黒神

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今朝同級生の男の子が死んだと知らされた
階段で足を滑らせ打ち所が悪かったらしい
私は彼と仲が良かった
彼氏とその子と私
3人で他愛のない会話をしたり馬鹿やったり
まさに青春の日々だった
それが突然に終わりを告げた
彼氏はというとずっと机に覆い被さるようにして泣いている
特に仲が良かったから悲しいなんてもんじゃないだろう……
そう思って放って置いたが
それにしてもずっと泣いているので放って置く訳にもいかず
何と声をかければ良いか分からないまま彼氏の元へ行った
そっと背中に手を置くと
彼の背中がびくっと激しく跳ねた
ゆっくり顔を上げた彼は顔が涙でぐしゃぐしゃになっており
目は赤く腫れていた
私は無言で彼の手を引き保健室に行った
椅子に座らせ保冷剤で目を冷やすよう促した
養護の先生はどこかへ行っているようで2人しかいなかった
しっかりしろと言いたいところだったが
それはあまりに酷なので私の悲しい胸の内を話した
そして思い出に残っている青春の日々を語った
「ごめん……ごめんなさい……」
彼は黙って聞いていたが一通り話し終えると再び泣き出した
私も気付けば涙が溢れてた
「な、何で謝るのよぉ……あなたは何も悪くないじゃない」
「僕が、殺したんだ……」
彼の突然の告白に頭が真っ白になった
そんな私をよそに彼は語り出した
「昨日の放課後誰もいない学校で僕達は話していた」
私は昨日用事があった為予め断りを入れさっさと帰っていた
「その内に暗くなってきたから帰る事になったんだ」
なるほどそれで返信が遅かったのか
「それであいつがせっかく暗いんだし肝試ししようって言ったんだ」
まぁ年頃の学生ならよくある流れだ
私も何度か経験がある
よく学校の七不思議を確かめてみたものだ
「南校舎の西、普段から人通りの少ない廊下の先まで見て……」
管理棟等と呼ばれる渡り廊下の向こうは一部だけ古く
外から見ると一目瞭然だ
「結局何も無いから帰ろうって事になったんだ」
彼はそこで再び泣き出した
「3階の階段であいつは足を滑らせた」
殺したなんて言うからてっきり突き落としたのかと思ったが
どうやらそうではないらしい
「踊り場で動かないあいつを見て俺はパニックになった」
そういえば踊り場の名に相応しく踊ってやろうと
3人で踊った事もあったっけなぁ……
「先生を呼びに行ったけどどこを探しても見付けられなかった」
最近は先生達も早く帰れるようにと努力しているらしい
それが災いしたようだ
「俺は怖くなってこれは夢だと思って……帰ってしまった」
「見殺しにしたって……事?」
彼はこくりと頷いた
「でもあいつは死んでなんかいなかった、朝まで生きてたんだ」
先生の話と彼の話が合っていなかったのはそういう事か
「あいつはきっと動かない体をひきずってどうにか帰ろうと……」
そう、彼が発見されたのは1階と2階の間の踊り場
とても時間がかかっただろう
そして怖かっただろう
暗くて寒い校舎にずっと一人きりだったのだ
「俺が……殺したんだ、俺が、見殺しにしたんだ……」
「あなたが……そんなに冷たい人だなんて知りたくなかった……」
思わず言ってしまった
友達の為ならどこへでも走る人だと思ってた
自分の上着かけてやるぐらい出来る人だと思ってた
彼を抱えて家に連れ帰ってあげる人だと思ってた
「なぁ、誰にも言わないでくれよ! 俺……誰にも合わせる顔無ぇよ」
知りたくなかった、彼が自分の保身の為に真実を隠す人だと
「ただ、3人で過ごす今日が、明日が、これからが……知りたかった」
それだけ言って私は保健室を後にした
後ろからあいつの泣き声が響いている
さよなら親友
さよなら彼氏
さよなら日常
さよなら真実

Title¦正しいことなんて知りたくない、私が知りたいことは、

6/9/2022, 12:01:16 PM