さっきまで降っていた雨がやんだ
鞄に入っている折りたたみ傘を出す間もなく
僕はずぶ濡れになった
雨音に僕の存在をかき消されるような気がした
……にも関わらず何事も無かったかのように
空を覆っていた黒雲はどこかへ逃げていく
少しムカついた
無言で空を睨んでいると後ろから肩を叩かれた
「何でそんなにずぶ濡れなんだよ」
笑いながら言う彼は同級生
最近よくつるんでるやつ
傘から水を滴らせて満面の笑みで僕に話しかけた彼にもムカついた
「……シャワー浴びた」
「制服で?」
彼は腹がよじれそうな程笑っている
「……最近の、マイブーム」
「風邪ひくなよ」
そう言って彼は僕にタオルを投げ付けた
タオルから柔軟剤の良い匂いがして余計にムカつく
僕はタオルで髪を雑に拭き
ついでに制服に中途半端に染み込んだ雨も拭いてやった
「優しい君にお礼の品を贈呈しよう」
そう言ってびしょ濡れになったタオルを投げ付けた
「おいおいこれがお礼か? 諭吉の1人2人寄越してくれても良いぜ?」
そして彼はまた満面の笑みを浮かべた
僕は苦笑いして彼にさっき投げ付けたタオルを奪い取った
「……洗濯して返す、あとジュース奢る」
彼は満足気に頷いて僕の手を引っ張った
「早くしないと遅刻するぞ」
そして2人で水溜りの水を辺りに跳ね飛ばしながら走った
嘘だった
学校には余裕で間に合った
「お前無駄に濡れて……風邪ひいても知らないからな」
「足だけだし大丈夫だろ、これでお揃いだ」
嘘だった
彼は翌日風邪をひいた
馬鹿かよ……
僕はまだ彼の匂いが少し残るタオルとジュースと
プリント諸々持って彼の家へ行った
「やっぱり風邪ひいてんじゃねぇか」
「んー熱はあるけど結構ぴんぴんしてるからd……」
「大丈夫じゃない、寝とけ」
そして僕は天井を見詰めて唸っている彼を横目にノートを写してやった
「せっかく遊びに来たんだからゲームしようや……」
「明日までに治したらいつでもやってやるよ」
そしてノートを写し終わった僕は立ち上がった
「もう帰るのか?」
「何だよそんなに僕の事好きなのか?」
からかってやると彼は少し考えて言った
「……好きじゃない、大好き、これからも仲良くしてくれ」
何かちょっと照れた
赤くなった顔を隠すように僕は彼に背を向けた
「良いけどその代わり明日までに風邪を治して学校に来い」
彼がいつものように満面の笑みを浮かべたのが
背中を向けていても分かった
「……出来なかったら絶好だ」
翌日学校に着くと彼の姿は無い
始業5分前になっても来ない
そしてついにチャイムが鳴る
僕は机の上に置いた自分の手を見詰めて溜息を吐いた
「やっべー遅刻遅刻! あ、まだ先生来てないじゃんセーフ〜」
能天気な声に目を向けると彼だった
「焦ったじゃねーか……」
彼は僕を見付けるなり笑顔になった
「来たぜ、今日うちでゲームしよ!」
僕はやれやれと息を吐いて無言で頷いた
相変わらず梅雨の空は曖昧な天気だが
心なしかちょっと晴れてる気がした
Title¦あいまいな空
6/14/2022, 11:24:23 AM