「僕の心臓の鼓動の速さ」
僕には心臓の病気がある
これは誰も知らない、僕だけの秘密だけど。
クラスで一番目立つわけではないが、特段静かでもない。決まった集団に属しているわけでもないが、友達がいないわけでもない。
昔から多分、人が好きだった。
人に会いすぎると疲れるくせに、誰かを深く知ることが好きだった。自分の歩んでいない人生や、持っていない価値観を知る事がとにかく楽しいから。
本も好きだ、同じ容量で。
知るという事は世界が広がることだと僕は思う。
好きなものの海に溺れていたい。そしてその海は広ければ広いほど良い、深ければ深いほど、ワクワクするってものだ。
ところで僕の心臓の病気はというと、どうやら生まれつきのものらしい。病気があると知ったのはほんの数日前で、原因はまだ分かっていない。昔から死ぬ事にあまり恐怖を感じていなかったからか、'突然死'の可能性もあると言われたときも、あまり動揺をしなかった様に思う。友人に変人扱いをされる度に腹を立てていたが、無理もないのかも知れない。こんなに能天気なやつは、あまり見たことがないから。
人は死ぬと、僕は知っていた。僕のおじいちゃんもおばあちゃんも、大好きだった中学校の先生も皆死んでいった。それに僕だけじゃない。人は皆、いつか死んでいく。後悔がないように生きてきた自負があった。その自信が、僕の妙な冷静さを保ったのかもしれない。とはいえ、さすがに心臓のことだ。あのやけに黄色い診察室で、少しばかり不安にもなったが、ポジティブすぎる思考のあまり五分と経たないうちにケロッとしてしまった。悲観的な気分に浸る一世一代のチャンスをみすみす逃してしまった。
いつ死ぬかわからないなら今告白を!と、勇気を振り絞って想いを告げたい人もいなければ、あいつだけは殺してやりたいと憎悪の念を抱く人もいない。
少し頑固だけれど可愛い弟と、変わり者だが愛情深い母親のそばで、能天気にマイペースに生きてきた。今が一番幸せである、僕は毎日にとても満足していた。それでももし、今人生が終わるとしたら?
やり残したことは一つもないだろうか?
はじめてそんな事を考えた、自分の人生の終末、寿命、僕の本当の望みはなんだろう。
出てきたのは意外にもたった一つで、「本を書きたい」それだけだった。
僕は本がすきだ、少し前にも言ったけれど。
作家になりたいとか、そんな大それた夢があるわけではない。僕の場合、誰に読まれずとも誰に知られずともどうでもいい。ただ、僕が見てきた世界や感じた心を、この世のどこかに残しておきたい。そんな密かな夢をずっと抱いている。
病気を告げられた日の帰りにふと思ったのは、「なにか書きたい」だった。なにを書くのかはわからない。フィクションなのか、自伝なのか。(そもそも語るほどの人生なんて歩んでいないが)
けれどもとにかくそう感じた、何か残しておきたいと。冷静になって考えると、何について書くのかなんていうのは愚問だ。書きたいものなんか、決まっている。僕の全てだ。感情、記憶、僕の中の全て。
思い立ったら即行動とよく耳にするので、早速だけどここからは僕の書きたいものをただひたすらに書いていこうと思う。
おそらくこれは僕の日記になるだろう、少し長い日記だ。そして本当は恥ずかしいけれど、これを手に取った君には特別に、僕の日記を読む権利を与えよう
-僕の心臓の鼓動の速さ- 第一章
お久しぶりです、余白です。
いつもまた読みたいを押してくださる皆さん本当にありがとうございます。
その数が増える度、とても嬉しく思います。
第一章にしたのは、いつになるかはわかりませんが続きを書きたいなと強く思ったからです。
人生はいつ終わるかわからないと、ここに出てきた僕のように私も常に感じて生きています。
自分のことも、過ごす時間も、大好きな人たちも、ずっと忘れたくない
せめて自分の周りにいる人たちには、たくさんの愛情をもって接したいなと日々そう思います
なかなか難しいもあるけれど
それでもやっぱり。
さてさて
皆様の今日が、たくさんの幸せで溢れていますように
ではまた🫧
余白
私にとって君は、
なによりも優先したい大切なものではなかった。
それは恋とも愛とも呼べはしない。
呼ぶにはおそらく、何かが足りない。
あんなに愛していたのに、違かった。
これが愛でないと言うなら、一体何が愛なのだろう?
