神様へ
僕は神になる夢をみました
夢の中で僕は何でも出来ました
夢の中で僕は世界を創り生き物を生み出しました
美しい出来に感嘆の息を洩らしました
平和な世界をと想いを込めました
人間たちは僕に供物と祈りを捧げました
僕は彼らに知識や恩恵を授け願いを叶えました
文明は徐々に発展していきました
僕はそれを毎日優しい、愛しい気持ちで眺めていました
しかしそれも長くは続きませんでした
やがて彼らは争いを始め、欲のままに全てを求めました
毎日たくさんの人が血を流し息絶えました
気が遠くなりました
その時やっと僕は気が付きました
とんでもない事をしてしまったと
僕の無責任な行いでたくさんの人が死にました
良かれと生み出したたくさんの生き物が死にました
あっという間に増えた生き物全てを導くなど僕には不可能でした
でも僕の想いを伝えるにはあまりに遅過ぎたのです
人間たちは自分たちの手で神を生み出し崇拝しました
その数が多過ぎた為に僕の存在は埋もれました
誰に僕の意思を告げても信じる者はほんの一握り
僕が二の足を踏んでいる間にも時はあっという間に過ぎ去りました
そして僕の存在はすっかり忘れ去られました
神は跡形もなく消えました
人間たちは僕ではなく木や石の塊に価値を見出し縋りました
偽物の何の力も持たない神に毎日祈りました
彼らは時間の経過と共にそれにすら飽きました
どうやら僕がいなくても世界は回るらしい
気に入りませんでした
僕はもう考えるのをやめました
記憶の奥底に全てを押し込めようとしました
その間にも世界からは作った当初の面影は消えていきました
僕の中からあの頃の想いも消えていきました
ある日僕は僕が創った世界を握り潰し投げました
そして僕はまた世界を創りました
そこで僕は夢から覚めました
神様へ、僕たちはあなたの何番目の駄作ですか?
Title¦神様へ
街の明かりは白く燃え
今日僕は空へと飛び立つ
この国では誰もが翼を持ち自由に空を飛ぶ事が出来る
この広い国で僕はただ1人翼を持たぬ忌み子
奇異の目で見られ蔑まれ暴力や暴言を浴びせられる毎日
もううんざりだった
そんなある日国中が大騒ぎする事件が起こった
見付かったのだ
翼を持たぬ少女が
僕はその少女の事が気になりつつも
どこにいるかも分からず
ただ『いつも通り』の毎日を過ごすしか無かった
会った事も無い少女に思いを馳せ
傷ついた心を慰め合う想像をする
きっと彼女も辛い思いをしている
そう思っていた
ある日行く宛もなく歩いていた僕の前に
彼女は現れた
その背中には翼が無かった
僕は思わず声をかけた
「あ、あの……」
彼女は僕を睨んだ
まるで汚いものでも見るかのように
「忌み子の癖に話し掛けないでくれる?」
僕はただ口をだらしなく開けて立っている事しか出来なかった
「私の翼は翼が生えてこなかった男の子にあげたのよ」
彼女は誇らしげに言った
「背中の傷は私の勲章」
彼女のせいで仲間を失った怒りと
僕のような日々を送る子供を減らせた喜び
2つの感情が複雑に絡み合い胸が苦しくなった
僕は夜の街を見下ろし溜息を吐いた
結局僕は独りだった
天国と呼ばれるこの国は薄汚く
天使と呼ばれる我らは崇高な存在ではなかった
うんざりだ
足下の遥か下
雲の間から星のように見える街の明かりを見詰め僕は手を広げた
何だか飛べそうな気がした
僕は足を大きく前へ1歩踏み出した
下界の街の明かりと溶け、混ざり合っていく僕
もう何も怖くない
Title¦街の明かり
さっきまで降っていた雨がやんだ
鞄に入っている折りたたみ傘を出す間もなく
僕はずぶ濡れになった
雨音に僕の存在をかき消されるような気がした
……にも関わらず何事も無かったかのように
空を覆っていた黒雲はどこかへ逃げていく
少しムカついた
無言で空を睨んでいると後ろから肩を叩かれた
「何でそんなにずぶ濡れなんだよ」
笑いながら言う彼は同級生
最近よくつるんでるやつ
傘から水を滴らせて満面の笑みで僕に話しかけた彼にもムカついた
「……シャワー浴びた」
「制服で?」
彼は腹がよじれそうな程笑っている
「……最近の、マイブーム」
「風邪ひくなよ」
そう言って彼は僕にタオルを投げ付けた
