「ラベンダーの香りとクリームパン」
作 余白
※登場人物
柳井馨(ヤナイ カオル)‥花屋のオーナー
密かにスミレに惹かれている
岸本すみれ(キシモト スミレ)‥花屋のアルバイト
「はじめまして、サボテンさん」
真っ白な指先は、サボテンに対する愛情をたっぷりと持ち合わせながら、その棘に触れた。
彼女の鼻歌が、狭くて簡素な青々しい店内に響く。
植物のおかげで透き通った店内の空気を揺らすその音は、優しくか細く、柔らかい。
「やけにご機嫌ですね」
驚いたようにこちらを見、しばらくて彼女はニカっと笑った。
「朝、クリームパンが買えたので!」
「あぁ、いつも売り切れてる例のクリームパン?」
「そうですそうです、やっと食べれるんだぁ〜あのクリームパンを!」
シュッシュッ。
サボテンの乾いた土に丁寧に霧吹きをする彼女は、やはりどこか嬉しそうだ。クリームパンの件が相当嬉しかったに違いない。
僕は釣られて鼻歌を少し歌い、それに気づいて恥ずかしくなった。
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
「好きだったんですよね〜、恋人が」
お昼休憩後、肘をつきながらレジカウンターに寄りかかった彼女が突然僕に話し始めた。
「え?」
「あのクリームパン、恋人のお気に入りだったんです。だから、どうしても買ってあげたくてね」
「そういえば、今日が誕生日だっけ?」
「そうなんです!だからどうしても買いたくて。
開店の30分前から並んでやっと買えました」
微笑む彼女の笑顔ほど優しいものを、僕は他に知らない。
彼女の胸の中で永遠に生き続けるその恋人は、どれだけ彼女を幸せにしたのだろうか。
今現在もなお、彼女に幸せを与え続けているのではないか。愛というものが何かは知らないけれど、二人を繋ぐものこそがそれである、と僕はなんとなく思った。
「帰ったら、ちゃんとお供えしよっと。二個買ったから、一つは私が食べちゃお。
柳井さん、ラベンダー買って帰りますね!」
クリームパンとラベンダーが好きだというその人に、彼女は今日も愛を捧ぐ。そんな彼女の儚さと美しさに、僕は生涯見惚れているに違いない。
※ラベンダーの花言葉‥「あなたを待っています」
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皆様こんばんは、余白です
急に冷え込みましたね‥( ; ; )
しまっていたダウンを引っ張り出してきた余白です
辛い思いでも、悲しいことも、
必ずしも忘れる必要はないと私は思っています
痛くて向き合いたくない時には逃げたっていいし
それでも、そっと覗いてみたくなったらみてみればいい
自分を許しながら進めたらいいなとそう思っています🪻
ところで皆様の好きなお花はなんですか?
お花がとても好きなので、ふとした時に花言葉をついつい調べたりしています☁️
明日は水曜日、週の真ん中ですね。
頑張りすぎず今週もゆっくりいきましょう‥🫧
皆様にとって癒しの時間が流れますように‥
ゆっくりとあたたかくしてお過ごしください☕︎
それでは、また*・☪︎·̩͙
短編「蝶を握る」
作 余白
登場人物
❀日野 雷花(ヒノ ライカ)‥紘の初恋の相手
❀砂川 紘(スナカワ ヒロ)‥雷花が心を許す後輩
「またね、紘くん」
まつ毛の先に見えた蝶は幻覚であった。
が、僕にはそれが本物にしか見えず、指先で掴もうと手を伸ばした。
「紘くん」
揺れる声で意識が戻る。
僕の指先は彼女のまつ毛に触れ、涙が溢れ出していた。
どうしても届かない、この人の奥底にはどうしても触れられないのだと理解する。
深い深い悲しみに、僕は溺れていった。
「ふふっ。またね!」
彼女は僕の全てだった。溶かしていった心をどうにもしてくれないまま、僕の元を去った。
桜がひらひら舞う春のあの日、彼女を生涯恨むことになるとそう感じた。
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
「結婚しよう」
「え?」
「結婚しようよ、紘くん」
大きな目に吸い込まれた僕は、
彼女以外のなにも目のうちに入れることができない。
彼女が好きだと言った色の絵の具で、今日も絵を描いている。
「だって相性いいと思うの、私たち。
ほら、掃除が苦手なのが一緒でしょ?