無言で互いを見つめ合い、そのうち表情が消えていった。
ついに本当の
「さよなら」がきた。
小さな勇気をもって、あなたに言った
「ごめんね」と。
何故あなたを好きになれなかったのか、考えてみた。
短編 さよならは私が決めた、今
作 余白
家族が欲しいと思った、漠然と。
今すぐにと言うわけではないが、いつか欲しいとそう思った。
結婚なんてそのうちできると思っていたし
おそらくそれに見合うお付き合いができる恋人も、
そのうちできると思っていた。
気づけばアラサーに突入し、気づけば一人で楽しく生きられるようになっていた。
「自立しすぎた人は恋愛から遠ざかる」とよく聞くが、それは本当なのだろうと傲慢にも感じてしまった。
「まずは恋人から作ってみよう」
今考えればここから間違いな気がするが、
早速人と会うことを拒み続けてきた習慣をやめた。
土日のお昼時間がなくなっていく。
「ランチしましょう」と、大して親密でもない誰かとご飯を食べる日々。
そろそろ諦めようと思っていたその時、あなたに出会った。
共に本屋に行けば、あなたは私のお気に入りの小説に手を伸ばした。
ご飯を食べに行けば、私が一番好きだと思ったものに「これ美味しい」と感動した。
大好きだけどさほど有名でない深夜ドラマを
あなたは一番好きなドラマだと言った。
きっと運命に違いない、この人なんだ、そう思った。
だけれどほろほろとその糸は解けていく。
時間が経てば経つほどに感じる違和感に、見ないふりをした。
心から願ったからだ、「どうかこの人が運命の人でありますように」と。
私は過度に束縛を嫌った。
浮気なんてしたことも、することも一度もない。
ただ、誰かに何かを制限されることに恐怖を感じる。
異常な恐怖心は、小さい頃から全てを把握したがった父親の影響だと、そうわかっていた。
力で何もかも支配しようとしていたあの姿を、どうしても思い出してしまう。
せめて友人くらいは自由に会いたいと思う私と
恋愛対象になり得るからと制限したがるあなた
その違いに気づいたのに、私は見ないふりをした。
「こう言っとけば、どうせ好かれるからさ」
年上の先輩との関係性について話をした時、あなたがいった。笑った貴方をみて私は思った、
この人、怖い。と
頭が良い貴方が好きだったのに、
その頭の良さがだんだん怖くなっていった。
どの笑顔が本当で、どれが嘘なの?
正直すぎるくらいがちょうどいい
そんな風に思っていた。
なにか皮をかぶっている人が極端に苦手で
(これもおそらく父親の影響だろう、外では仏のようだったが家での豹変ぶりを思い出すから)
彼にそれと似たようなものを感じてしまった。
きっと運命の人
貴方を好きになるんだわ
この人を好きになれば幸せになれる
キラキラとハラハラと
気持ちは溶けて消えていく
恋愛をするために恋愛をしにいった私は
幸せって何だっけ?
自分自身の精神世界に舞い落ちていく
「好きな人ができなきゃ意味がないのね」
やっと気づき、立ち上がり、一人淡々とまた歩いていく
運命の人?会えたらいいね
今日も一人楽しく、私は生きていく
-さよならは、なしにして- 余白
微熱が出たような温度のまま、あなたを忘れて行った。
「その人とはその後、どうなったの?」
何気ない会話の中で突然出たあの人の話に、動揺をしなかったのはなぜだろう。
私はきっとまだあの人を愛しているし忘れているわけもないのに、そう思いながらドロドロに溶けたホイップクリームを見つめていた。
目の前に座る現在の恋人は特段気にしているという様子もなく、私が過去一番好きだったと断言する昔の恋人についての話を続けた。
捨てる事を諦めてしまった
あの人に対する微熱のようななまあたたかい愛情は、今や私の一部となっていた。
「タイミングが、悪かったのかな。
ちゃんと好きだったんだけどね、私が誤解を与えちゃったのかな。」
浅はかな言葉たちが溢れていく。そんな自分に少しの落胆を覚えながら、動揺を隠すためにコップに手をかけた。
期間限定のいちごミルフィーユミルクティーは甘くてくどい。まるであの人に対する当時の自分の感情のようだと思った。
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「それカロリーやばいでしょ?」
いかにもイタズラ好きといった笑顔で、あの人ならそう言うだろう。
いちごソースの塊を流し込みながら、記憶の中のあの人の輪郭をなぞった。
世界で一番愛していたあの人は、四年前の十二月忽然と姿を消した。
理由は今だに、わかっていない。
警察から電話が来た時のあの衝撃と恐怖を、昨日のことのように思い出す。
力なく帰った帰りの道で、胃の中の全てを吐きそうになったことも、寒くもないのに手の震えが止まらなかったことも覚えている。