タオルから柔軟剤の良い匂いがして余計にムカつく
僕はタオルで髪を雑に拭き
ついでに制服に中途半端に染み込んだ雨も拭いてやった
「優しい君にお礼の品を贈呈しよう」
そう言ってびしょ濡れになったタオルを投げ付けた
「おいおいこれがお礼か? 諭吉の1人2人寄越してくれても良いぜ?」
そして彼はまた満面の笑みを浮かべた
僕は苦笑いして彼にさっき投げ付けたタオルを奪い取った
「……洗濯して返す、あとジュース奢る」
彼は満足気に頷いて僕の手を引っ張った
「早くしないと遅刻するぞ」
そして2人で水溜りの水を辺りに跳ね飛ばしながら走った
嘘だった
学校には余裕で間に合った
「お前無駄に濡れて……風邪ひいても知らないからな」
「足だけだし大丈夫だろ、これでお揃いだ」
嘘だった
彼は翌日風邪をひいた
馬鹿かよ……
僕はまだ彼の匂いが少し残るタオルとジュースと
プリント諸々持って彼の家へ行った
「やっぱり風邪ひいてんじゃねぇか」
「んー熱はあるけど結構ぴんぴんしてるからd……」
「大丈夫じゃない、寝とけ」
そして僕は天井を見詰めて唸っている彼を横目にノートを写してやった
「せっかく遊びに来たんだからゲームしようや……」
「明日までに治したらいつでもやってやるよ」
そしてノートを写し終わった僕は立ち上がった
「もう帰るのか?」
「何だよそんなに僕の事好きなのか?」
からかってやると彼は少し考えて言った
「……好きじゃない、大好き、これからも仲良くしてくれ」
何かちょっと照れた
赤くなった顔を隠すように僕は彼に背を向けた
「良いけどその代わり明日までに風邪を治して学校に来い」
彼がいつものように満面の笑みを浮かべたのが
背中を向けていても分かった
「……出来なかったら絶好だ」
翌日学校に着くと彼の姿は無い
始業5分前になっても来ない
そしてついにチャイムが鳴る
僕は机の上に置いた自分の手を見詰めて溜息を吐いた
「やっべー遅刻遅刻! あ、まだ先生来てないじゃんセーフ〜」
能天気な声に目を向けると彼だった
「焦ったじゃねーか……」
彼は僕を見付けるなり笑顔になった
「来たぜ、今日うちでゲームしよ!」
僕はやれやれと息を吐いて無言で頷いた
相変わらず梅雨の空は曖昧な天気だが
心なしかちょっと晴れてる気がした
Title¦あいまいな空
ある日この地球から人類が消え去った
ただ1人この僕を除いて
望んだからか神の悪戯か
最初こそ1人を満喫していた
元々1人は好きだったし
そんなに苦ではなかった
しかしいつの間にかそんな日常に物足りなさを感じるようになった
何もやっていないテレビ
更新されないSNSやYouTube
どれだけの罪を犯しても飛んでこない怒号
明かり1つ無い夜の街
何もかも日を重ねる毎に段々とボロボロになっていく
僕はいつから1人なんだろう
今まで人がいる幻を見ていたのか
急に夢から覚めたのか
人間なんて最初から僕だけだったのか
僕はどこから来たのか
答えの出ない問いを1人延々と続ける
電気も水もガスも止まり
サバイバル生活を強いられた僕は気付いた
人間1人の何とちっぽけな事だろう
船も作れなければ火も起こせない
挙句飲水の確保も出来ない
こんなピンチを共有する仲間も
一緒に乗り越える友達も
助けてくれる親も
誰もいない
僕はこんなにも何も出来ない人間だと自覚させられたのは初めてだ
図書館に行って生活に役立ちそうな本を読み漁った
薄暗い店に行って役立ちそうなものを貰った
でも何の意味があるんだろう……
今度こそ本当に僕が死んでも誰も困らない
僕が生きていても誰も褒めてくれない
誰も見付けてくれないどころかそもそも誰の目にも触れない
僕を慰めるのは今まで見えなかった星達だけ
ある日突然人類が何事も無かったように戻ってきて
何て事無いと思っていた日常を幸せに感じる
そんな夢を何度も見た
そんな妄想を何度もした
でも目を開けば誰もいない
荒廃していく街があるばかり
ある日から体を蝕む病の音が聞こえるようになった
でも何の病気か分からない
治す術も分からない
きっとそう長くはもたない
そして彼は死んだ
地球には何も無かったように時が流れる