結婚したって喧嘩にならないじゃないの」
訳の分からない彼女の言葉を解読したくないと思った。その純度のまま脳から全身に送り込み、血液にしてしまおうと思った。これが証明、僕が彼女を好きであることの証明だ。
僕の飲んでいたオレンジジュースを手早く奪うと、全て飲み干して彼女が笑いかけてきた。
「きめた、紘くんは私が好き。
ね、好きでしょう?」
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
''好きな人がいるの、だから帰るんだ東京に。''
どうやら僕は彼女と結ばれることは永久にないらしかった。蹴り飛ばそうとした石ころを拾い上げて思いきり投げると、ゴツん、とどこかの家の窓にぶつかった。その音が妙に不快で、僕の心は混乱した。
一体僕は、何に苛ついているのだろう。
「嫌いです、先輩のこと」
僕の蝶は、僕の成長を待ってはくれない。
「‥そう、そっか。
私はふられちゃったみたいだね」
えへへ、と笑う彼女に僕は冷たい眼差しを向ける。
なんというずるい蝶、僕は二度と恋なんてするものかとそう思った。
やけに大事そうに見えた薬指のリングは、彼にもらったものなのだろうか。所詮僕は蝶に踊らされる子供でしかないみたいだった。
そうか、僕は悲しかったんだ。彼女が僕を好きにならないという事実だけが、永遠に僕を蝕んでいく。
青い空にひらひら舞う蝶々をみつめながら、伸ばした指先で握りつぶしてしまいたいとそう思った。
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
こんばんは‥☪︎ 余白です。
今日は月曜日、週初めですね。
皆様お仕事、学校、お疲れ様です。
疲れましたね、ゆっくり休んで癒してください。
悲しさややるせなさは、ときどき夜に突然やってきて覆い被さってきたりします
重いよ〜といっても、なかなかどいてくれなかったり
そんな夜はちょこっと悲しみに浸ってみるのも悪くないかなと最近思います
皆様の一週間が素敵なものになりますように‥*̣̩⋆̩
頑張りすぎず、時には休みながらゆっくり行きましょうね
それでは、また*★¨̮
短編 「涙をみたことがない」
作 余白
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※登場人物
⚪︎私(物語の語り手)
⚪︎彼(私の最も好きだった元恋人)
⚪︎その人(私の現在の恋人)
「本当に、はーちゃんは泣かないよね」
ふと彼の言葉が頭をよぎる。
今頃、どこで何をしているのだろうか。
記憶の中の黒髪が揺れ、夏の夜の香りと湿度が肌に張り付く。あの夏の夜以降、彼にまつわる一切は遠く離れて私の元から消えた。
私は、弱さを見せるのが極端に苦手であった。
それが彼をひどく不安定にさせた。
「結局はーちゃんにとって、僕はその程度なんでしょう?」
私を責める刃だと思っていたあの言葉も、今思えば彼の必死の歩み寄りの一つだったと考えられる。
「弱さを見せて」という、彼の本心にたどり着くまでには長い長い時間が必要だった。
幼く、若く、快活であった私は、思慮深く、控えめで依存心の高い彼の良き理解者にはなれなかった。
誰に見せるわけでもない私の涙は出るところを忘れ、いつしか枯れていった。
努力も虚しく、彼の前で崩れることは二度となかった。立ち上がれなくなり、ドロドロに溶け、あなたに救われてしまいたかったのに。
それができない弱さに、浅い笑みを浮かべて絶望した。私はいつ、誰になら涙を見せられるのだろう。
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄
「僕の精神の安定している時でお願いします」
その人は実直な言葉だけを発する人であった。
口から出る言葉に装飾はなく、それは時に距離や痛い事実を含んでいた。やけに楽で心地がよい、自然体とはこの事かと私は初めて他人に気を許した。
自らの欠点を進んで開示する程に、その人にに対する自己開示に躊躇がなかった。
布団の中で足を擦る。冷えた足は二度と体温を取り戻さない。私はいつか、涙を見せられるのだろうか。
私の愛するその人に、涙を見せることができるのだろうか。崩れ落ち溶けていき、そこから救い出してもらうことに戸惑うことなくありがとうを言えるだろうか。
体温を分けてもらったおかげで少しだけ温まった足先に愛情を感じながら、この夜が長く続けばいいとそう思った。
- - - - - - - - - - - 𖤘 - - - - - - - - - - -
みなさんこんばんは、余白です。
今日はやけに冷え込んでいますね‥
お身体お変わりないでしょうか?
