黄桜

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8/30/2023, 11:23:11 AM

母親のつけている香水は、私の鼻にはキツイようで、いつも息を止めなければいけなかった。そんな母親は、私が寝る前に仕事に行く。その時、母親はいつも決まった言葉を囁く。お姉ちゃんだから、我慢してねと。額に柔らかいものが当たる感触とリップ音が響いた。
これが終わると母親は、私に見向きもせずに玄関へ行ってしまう。その後はガチャンという音とガチャリという音がそれぞれ1回ずつ鳴った。私は、母親の存在が家から消えたことによって、心に穴が空いたような感覚にまた襲われるのを自覚した。

母親の香水は、私のためじゃない。

お終い

8/29/2023, 11:01:27 AM

遠くで、妹と弟が海で遊んでいる。互いに海水を浴びたのか頭から水滴が垂れていた。2人はその姿を見ては、幸せそうに笑いあっていた。だが次の瞬間、2人が笑いを止めて私の方に視線を固定した。嫌な予感がした途端、2人は私のところに走って抱きついてきた。2人の体は、少し冷えていて気持ちがよかったが抱きつく力が強いせいであまり心地の良い時間は続かなかった。
私が、力を緩めてくれと懇願すると同時に、2人は一緒に遊ぼうと寸分違わぬ言葉で強請ってきた。私は、1つため息をつくとこう続けた。誰が、1番先に海に入れるか競走ねと。2人はその言葉が耳に入った瞬間、私よりもいち早くと走り出していき、その後を私は追った。

言葉はいらない、ただ…これが好きなのだ。

お終い

8/27/2023, 12:59:58 PM

長年付き添った夫が命を使い果たした日でした。その日の天気は酷いもので、急に雨を降らせたと思ったら晴れたりと忙しい天気でした。まるで、生前の夫の性格を表しているようで少し笑いました。
葬式も終わりを迎える頃に、再び雨が降り出しました。まるで、夫が私と別れを惜しんでいるように見えて今度は思い切り豪快に笑いました。

雨に佇んでいる妻は、笑っていた。

お終い

8/26/2023, 10:29:50 AM

私は、日記を書き続けるというのが苦手だ。なぜなら、自分という人間と向き合う時間が1番嫌いなのだ。日記を書くというのは、その日の自分に区切りをつけることだ。そして、それを何日、何年と続けなければいけない。言ってしまえば、まるで強制的に書かされているように感じてしまいやる気がでないのだ。
そんな私だが、ある何年間だけは楽しく日記を書いていた時期があったのだ。あの時の日記帳は、いつでも読み返せるように机に置いている。その日記帳には特別思い入れがあるのだ。それは、私が唯一本音を語ることの出来た相手との日記帳だからだ。

中学時代の私の日記帳には、必ずコメントが書かれている。

お終い

8/25/2023, 1:06:31 PM

目の前に悪魔がいた。教師という名称を盾に偉い態度で椅子に座っている悪魔が何か喋っている。唯一聴き取れたのは、なぜクラスに来てくれないのかと言うことだけだった。なぜ、そんなのは明確だろうに。クラスに行かないのは、そのクラスに問題があるから行けないのだ。更にその問題を起こしたのは、目の前のかつて人間だった教師だ。
かつての自分の姿を忘れてしまった哀れな悪魔は、まるで神かのように救いの手を差し伸べようとしている。けれど、実際はその手にあるのは救済ではなく地獄への道連れコースでしかない。だからこそ、私はこの悪魔を哀れまずにいられないのだろうか。もしかしたら、神も悪魔も元は同じなのかもしれないと考えてしまうのは、私がこの悪魔の対面に立っているからだろうか。

神と悪魔はいつでも向かい合わせの場所にいる。

お終い

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