当然ながらその日はパニックに陥り、すんなり帰宅することできなかった。
一人でカラオケに行き、歌いながら少し泣いたりしてみた。
それでも次の日の朝には七時に起きて皮膚科へ向かった。
こんな状況下でもいい子を発動するその癖は、
治し難い私の嫌な'癖'だった。
やけ酒を飲み、友達の家に押しかける。朝まで泣いて、仕事を休んで引き篭もる。
そんな自分を想像し、そうなれたらどんなに楽だろうと思いを馳せた。
「嫌いだなぁ」
信号待ちの交差点で一人呟く。
十二月の風は優しさを知らない。ポケットに手を入れていないと痛いほど寒い。ただそれだけのことで、私は一人なんだと実感してしまう。
愛している人に立ち去られた時でさえある程度の客観性と冷静さを保つ自分を、心底気持ち悪いと思った。
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「そっか。それは残念だったね」
目の前に座っている現在の恋人は、淡白かつ少しの残念さを帯びた丁度の良い声で私に返事をした、
あぁ、この人のこういうところがいつも私を救う。
暖色のライトがつくカフェの店内で私は途端に安心感を覚えた。
いつも幸福感と安らぎをくれる、この人はそういう人だった。
あの人がいなくなって憔悴していた頃、この人に出会った。気が紛れればいい、そう思って何気なく話したあの日の電話で、私達は妙に意気投合した。
話せば話すほど気分は明るくなり、
気づけばどんな重たい話でさえも、口からすんなりと溢れていった。あの人の前では勇気を振り絞らなきゃいえなかった本音や願望が、この人の前だと驚くほど自然に口から出ていった。
その人といる自分が好きかどうかが大事である、と誰かが言った。納得はするものの、同時に
その人といる時の自分が好きでなくても会いたくなることもまた恋である、と私は考えていた。
あの人との恋は、お互いを傷つける恋であった。
刺激的である種の熱烈さを帯びたその恋は、幸せと同じくらいの分量の痛みと切なさを帯びていた。
この人との恋はまるで温泉のようであった。
体の芯からポカポカと温まり、気づけば自然体で安らぐ私がいた。いつもそこにあるのは、安心感と楽しさで、そこには地味だが小さな幸福と安らぎがあった。
「君は本当によく笑うね」
甘ったるいミルクティーを飲み終わって笑う私を見てこの人が言った。
その顔にあの人を輪郭を重ねてみる。
あぁ、私は彼をちゃんと愛していた。
その確信と同時に、今ここにある幸せを実感する。
私はこの人と生きていくんだ、この人を愛し愛されながら。
よく笑う恋人の顔を見つめながら、胸の中が幸福で満たされていくのを感じた。
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「甘えるのは苦手でしょ?」
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ふと、あの人の声が聞こえた気がした。
大好きな、忘れることのないあの人の声。
あなたには甘えられなかったけれど、甘えたいと思う人に出会えたよ。
あなたのことを愛していたの。
今でもずっと胸にある、微熱のような温度の愛情を感じながら最後の一口を飲んだ。
やっぱり甘ったるくて、もう頼まないなとそう思う。
でもこの味をきっと私はずっと覚えているだろう。
十二月の風刺すような寒さで、急いでコートのポケットに手をしまう。
「今年はちゃんと春が来るかなー」
「え、どういう意味?いつもちゃんと来てるでしょ?」
楽しそうに笑うこの人を見ながら、つられて私も笑っていた。
冬がまた好きになれればいい、あの人がいなくなるまでは一番好きな季節だった。
十二月の風も悪くない、頬を掠めていく風に少しの愛着を感じた。
見上げれば空は雲ひとつない快晴で、
大好きだったあなたの横顔を思い出しながら、あなたが笑顔でいればいい。そう思った。
ー終ー
私は、あなたに憧れていたんだと思う。
あなたの言う
「いいんじゃない?」に
あなたの言う
「君はどうしたいの?」に
あなたの言う
「そんなことを言ったら、君のことを好きな人が悲しむよ」に
ずっと、ずっと居場所を感じて生きてきたのだと思う。
苦しくて、切なくて、
でも嬉しくてたまらなくて、安心して、
気づけば弱みを見せてしまうあなたのことを
私は心から好きだと確信していたのだと思う。
否定もせず、遠ざかりもしない。
けれどそこには、簡単には越えられない透明な壁がある気がいつもしていた。
その壁を越えたくて、もしかして私なら越えさせてもらえるんじゃないか。そんな気がして。
追いかけて追いかけて、
近づきすぎて、追い越して、
振り返った時突然小さく見えたあなたに
私はひどく驚いたの。