ある日この地球から人類が消え去った
ただ1人この僕を除いて
望んだからか神の悪戯か
最初こそ1人を満喫していた
元々1人は好きだったし
そんなに苦ではなかった
しかしいつの間にかそんな日常に物足りなさを感じるようになった
何もやっていないテレビ
更新されないSNSやYouTube
どれだけの罪を犯しても飛んでこない怒号
明かり1つ無い夜の街
何もかも日を重ねる毎に段々とボロボロになっていく
僕はいつから1人なんだろう
今まで人がいる幻を見ていたのか
急に夢から覚めたのか
人間なんて最初から僕だけだったのか
僕はどこから来たのか
答えの出ない問いを1人延々と続ける
電気も水もガスも止まり
サバイバル生活を強いられた僕は気付いた
人間1人の何とちっぽけな事だろう
船も作れなければ火も起こせない
挙句飲水の確保も出来ない
こんなピンチを共有する仲間も
一緒に乗り越える友達も
助けてくれる親も
誰もいない
僕はこんなにも何も出来ない人間だと自覚させられたのは初めてだ
図書館に行って生活に役立ちそうな本を読み漁った
薄暗い店に行って役立ちそうなものを貰った
でも何の意味があるんだろう……
今度こそ本当に僕が死んでも誰も困らない
僕が生きていても誰も褒めてくれない
誰も見付けてくれないどころかそもそも誰の目にも触れない
僕を慰めるのは今まで見えなかった星達だけ
ある日突然人類が何事も無かったように戻ってきて
何て事無いと思っていた日常を幸せに感じる
そんな夢を何度も見た
そんな妄想を何度もした
でも目を開けば誰もいない
荒廃していく街があるばかり
ある日から体を蝕む病の音が聞こえるようになった
でも何の病気か分からない
治す術も分からない
きっとそう長くはもたない
そして彼は死んだ
地球には何も無かったように時が流れる
誰かが生きた証に感動するのも涙するのも
恩恵を受けるのも迷惑を被るのも結局人間だけなのだ
誰も見る事の無い
デジタルタトゥーの末尾に添えられた言葉
緑に飲まれるアスファルトにペンキで大きく書かれた言葉
ありとあらゆる場所に貝殻や浮きや電化製品を並べて出来た言葉
「確かに僕はここにいた」
彼の叫びすらも何も無かったように消えていき
今日も地球は回る
Title¦街
6/11/2022, 12:34:03 PM