不安そうにしている僕の様子に気がついたのか彼女は足を止め、話し始めた。
「これから行くところはね、私の秘密の場所なんだ。そこは私にとって大切な場所で守りたい場所でもあるんだ。君にもきっと気に入ってもらえると思う。」
「そっかぁ、でもこんな暗い場所が大切な場所なの?」
そう言うと彼女は吹き出したように笑い出した。それから息を整えてきょとんとしている僕に彼女は言った。
「暗い場所なんかじゃないよー。あのね、もう少し行くと出口が見えてきると思うから、その先が大切な場所なんだ。なーんにも教えてなかったもんね。」
「本当だよー。もういつも何も教えてくれてくれないんだからー。」
そう言うと笑って彼女は言った。
「なら手でも繋ごうか、ちょっと怖いんでしょ?」
不意を突かれ驚いたが恐怖心には勝てず素直に繋ぐことにした。ニヤつきながら話す彼女と繋いだ手の温もりに安心したのか、気持ちが落ち着いていった。
しばらく歩くと遠くのほうに光が見えた。きっと出口だろう。あの光の先に彼女にとって大切な場所がある。どんな場所なのだろう?彼女のことだからきっと素敵な場所に違いない。期待と好奇心を胸に光を目指し歩き続けた。
〜続く〜
「手を繋いで」
ある日の夜
「明日は少し遠出するよ?準備よろしくね。」
唐突にそう告げられた。
「うん、でもどこに行くの?」
「それはお楽しみだよー。」
「お楽しみかぁ、なら楽しみにしとくよ。」
「うん!」
そう言って彼女は先に寝てしまった。彼女らしいと思いつつ、僕も旅支度をし明日に備えて早く寝ることにした。
次の日
「今日は予告していた通り旅に出ます。準備はいい?」
「うん。」
そういうと彼女は僕の手を引いて歩き出した。新天地に向かう期待と知らない場所へ連れて行かれるというドキドキでいっぱいだった。空はというと少しの雲はあるものの一目で快晴と言える天気で目を瞑れば鳥の囀りが聞こえてきそうなほどであった。
途中まではいつも散歩で向かう山沿いの道を進み、何ら変わらない景色だった。だが今日はいつも渡る橋を渡らず直進し、さらに山奥に進んだ。進むにつれて人影もなくなっていき、木が生い茂った道になっていった。僕は薄暗い場所にいる恐怖心と本当に道が合っているのかという不安を感じた。彼女はというとたわいもない話をしていつも通りニコニコで歩いている。そのおかげかまだ足を止めずに進むことができた。
しばらくすると小さな洞窟のような場所に着いた。
「ここはちょっと暗いから明かりを灯すね。」
そう言うと魔法なのだろうか、彼女は手に光の玉を出し前方を照らした。小さくて丸い光だったがかろうじて足元は見えたので慎重に進んだ。僕はこの世界にもこんな場所があったのかという驚きと突然暗く狭い洞窟に連れて来られたことでますます不安や恐怖を感じた。一度彼女にどこへ向かっているのか聞いてみたが秘密だよっと返されてしまいとにかく進むしかなかった。
〜続く〜
「どこ?」
いつの間にか限界を超えてしまう癖がある。
その度にボロボロになってしまう自分がいた。
いつも孤独感や劣等感に苛まれる自分がいた。
そんな僕を変えてくれたのは彼女だった。
「頑張れるのはすごいことだよ?でーも、無理だけはしないでね?私はそれだけが心配だよ?」
あったかい炬燵みたいな言葉だった。
聞いた瞬間、涙が溢れたのを覚えている。
きっと忘れることはないだろう。この言葉にこんなにも救われていること。今、僕を救ってくれているのは紛れもなく彼女だ。俯いても背中を押してくれる。そばにいてくれる。隣で笑ってくれる。そしてどこか幼くて、でも強くあろうとしてつまずきそうになってる君にいつも見惚れてしまう。その度にいつも気付いてしまう。この気持ちに抗えないことに。彼女を守りたいことに。
だから伝えよう
まっすぐな君に
いっぱい笑ってくれる君に
「好きだよ」って
「大好き」
「叶わぬ夢」を目にした時、ふと思った
夢は簡単に叶わないからこそ「夢」と言えるのだと思う。夢を叶えるために人は努力し、時に喜怒哀楽の感情を露にする。たとえ夢が叶わなくとも夢を叶えるために努力したことは決して無駄にはならないはずだ。
だから僕はこれからも夢に向かって精進していこうと思う。
新しい自分に出会うために
新しい自分に生まれ変わるために
「ねぇねぇ、見てあれ。」
「ん?どこどこ?」
「ほら、あそこ。あの小さなお花屋さん。」
「本当だぁ!めっちゃ綺麗!」
気付いた時には駆け出していた。
彼女もついてきてくれている。
「いい匂い。よく見つけたね。」
「うん、たまたまだけどね。」
目を輝かせている僕を彼女は待っててくれている。彼女も楽しそうだった。
「お?気に入ったのある?よかったらプレゼントするよ?」
「ありがとう。んーどれも綺麗で選べないよ。」
「ならこの小さな白いお花はどう?アサビって言うんだけど。」
「可愛くて綺麗!でもどうしてこの花なの?他にもあるのに。」
そう言うと彼女はニコッと笑って答えた。
「アサビの花言葉は『あなたと二人で旅をしましょう』って言うの。だからこれからも一緒に私の冒険に付き合ってくれる?」
それを聞いた僕は胸がいっぱいになった。
「うん!もちろんだよ!ありがとう。嬉しい!」
アサビを受け取った僕は嬉しさでいっぱいだった。
きっと僕って単純なんだと思う
一緒に旅をしているだけ、側にいるだけ、笑ってるだけ、それだけ、それだけでいいんだって思う
こんなにも幸せなことを大事にしたい
好きになれたことを大切にしたい
この気持ちだけはいつまでも忘れないようにアサビの優しい香りと一緒に胸の奥にしまっておこう
いつでも思い出せるように
一生の宝物になるように
「花の香りと共に」