そこは閉ざされた世界で 小さくて閉鎖的,部外者の侵入を拒む未完成で不完全かつ出来上がった空間だった。
まだ幼かった私にとって"学校"という名の牢獄は1日の半分を過ごす場所。けれど,牢獄の名に反して無法地帯なそこは気にくわないものを排除するために 囚人たちが結束して私を虐げる。
彼らにとって私はいらない それどころか害を及ぼす異物であったのだと思う。そこには特別な意味などありもしない。ただ単純に外から侵入した何かを許容できるように仕組まれていなかったから。
だから私は いないもの であった。
『どうして』
そう 何度問うたか。
『ごめんなさい』
魔法の言葉も無意味で。
「離れてても友達」
ねぇ いまさら。あなたの言葉なんか信じられないよ。きっと一生。
テーマ ; «忘れたくても忘れられない»
それは今を生きている人間の中で,当たり前の日々を過ごし なおかつ幸せを抱えている。そんな幸福で恵まれた一部の大多数の人達だけが持つ傲慢な願い。
有り難味なんてほとんど感じてなくて,誰も彼も当然のようにその残酷な言葉を大した意味もなく口にしている。
……かく言う自分すらも無意識に。
"あいつ"にはもう来ない日なのに。そんなことも知らずに言ってしまった。
『また明日』なんて。もう謝罪も言えやしない。遅すぎた後悔は届くことはない。
テーマ ; «明日もきっと»
「さようなら」
その言葉が君の別れの挨拶。『またね』でも『バイバイ』でもなくて,必ず『さようなら』と君は言う。
まるでこれが永遠のお別れみたいな そんな挨拶を君はいつも選ぶ。次,なんて また,なんて約束できないとでも言うように。
ん と発音する時のように結ばれた唇。伏せられる睫毛。真っ直ぐに揃えられ伸ばされた指先。そのどれもがいやに丁寧な動作で妙に不安な気持ちを掻き立てる。
スっと ふとした瞬間に消えてしまって,これが本当のお別れに 別離になってしまうんじゃないかって。考えすぎだと臆病だと笑ってくれていい。むしろそうしてくれたのならどれ程気楽になれるのだろうか。
あぁ,でも。きっと君は……
否定してくれないのだろうね。
それはきっと初めから定められた運命。赤い糸はいつか解けて跡形もなく消え去ってしまうから。
それも遠くない日に。
テーマ ; 別れ際に
『その日はまるで無理に笑みを浮かべたようなそんな蒼の広がる空が浮かんでいた。いっそ消えてしまいそうなほど清々しく瑞々しい空気が肌を撫でる。手を伸ばせば届きそうで,けれど掴んだら消えてしまいそうな透明な色彩はどこまでも気高くなにかを拒絶していた』
"泣いている空"の表現 そんな課題に対してある一人の生徒が出してきた作品が先の文章であった。
大概の生徒は雨の記述をした中で,その作品だけが蒼空の中に涙を見いだした。目には見えない雫を,流れてはいないその滴を 笑みと書きながら泣いているのだと。
それがまるで言葉のない糾弾のように思えた理由にはきっと思い当たってはいけないから。そうやって見上げた空は悲しいくらい美しい蒼色をしていた。
テーマ ; «空が泣く»
どんな小さなことでも,つまらない日常でも "シアワセ"を見つけられるそんな存在がいた。
例えば雲ひとつない空が綺麗だとか,例えば見知らぬ花が咲いていたとか,例えば水溜まりに映る景色が幻想的だとか。道端で猫に会ったとか蝶々が髪飾りみたいだったとか。
例を挙げればきりはないけれど,いつだって笑顔を絶やさないそんな人物がいた。花のように微笑んで不条理も不平等も綺麗でない物なんか知らないような,穢れひとつない そんな誰かが。
正直に言えば,羨ましくて妬ましくて目障りだった。不幸など見えもしないような箱入りのお人形さんが。苦労もせずに与えられたものを受け取っているその人物が。
きっと黒く淀んだ感情は慣れるほどにぶつけられてなお表情すら崩さない余裕が。他人を羨むことも荒んだ心にすり減ることもない素直さが。愚直なほどに気高く割り切った精神が憎かった。
あんな風には生きられないから。全てに素直に感謝して楽しんで疑問を持って赦して。当たり前を成し遂げて,当たり前を抱き締めて。日々を一時刹那をも無駄にしない生き様が眩しかった。
……だから。
些細なことでもいい。ほんの少しでいい。貴方に近づけたらと そう願った。
テーマ «些細なことでも»