特別な日
今日僕にとっては特別な日のはずで、片時も忘れなかった自分を褒め讃えたい気持ちになる。
いつか恋をしていた女の子と、僕はある約束をした。
「大きくなってもお互いを好きでいられたら、その時のいちばんの宝物をこの木陰で交換しよう」というものだった。なんとも子供らしい、あどない可愛さを帯びた約束だった。
君に会えるのは決まっていつもこの大きな木の下で、とりわけ何も無いこの丘の上が、僕にとっては特別な場所へと変わっていった。
「君の好きだった蝶の本、それからよく集めてた透明な石。星座のシールも入れておくね」
病弱だった君はいつしかこの丘に現れなくなった。ほれから僕は毎日この丘で、病室の君へと手紙を書いた。僕の描く絵はがきをたいそう気に入っていたと、あとから耳にした。
「僕は今、学校で美術を教えているよ。学生はヤンチャなこも多くて大変だけど、毎日がとても楽しいんだ。」
そちらの世界は、どんな風なのだろうか。
いくら想像をしてみても君の姿はあの頃のままで、大人になった君を僕は空想の中ですら見ることが出来ないのかと少しだけ切なつなる。
風が吹いた。暖かく、心地い風。
僕は風に背中を押されている気がし、歩き出す。
帰ったら珈琲でも入れることにしよう。だって今日は、特別な日なのだから。
7/18/2025, 2:30:02 PM