渚雅

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大嫌いだった。

今でも、好きにはなれない。ああ、でも。大人になった今ではそうそう使うことがないのは、歳をとった利点のひとつかもしれない。


『バイバイ』
『さよなら』

別れの言葉は不得意だ。
いっそ、嫌悪しているといっても過言ではない。それらは未来が見えないから。すべてから拒絶され見放されているような心地になる。

おおげさ、なのかもしれない。被害妄想と言われればそれまでだ。でも、それは。

帰って来なくなった人物を知らない、幸せな人間だから言える正論だ。目の前で大切なものが失われてゆく無力感も喪失感もなにも経験したことのない、素晴らしい人生を生きてきた恵まれた存在だけ。誰しもに明日が来ると無条件に信じられる人だけ。


『バイバイ』
『さよなら』

当たり前を奪い去っていったそれは、酷く冷たい響きをしていた。

2/2/2025, 9:55:15 AM