『知らなかった?』
「先生ってさ、意外に苦手なもの多いよね」
「…は?」
意味がわからない、とでもいうように先生がこちらを見た。
窓の外では激しい雨と風が吹いていた?
「さっきから雷が鳴る度に先生肩がびくって動いてんの……あれ?気づいてない?」
ポカンとした表情を浮かべている先生は、本当に気づいていないようだった。
他にも先生の苦手なものを上げていく。暗闇だとか、大きい犬だとか……2、3個言ったところで先生からストップが入る。
「もういい、やめろ……」
先生は片手で顔を隠しながら、小さい声でそう言った。指の隙間から見える頬は赤くなっていた。
「え〜?先生恥ずかしいんですか?」
自分でもわかりやすく声が弾んでいる。つんつんと頬をつつくとさらに小さくなる先生。そんな先生に声を出して笑ってしまった。
拗ねてしまったのか、先生はその後しばらく顔を合わせてくれなくなった。
【怖がり】
『甘ったるい金平糖』
「最近、そればっか食べてるな」
そう言って手元を指された。俺の手の中にある瓶には色とりどりの金平糖が入っている。
「そんなに金平糖好きだったか?」
「あー…最近好きになったんすよね」
そう答えた俺に先生は怪訝そうな顔をしていたが、他の仲間に呼ばれて行ってしまった。
俺は瓶の中に入っている金平糖をカラカラと揺らす。この金平糖は俺から出たものだ。
俺は最近星涙病というものにかかってしまった。泣くと涙の代わりに金平糖が出てきてしまう病気らしい。らしいというのは、特に病院で言われたとかでは無いからだ。古い本に書かれてあったのを見つけて、それが俺の症状と一致していたのだ。最初は信じられなかったが、こんなにも症状が一致していると信じざるを得なかった。そして、肝心の治す方法。それは、自分から出た金平糖を意中の相手に食べてもらうことだった。
「ハハッ、そんなの無理ゲーじゃん…」
金平糖を口に入れ、噛み砕く。それは嫌になるほど甘ったるい味がした。
【星が溢れる】
【安らかな瞳】
『蝶のような君』
君はまるで蝶のよう。蝶がひらひらと舞うように、君もすぐ他の人の所へ行ってしまう。
最初は良かった。君はいつも最後には俺の所に戻ってきてあの笑顔を見せてくれるから。それで安心できた。
でも世界が変わって、明日が約束されない今、1秒だって離れたくなかった。……失うのが怖かった。
だから、ずっと一緒にいられるように彼女を閉じ込めた。…いや、連れ込んだの方が正しいか。
俺が創った、俺と彼女だけの楽園。侵入者は誰1人許さない。
寝ている彼女の頬を撫でる。
「ずっと一緒だ。……死んでからも、ずっと」
そう言い、彼女の薬指にキスを落とした。
【ずっと隣で】
『知らなければ……』
「こんばんは」
「…こんばんは」
ガサガサと草むらが揺れた方向に声をかける。姿を表した彼も同じように挨拶を返してくれた。
ずる賢い大人も凶暴な動物も、みんな寝静まった夜。屋敷から抜け出して彼と会うのが、長年の私の日課になっていた。もうかれこれ5年以上続いているだろうか。
立ったままの彼をベンチの隣に誘う。
「ねぇ、今日はどんなお話をしてくれるの?」
「そうだな、今日は…」
隣に座った彼は、いつものようにお話を聞かせてくれる。彼の話はいつも面白い。彼が話しているのはおとぎ話なのか、それとも彼の経験談なのか…それを聞くといつもはぐらかされてしまう。
私は彼のことを何も知らない。5年以上一緒にいるのにだ。それを聞いたら彼がいなくなってしまいそうだから、何も聞けなかった。でも、5年以上一緒にいるのだ。私も何も思わないわけではない。聞いてみたいという思いがどんどん強くなっていった。だから……今夜聞いてみようと思う。
「……そうして彼は相棒と再開することが出来ました。めでたしめでたし。どう?面白かった?」
彼がいつものように手をパチンと合わせる。それは彼がいつも行う、話の終わりの合図だった。
「うん!とっても面白かったよ!……ねぇ、1つ聞いてもいい?」
「うん?どうした?」
2人の間に風が吹く。草が触れ合う音だけが響いた。
「…貴方はどこの誰なの?どうして毎晩私と会ってくれるの?」
「2つ聞いてるじゃないか。……聞いても後悔しない?」
それまで笑っていた彼の顔が真剣なものになる。その眼差しに唾を飲み込みながら強く頷いた。
彼はふっと息を吐き出すと、指をパチンと鳴らした。彼の服装が一瞬で変わり、纏う雰囲気も変わった。彼の目が私を貫く。
「俺は隣の国の騎士だよ。……君の敵だ」
【もっと知りたい】