もう週末なのですね‥!なんだか日々があっという間で、、驚いています。
それに2025年が始まってもう三ヶ月が過ぎたなんて‥!
気づいたら半年が経過してしまいそう。
素敵な夜をお過ごしくださいませ。
それでは、また☽⁺。゚
「七色のともだち」 有馬壮編
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※登場人物
⚪︎有馬壮 アリマ ソウ
(高校二年生/男子/七瀬の幼馴染)
⚪︎七瀬 薫 ナナセ カオル
(高校二年生/女子/有馬の幼馴染)
※これは前回出した「七色のともだち」瀬川編とは違う世界線の、けれど同じ構成で描かれた色違い作品です📕
「七瀬、帰ろう」
振り返った彼女の髪が揺れる、その黒黒とした艶に僕は見惚れている。
「うん、帰ろう」
幼馴染、それ以上でも以下でもない関係性。
変わることのない関係性。
誰も踏み込むことのない関係性。
決してその先には行けない関係性。
恋人になりたいなんて望みはしない、だけど七瀬に恋人ができません様にと心の底から願っている。
七瀬の幸せを純粋に願えない僕は、本当の意味で彼女を愛せてはいないのだろう。詰まるところ、彼女を好きでいる自分自身の方が、よっぽど好きに違いないのだ。
「溶けてるね」
水色のアイスバーを頬張る彼女が言う。僕は彼女の頬に垂れたソーダ味の水滴を見つめていた。僕の手元にある白色のアイスバーは、どうやらドロドロに溶けているらしかった。
どうでもいい。彼女が僕を好きになります様に、彼女が僕を好きになります様に、彼女が僕を好きになります様に。付き合う事を望まないなんて、嘘だ。彼女が僕に抱きついて愛を囁けばいいのに、彼女が僕だけのものになればいいのに。素知らぬ顔でそう望んでいる僕は卑怯で、その心地の悪い罪悪感を持ちながら七瀬の隣平然と歩く。幼馴染の皮を被った化け物である。
「そういえば洸くんがね、私の肖像画を描きたいんだって。それを、次の絵画のコンクールに出展してもいいかって聞かれたんだよね」
眉間に皺が寄る。この世で最も不快な言葉は彼女が口にする「洸くん」である。
彼女の一番は僕なのに、一番近い友達は僕なのに、一番近くにいたのは僕なのに。それでも天邪鬼の僕は微笑みながらありもしない余裕を見せる。
「いいね、きっと素敵に描いてくれるよ」
七瀬は僕の言葉を無視して、アイスの棒を舐め始める。ドロドロに溶けた僕の白色のアイスバーはもはや食べるところがなくなっていた。彼女の呼ぶ「洸くん」を思い出し何度もイラつく。バキッと音を立てて右手にあったか細いアイス棒が折れた。
「機嫌、悪いの?」
もう味がしないであろうアイス棒を咥えながら、七瀬が僕を覗き込む。僕は少しだけ微笑んで、彼女を無視して歩くスピードを少し早めた。
「七色のともだち」 瀬川 雪編
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※登場人物
瀬川雪 セガワ ユキ
(高校二年生/男子/七瀬の幼馴染)
七瀬 薫 ナナセ カオル
(高校二年生/女子/雪の幼馴染)
「七瀬帰ろう」
振り返った彼女の髪が揺れた。それだけで彼女をまた好きになる、僕は彼女の幼馴染である。
「うん、帰ろう」
隣で七瀬が体操服を忘れた話をしている。どうでもいい、というと「それで〜」と被せてくる彼女が子供みたいに笑っている。口の端だけをきゅっとあげて笑うその表情は、子供がいたずらをする時のものに似ている。本当に変なやつだな。僕はまた、彼女を好きになる。
