『パンジー』
目の前には倒れている彼。と、その傍で心配そうに彼の手を握る男の人。
「大丈夫か…!?おい…!」
その男の人が彼に呼びかける。…もう、意味ないのに。
私は彼の元に歩み寄る。カツンカツンと自分のヒールの音がやけに響いた。
男の人はこんなにも近くにいる私のことに気づいていないみたいだ。…まぁ、そっか。私は"あっち"の人間だから、"こっち"側の人間は認識出来ない。
彼の頬を触る。いつの日にか触った温度が恋しいと思う程に、彼は冷たかった。
「馬鹿…」
そんなことを言っても虚しいだけだ。彼が目を開けることはもうない。
「泣かないよ。泣いてなんか…あげない。」
そう呟き、彼の傍に花を添える。可愛らしい紫の花が小さく揺れた。
立ち上がり、彼に背を向ける。もう、2度と振り返ることはないだろう。
「さようなら、嘘つき」
【泣かないよ】
『知らなかった?』
「先生ってさ、意外に苦手なもの多いよね」
「…は?」
意味がわからない、とでもいうように先生がこちらを見た。
窓の外では激しい雨と風が吹いていた?
「さっきから雷が鳴る度に先生肩がびくって動いてんの……あれ?気づいてない?」
ポカンとした表情を浮かべている先生は、本当に気づいていないようだった。
他にも先生の苦手なものを上げていく。暗闇だとか、大きい犬だとか……2、3個言ったところで先生からストップが入る。
「もういい、やめろ……」
先生は片手で顔を隠しながら、小さい声でそう言った。指の隙間から見える頬は赤くなっていた。
「え〜?先生恥ずかしいんですか?」
自分でもわかりやすく声が弾んでいる。つんつんと頬をつつくとさらに小さくなる先生。そんな先生に声を出して笑ってしまった。
拗ねてしまったのか、先生はその後しばらく顔を合わせてくれなくなった。
【怖がり】
『甘ったるい金平糖』
「最近、そればっか食べてるな」
そう言って手元を指された。俺の手の中にある瓶には色とりどりの金平糖が入っている。
「そんなに金平糖好きだったか?」
「あー…最近好きになったんすよね」
そう答えた俺に先生は怪訝そうな顔をしていたが、他の仲間に呼ばれて行ってしまった。
俺は瓶の中に入っている金平糖をカラカラと揺らす。この金平糖は俺から出たものだ。
俺は最近星涙病というものにかかってしまった。泣くと涙の代わりに金平糖が出てきてしまう病気らしい。らしいというのは、特に病院で言われたとかでは無いからだ。古い本に書かれてあったのを見つけて、それが俺の症状と一致していたのだ。最初は信じられなかったが、こんなにも症状が一致していると信じざるを得なかった。そして、肝心の治す方法。それは、自分から出た金平糖を意中の相手に食べてもらうことだった。
「ハハッ、そんなの無理ゲーじゃん…」
金平糖を口に入れ、噛み砕く。それは嫌になるほど甘ったるい味がした。
【星が溢れる】
【安らかな瞳】
『蝶のような君』
君はまるで蝶のよう。蝶がひらひらと舞うように、君もすぐ他の人の所へ行ってしまう。
最初は良かった。君はいつも最後には俺の所に戻ってきてあの笑顔を見せてくれるから。それで安心できた。
でも世界が変わって、明日が約束されない今、1秒だって離れたくなかった。……失うのが怖かった。
だから、ずっと一緒にいられるように彼女を閉じ込めた。…いや、連れ込んだの方が正しいか。
俺が創った、俺と彼女だけの楽園。侵入者は誰1人許さない。
寝ている彼女の頬を撫でる。
「ずっと一緒だ。……死んでからも、ずっと」
そう言い、彼女の薬指にキスを落とした。
【ずっと隣で】