最後の声は、もう覚えていない。
研ぎ澄ますほどの感覚の繊細さもないけれど、僕の持つ五感全てを研ぎ澄ませ、遠い記憶を手繰り寄せてみても尚思い出せずにいた。
ただ、あの時初めて観た君の泣き顔だけが、九年経とうとしている今でも脳裏から離れない。
よく笑う人やつだと思っていた。
屈託のない笑顔に白い歯が眩しくて、どこにいたってよく目立つ君はなぜこんな僕に構うのかと不思議でしょうかなかった。
頭の回転が早くIQも高いのにそれを鼻にかけたりせず、誰にでも尻尾を振るわけではないが偏見や差別を持たないあまりにも真っ当なやつ。
そんなお前が好きだったのに。
真剣になると黙る癖も、辛いものが苦手なのに人に合わせて言えない所も、思考するのが好きすぎて謎解きばかりにハマるところも知っているのに、何か足りない。あと互いのなにを知れば、僕ら二人は完結できたのだろう。未完成のままの物語を未だ閉じることができない僕は、過去形で君の全てを語ることができずに情緒を不安定にさせていく。それでも時も環境もいつしか流れて変わりゆき、君とは遠くの幸せをたくさん腕に抱える様になった。
僕らは何処まで行くのだろうか、互いを縛り合わずには生きられない。そんな呪縛からはいつしか解放されようと、次会った時に言ってみようかと考える。
青に浸って沈んで死んでいくこの気持ちが更なる呪いとなりません様にと、夏の空の下でそう願った。
6/27/2025, 6:57:49 AM