コンビニでアイスを買いたいと言うと、ふーんいいよと言いながらついてくる。ジャンケンで買った方が奢りにしようと訳のわからないことを言い出したので、仕方なく付き合う。彼女は今、自分がどんな目をしているのか分かっていないのだろう。獲物を狙う猫のような目つきで構える彼女を、本当のアホじゃないか?と思った。七瀬ほど楽しげにジャンケンをする人も珍しい。僕はまた、彼女を好きになる。
「溶けてるね」
隣でクッキーサンドを頬張っている七瀬は、こういう時だけちゃっかり負ける。それがとても、七瀬らしい。手の体温が高いからか、僕のチョコミントバーはドロドロで食べるところがもはや少ない。
「そういえば洸くんがね、私の肖像画を描きたいんだって。それを、次の絵画のコンクールに出展してもいいかって聞かれたんだよね」
そう。
そう答えて、ドロドロのチョコミントバーを舐める。どうやら七瀬は洸くんと上手くいってるみたいだ。この夏どこに出かけようかな?と昨日も相談されたばかりだった。
無難に花火とかテーマパークとかは?と提案したのに、いやぁそれはもうちょっとしてからかな〜と考えてすらくれなかった。あれはおそらく相談ではなく惚気だったのだろう。バカだなぁ、そう言う可愛いところが七瀬はにはある。僕はまた、彼女を好きになる。
ところで洸くんは前世で何をしたんだろう?七瀬と恋人になれるかもしれないなんて相当の徳を積んだに違いない。どうせ僕みたいなやつは前世で大した徳を積んでいないのだ、むしろ罪を犯していないかが心配なレベルである。今世はひたすら徳積みの段階という感じなので、七瀬と付き合えるなんてあるはずもない。羨ましくはあるけれど仕方ない、七瀬が好きになった洸くんがどうかいいやつでありますように。
「いいね、きっと素敵に描いてくれるよ」
ね〜。
七瀬が適当な返事をする。
こいつ。
そのてきとうすぎる相槌に思わず笑う。僕は七瀬の、いかにもてきとうな相槌がすごく好きだ。
笑う僕に、七瀬は「一体何に笑ったんだ?」と、変人を見つめるような眼差しを向ける。僕の笑いは大抵七瀬から生み出されているのに、それに全く気づいていない。僕の笑いの感性に、隣でいちゃもんをつけている。僕はまた、彼女を好きになる。
夏休みは、七瀬にあんまり会えなくなるのかな。二人で花火大会に行きたかったけれど、あんまり誘うのも良くないか。二人で会うこと自体、良くなかったりするのかな?考えても分かることのない'洸くんの恋愛価値観'について想像していたら、手遊びが過ぎて右手の中にあるアイス棒をバキっと折ってしまった。
「あ‥」
「も〜、そういうところだよ。怖いからやめなよ」
七瀬が折れたアイスの棒に過剰反応を示す。彼女曰く、僕は何を考えているかわからない瞬間があるようで、それについての説明と説教を食らう。わかったよもう、突然捲し立てて喋ることでもないだろう?興奮した様子で話す彼女が面白くてまた笑うと、不思議な顔をして首を傾げられる。僕はまた、彼女を好きになる。
テーマパークとかいったら、お揃いの耳とかつけるのかな。二人で写真を撮ったりするのかな?僕だったら、七瀬とどんなふうに過ごすだろう。とにかくずっと笑ってる気がする、七瀬が何をしてても僕にとってはその全てが面白くておかしいのだから。
「機嫌、悪いの?」
「え?
いや、全然。妄想に浸ってた」
「なんだ、なんかちょっと険しい顔してたよ」
それを聞いて驚いた。僕は自分が思ってる以上に、七瀬と恋ができる洸くんが羨ましいのだろう。僕の叶えたいことをこれから全部叶えていくであろう彼が、羨ましくて仕方がない。
「なんか楽しい話あったら聞かせてね、休み中でも」
「洸くんとの?」
「そう」
了解っ!と弾んだ返事をする彼女は明らかに機嫌が良さそうで、本当にわかりやすい子だなと面白くなる。
僕はまた、彼女を好きになる。