巻き付けては深く息を吐くばかり。それすら白い水蒸気に変わって、視覚すらも熱を奪い去ってゆくよう。

震える指先でタップしたその連絡先は繋がらなくて。さみしい、なんて零れた言葉はただ静寂に飲まれた。


12/9/2024, 3:00:32 PM

かつて、小さな子どもだった頃は、世界は自分を中心に回っていて。至極当然のように誰かに甘えて寄りかかっては、優しく手を引かれては守られていた。

そこには危険なんかほとんどなくて、たとえ転んだとしても手を差し伸べて慰めて手当をして、失敗も貴重な経験だと見守られていた。

安全で快適な箱庭のなか自由でのびのびと遊んでは日々を繰り返して、それを肯定されて生きてきた。



けれど、今は。──ひとり。

仕方がないことなのだ。守られるべきは小さな、か弱い存在であって 独り立ちの済んだ個体がいつまでも巣に蹲っているなど赦されるはずもない。

羽を手に入れ風を読んだその日から世界は広がってしまったのだから。それだけの知識も実力も確かに授けられているのだから。


でも、それでも。

どうしたって、触れる熱のない指先が凍えてしまう。大人だって孤独は寂しい。正解なんて分からない。進むべき道も知りはしない。情報の波に惑わされてしまう。

ただ歳を重ねただけでは、足りない。なにもかも満たされなくて恐ろしくて目の前すら見えない。本当に何もわからなくて身動きができない。そんな夜がある。


だからお願い。叶うのなら どうか。
どうか、手を繋いで───



テーマ; 【手を繋いで】

10/29/2024, 3:00:42 PM

もしも、あの日。
もしも、あの時。
もしも、あの場所に。

戻れたら。やり直せたら。


そんな非現実があり得るとしたら、そうしたら、何か変わるのだろうか。何か変えられるのだろうか。

後悔を、失敗を、未練を。取り返すことを、その努力をきっと精一杯行うのに。それなのに、やはり、時間は巻き戻りはしない。過去は過去だ。




けれど。未来──現在から続くその時間は、確かにこの手で描き換えることができる。

後悔は遅すぎる。それでも、かつて舐めた辛酸を糧に成長する権利は今ここだけにあるのだから。せめて、

せめて。躊躇わず己の望みの方へ一歩踏み出すと決めた。




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テーマ; 【もうひとつの物語】

10/29/2024, 4:54:33 AM

ふと、疲れてしまう時がある。

たぶんそれは、普段目を逸らしている『疲れ』というものを認識してしまった瞬間なのだと思う。


吐いた息が溜息になってしまうこと。視線が下を向いてしまうこと。朝起きるのが億劫になってしまうこと。食事すらも抜きたくなってしまうこと。

日々を丁寧に一歩づつ歩んではいても、どうしたって、どうしようもなく、蹲って殻にこもってしまいたくなる。そんな瞬間がある。


(呼吸ってどうやってしたっけ)

無意識に前を向いて。無意識に努力して頑張って。無意識に限界を視界外へ追いやる。

その、無意識だって、労力は必要なこと。それは変えられようのない事実で。でも気づいてしまえば動けなくて。そんな瞬間に自分が今何をしたいのかが理解できなくなる。

やらなくちゃいけないこと。するべきこと。片付けるべきもの。したほうがいいこと。etc....... それらはわかる。動け、と 脳は指示を出してくる。

でも、やりたいこと、目標、夢......そんなものを見失って。自分の立ち位置がわからなくなる。


(そもそも、なんで、息、しなきゃいけないの)

Should,
Must,
Need,

主語すらない。理由も知らない。望みもない。なのに何故……


(……わからない、や)

答えは未だ知りもしない。

それでも、盲目の目で眩いばかりの朝日を認識した。今日がまた始まる。


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テーマ; 暗がりの中で

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