「届かない……」続き
届かなかった弟の願いに対する悔しさと虚無感でいっぱいで数日間は目の前のことが手につかなかった。どうしたらあの子猫を救えたのか、同じ過ちを繰り返さないために私はこれからどうしていくべきなのか、そもそも私にあの森を管理する権利なんてあるのか、何日も何日も考えた。自己嫌悪感に苛まれ自暴自棄になった日もあった。
そんなある日、気晴らしに別の世界へ出かけた時のことだった。向こうの世界は前日まで雨だったらしく道がぬかるんでいた。道を整備しながら進んでいると前方に人影が見えた。歳は私と同じくらいだろうか、泥だらけの靴に新しいバックを背負っていた。遠くから様子を伺ってみるとどうやら思うように先に進めず困っているようだった。気がつけば私は彼の後をつけていた。
〜続く〜
「君の背中を追って」
必死になって勉強している
来る日も来る日も懸命に続けている
忘れては見返して
それでも足りないならもっともっと見返して
記憶の破片を掬い取って
大きな1輪の華になるように
先の見えない未来は不安だらけ
でも今は前に進まないと
記憶の地図を描き続けないと
いつかこの努力が誰かの役に立つと信じて
「記憶の地図」
〜続き〜
私には病気で亡くした弟がいた。弟は自然が大好きで幼い頃はいつも外で植物や動物たちと戯れていた。その姿は愛おしく自慢の弟だった。だが弟が10歳になる頃、不治の病にかかってしまった。医師にそう長くは生きられないと告げられた。それでも弟は辛い顔ひとつせず私が話しかけてもこれまで通り明るく振る舞った。弟が亡くなる少し前、自分の最期を悟ったのかこう告げられた。
「お姉ちゃん、僕この世界が好き。外に出るとね、みんな僕のことを歓迎してくれるんだ。僕それが嬉しくてだから僕からのお願い。僕の宝物を守って。みんながあの森で元気に暮らしてくれるといいなー。」
私は溢れ出しそうな涙をぐっと堪えて弟と約束した。1週間後、弟は家族全員に囲まれて安らかに息を引き取った。それからというもの私は毎日、毎日懸命に勉強した。そして2年が経ち遂に魔法士の資格を得た。弟との約束を果たすために。
あの時約束した
なのに…なのに…
私…また守れなかった
私はお姉ちゃん失格ね
〜続く〜
「届かない……」
これはまだ私が1人で旅をしていた頃の話
その日は激しい雷雨が予想されており、雨風から自然を守るため朝から森に入った。思っていたよりも天候は落ち着いており、植物や道に特に目立った影響は見当たらず動物たちも自分たちの巣や軒下に隠れて雨宿りをしていた。このまま何事もないまま時間が過ぎるだろうと思っていた。しかし午後になると空模様が一変した。遠方から黒い雲が急速に近づいてきたのだ。私はできるだけのことはしておこうと思い草木や動物たちに保護魔法をかけ始めた。すると突然、前方に雷が落ちた。あまりに急であったため反射的に叫んでしまいその場に伏せた。少しして雷が落ちたことを認識するとその周辺の状態確認を始めた。雷が落ちたであろう周辺の道は荒れ果て草木からほのかに煙が上がっているのがわかった。同時にどこからか小さな鳴き声が聞こえてきた。恐る恐る声のするほうに近づいてみるとそこには小さな子猫が横たわっていた。咄嗟にかけ寄り容体を確認する。
〝 待ってて!今手当てしてあげるから ”
雷に打たれ追い打ちをかけるように雨に当てられる子猫。身体は冷たくすぐに治療が必要なことは一目瞭然だった。彼女は必死に濡れた子猫の身体を拭き温め、持っていた栄養剤と魔法で治療にあたった。しかし衰弱しきってしまった子猫になす術なくそのまま静かに目を閉じてしまった。
お願い、待って…やだ…
しばらくは懸命に手当てを続けたがやがて息を引き取ったことを確認すると手を止め、その手を子猫の頭に乗せ、そっと撫でた。雨なのか涙なのかわからない雫が頬を流れ続ける。せめて撫でている間だけでも安らかに眠ってほしいと祈るばかりだった。
その後、魔法は使わず子猫を静かに埋め、かろうじて近くに咲いていた一輪の花の蕾を植え、手を合わせた。
救いたかった
守ってあげたかった
私はまだ青かったのね
ごめんね…ごめんね…
降り頻る雨の中、彼女はひとり声を上げて泣いたのだった
〜続く〜
「青い青い」
カーテンの隙間から差し込む朝日
朝だ
まだ眠っている彼女を起こさないようベットを出て眠い目を擦りながらカーテンを開ける
目の前には朝日に照らされた町並みと山の天辺から顔を出す太陽
窓を開けるとほのかに風が吹き込んだ
朝日の眩しさと涼しいそよ風が朝を告げている
窓辺の花が一緒に風に揺れている
耳をすませば鳥たちが鳴いている
1日の始まりだ
さあ、今日も旅をしよう
旅の続きを始めよう
「風と」