誰かが生きた証に感動するのも涙するのも
恩恵を受けるのも迷惑を被るのも結局人間だけなのだ
誰も見る事の無い
デジタルタトゥーの末尾に添えられた言葉
緑に飲まれるアスファルトにペンキで大きく書かれた言葉
ありとあらゆる場所に貝殻や浮きや電化製品を並べて出来た言葉
「確かに僕はここにいた」
彼の叫びすらも何も無かったように消えていき
今日も地球は回る
Title¦街
今朝同級生の男の子が死んだと知らされた
階段で足を滑らせ打ち所が悪かったらしい
私は彼と仲が良かった
彼氏とその子と私
3人で他愛のない会話をしたり馬鹿やったり
まさに青春の日々だった
それが突然に終わりを告げた
彼氏はというとずっと机に覆い被さるようにして泣いている
特に仲が良かったから悲しいなんてもんじゃないだろう……
そう思って放って置いたが
それにしてもずっと泣いているので放って置く訳にもいかず
何と声をかければ良いか分からないまま彼氏の元へ行った
そっと背中に手を置くと
彼の背中がびくっと激しく跳ねた
ゆっくり顔を上げた彼は顔が涙でぐしゃぐしゃになっており
目は赤く腫れていた
私は無言で彼の手を引き保健室に行った
椅子に座らせ保冷剤で目を冷やすよう促した
養護の先生はどこかへ行っているようで2人しかいなかった
しっかりしろと言いたいところだったが
それはあまりに酷なので私の悲しい胸の内を話した
そして思い出に残っている青春の日々を語った
「ごめん……ごめんなさい……」
彼は黙って聞いていたが一通り話し終えると再び泣き出した
私も気付けば涙が溢れてた
「な、何で謝るのよぉ……あなたは何も悪くないじゃない」
「僕が、殺したんだ……」
彼の突然の告白に頭が真っ白になった
そんな私をよそに彼は語り出した
「昨日の放課後誰もいない学校で僕達は話していた」
私は昨日用事があった為予め断りを入れさっさと帰っていた
「その内に暗くなってきたから帰る事になったんだ」
なるほどそれで返信が遅かったのか
「それであいつがせっかく暗いんだし肝試ししようって言ったんだ」
まぁ年頃の学生ならよくある流れだ
私も何度か経験がある
よく学校の七不思議を確かめてみたものだ
「南校舎の西、普段から人通りの少ない廊下の先まで見て……」
管理棟等と呼ばれる渡り廊下の向こうは一部だけ古く
外から見ると一目瞭然だ
「結局何も無いから帰ろうって事になったんだ」
彼はそこで再び泣き出した
「3階の階段であいつは足を滑らせた」
殺したなんて言うからてっきり突き落としたのかと思ったが
どうやらそうではないらしい
「踊り場で動かないあいつを見て俺はパニックになった」
そういえば踊り場の名に相応しく踊ってやろうと
3人で踊った事もあったっけなぁ……
「先生を呼びに行ったけどどこを探しても見付けられなかった」
最近は先生達も早く帰れるようにと努力しているらしい
それが災いしたようだ
「俺は怖くなってこれは夢だと思って……帰ってしまった」
「見殺しにしたって……事?」
彼はこくりと頷いた
「でもあいつは死んでなんかいなかった、朝まで生きてたんだ」
先生の話と彼の話が合っていなかったのはそういう事か
「あいつはきっと動かない体をひきずってどうにか帰ろうと……」
そう、彼が発見されたのは1階と2階の間の踊り場
とても時間がかかっただろう
そして怖かっただろう
暗くて寒い校舎にずっと一人きりだったのだ
「俺が……殺したんだ、俺が、見殺しにしたんだ……」
「あなたが……そんなに冷たい人だなんて知りたくなかった……」
思わず言ってしまった
友達の為ならどこへでも走る人だと思ってた
自分の上着かけてやるぐらい出来る人だと思ってた
彼を抱えて家に連れ帰ってあげる人だと思ってた
「なぁ、誰にも言わないでくれよ! 俺……誰にも合わせる顔無ぇよ」
知りたくなかった、彼が自分の保身の為に真実を隠す人だと
「ただ、3人で過ごす今日が、明日が、これからが……知りたかった」
それだけ言って私は保健室を後にした
後ろからあいつの泣き声が響いている
さよなら親友
さよなら彼氏
さよなら日常
さよなら真実
Title¦正しいことなんて知りたくない、私が知りたいことは、