ある日、彼女が問いかけてきた。
「ねぇ、私たちってこれからどうなると思う?」
不意を突かれた僕は戸惑った。
「んー、わからないよ。でも僕たちの旅は始まったばかりだよ?大変なこともいっぱいあるかもしれないけど乗り越えていこうよ。」
「そっかぁ、うん、そうだよね。乗り越えるか。」
思っていた答えと違っていたのか彼女の口調と表情からは不安が垣間見えた。
もどかしかった。
きっと彼女はきっと僕とは違う世界を見ていてもっとずっと具体的に不安なんだ。この世界にやってきたばかりの僕は今、彼女について行くことしかできない。それじゃダメだってこともわかっている。だから今彼女を不安にさせてしまっていることが悔しい。きっとまだまだ足りないんだ。頑張らないと。いつか彼女の横に立てるように。
あの日、誓った自分との約束を果たすために。
「心のざわめき」
あの日、君がいなくなった日。今も忘れない。
「またね。」
「また帰ってくるよね?」
「うん」
そう頷いて飛び去っていった君。
その時の表情からはいつものたくましい彼女とは違い寂しさが垣間見えた。
それからもうどれくらいの時が経ったのだろう…
茨の道をもがいてもがいてどうしようもなくなりそうな自分がいる。
どうしてだろう。ドキドキして手が震えてどうしようもなくなってしまいそうだよ。彼女のほうがきっと何倍も戦って苦しいはずなのに。なのにどうしてこんなに切なく苦しいの…
お願い…彼女を連れて行かないで…
僕はまだ何も返せてない
何にもなれていない
こんな結末なんて嫌だよ
一生に一度のお願いでいい
お願いだよ…
「君を探して」
迷って蹲っていた僕に彼女は手を差し伸べてくれた。
「私についておいで。」
天使みたいな彼女は僕を色んな場所へ連れて行ってくれた。彼女はずっと小さいはずなのにたくましく見えた。そんな僕は手を引かれるがままだった。彼女が見せてくれた景色は壮大で絶景だった。僕はその景色に息を呑んだ。目を輝かせている僕のとなりで彼女はニコッとして言った。
「ここは私の好きな場所なんだ!気に入ってくれて何よりだよ。」
その時間は今も鮮明に覚えている。
僕もそんな風になりたい。
だから頼ってばかりの自分はもう終わり。
今度は僕が彼女を引っ張っていきたい。
僕もっと頑張るよ。
かっこわるくたっていい。がむしゃらでいい。
手を引く側はどんな景色だろう?
誇らしい?頼もしいかな?
わからない、でもきっと彼女は喜んでくれるはずだ。
だって僕たちの冒険はここから再び始まるのだから。
「終わり、また初まる、」
新月の日の夜
「ねぇ!あの星光ってて綺麗!あの星はなんて言うの?」
「あの星はおとめ座のスピカだよー。」
「へぇーあれがスピカなんだ!じゃあその上のほうにある星は何?」
「あれは牛飼座のアークトゥルス。スピカとその星を曲線で結んで延ばした先にあるのが北斗七星。この曲線を春の大曲線って言うんだ。」
「へぇー!!すごい!なんで知ってるのぉ!!」
彼女は目を輝かせていた。
「僕、星を見ているとちょっと立ち止まることができるんだ。」
「ちょっと立ち止まる?」
「今流れてくれる時間は止まってくれない。でも僕が星空を見上げている間は星たちがそこに止まって待ってくれている。その時間は僕にとって自分自身と向き合える大切な時間になってるんだ。だからその星たちの名前を知りたいって思ったんだ。」
「すごいねぇ、私そんなふうに考えたことなかった!星は大切な存在なんだね。」
「うん、ただの光る点の集まりなんだけどね。」
そういうと僕も彼女もニコッと笑った。
星は不思議な存在だ。
明るいもの
暗いもの
突然流れてくるもの
色が違うもの
集団のもの
色んな星がある
彼女にも色んな星のこと知ってもらいたい
雲一つない夜空は春の始まりを告げている気がした
「星」
好きなことを話すのは楽しい。
あのねっ!…
彼女は笑顔で話し始めた。
その笑顔はいつものにこっと笑った彼女とは違い、周りの空気が一気に澄んだような満面の笑みだった。楽しい。彼女につられて笑って聞いている自分がいる。
知らなかった。
君はそういうふうに笑うんだね。
出会った頃よりずっと素敵で可愛いよ。
もっともっと僕に見せてよ。色んな君を。
これからもずっとずっとありのままの君でいてね。
ありのままの君がいつまでもそのままでありますように。
「願いが1つ叶うならば」