余・白

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1/28/2025, 4:06:42 AM

小さな勇気をもって、あなたに言った

「ごめんね」と。

何故あなたを好きになれなかったのか、考えてみた。



短編  さよならは私が決めた、今
作   余白


家族が欲しいと思った、漠然と。
今すぐにと言うわけではないが、いつか欲しいとそう思った。

結婚なんてそのうちできると思っていたし
おそらくそれに見合うお付き合いができる恋人も、
そのうちできると思っていた。

気づけばアラサーに突入し、気づけば一人で楽しく生きられるようになっていた。
「自立しすぎた人は恋愛から遠ざかる」とよく聞くが、それは本当なのだろうと傲慢にも感じてしまった。

「まずは恋人から作ってみよう」
今考えればここから間違いな気がするが、
早速人と会うことを拒み続けてきた習慣をやめた。

土日のお昼時間がなくなっていく。
「ランチしましょう」と、大して親密でもない誰かとご飯を食べる日々。
そろそろ諦めようと思っていたその時、あなたに出会った。
共に本屋に行けば、あなたは私のお気に入りの小説に手を伸ばした。
ご飯を食べに行けば、私が一番好きだと思ったものに「これ美味しい」と感動した。
大好きだけどさほど有名でない深夜ドラマを
あなたは一番好きなドラマだと言った。

きっと運命に違いない、この人なんだ、そう思った。
だけれどほろほろとその糸は解けていく。

時間が経てば経つほどに感じる違和感に、見ないふりをした。
心から願ったからだ、「どうかこの人が運命の人でありますように」と。

私は過度に束縛を嫌った。
浮気なんてしたことも、することも一度もない。
ただ、誰かに何かを制限されることに恐怖を感じる。
異常な恐怖心は、小さい頃から全てを把握したがった父親の影響だと、そうわかっていた。
力で何もかも支配しようとしていたあの姿を、どうしても思い出してしまう。

せめて友人くらいは自由に会いたいと思う私と
恋愛対象になり得るからと制限したがるあなた
その違いに気づいたのに、私は見ないふりをした。

「こう言っとけば、どうせ好かれるからさ」
年上の先輩との関係性について話をした時、あなたがいった。笑った貴方をみて私は思った、
この人、怖い。と

頭が良い貴方が好きだったのに、
その頭の良さがだんだん怖くなっていった。
どの笑顔が本当で、どれが嘘なの?
正直すぎるくらいがちょうどいい
そんな風に思っていた。
なにか皮をかぶっている人が極端に苦手で
(これもおそらく父親の影響だろう、外では仏のようだったが家での豹変ぶりを思い出すから)
彼にそれと似たようなものを感じてしまった。

きっと運命の人
貴方を好きになるんだわ
この人を好きになれば幸せになれる


キラキラとハラハラと
気持ちは溶けて消えていく

恋愛をするために恋愛をしにいった私は
幸せって何だっけ?
自分自身の精神世界に舞い落ちていく


「好きな人ができなきゃ意味がないのね」

やっと気づき、立ち上がり、一人淡々とまた歩いていく

運命の人?会えたらいいね
今日も一人楽しく、私は生きていく






11/26/2024, 11:45:41 PM

-さよならは、なしにして- 余白


微熱が出たような温度のまま、あなたを忘れて行った。


「その人とはその後、どうなったの?」

何気ない会話の中で突然出たあの人の話に、動揺をしなかったのはなぜだろう。
私はきっとまだあの人を愛しているし忘れているわけもないのに、そう思いながらドロドロに溶けたホイップクリームを見つめていた。

目の前に座る現在の恋人は特段気にしているという様子もなく、私が過去一番好きだったと断言する昔の恋人についての話を続けた。
捨てる事を諦めてしまった
あの人に対する微熱のようななまあたたかい愛情は、今や私の一部となっていた。

「タイミングが、悪かったのかな。
ちゃんと好きだったんだけどね、私が誤解を与えちゃったのかな。」

浅はかな言葉たちが溢れていく。そんな自分に少しの落胆を覚えながら、動揺を隠すためにコップに手をかけた。
期間限定のいちごミルフィーユミルクティーは甘くてくどい。まるであの人に対する当時の自分の感情のようだと思った。

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「それカロリーやばいでしょ?」
いかにもイタズラ好きといった笑顔で、あの人ならそう言うだろう。
いちごソースの塊を流し込みながら、記憶の中のあの人の輪郭をなぞった。


世界で一番愛していたあの人は、四年前の十二月忽然と姿を消した。
理由は今だに、わかっていない。
警察から電話が来た時のあの衝撃と恐怖を、昨日のことのように思い出す。
力なく帰った帰りの道で、胃の中の全てを吐きそうになったことも、寒くもないのに手の震えが止まらなかったことも覚えている。
当然ながらその日はパニックに陥り、すんなり帰宅することできなかった。
一人でカラオケに行き、歌いながら少し泣いたりしてみた。

それでも次の日の朝には七時に起きて皮膚科へ向かった。
こんな状況下でもいい子を発動するその癖は、
治し難い私の嫌な'癖'だった。

やけ酒を飲み、友達の家に押しかける。朝まで泣いて、仕事を休んで引き篭もる。
そんな自分を想像し、そうなれたらどんなに楽だろうと思いを馳せた。

「嫌いだなぁ」

信号待ちの交差点で一人呟く。
十二月の風は優しさを知らない。ポケットに手を入れていないと痛いほど寒い。ただそれだけのことで、私は一人なんだと実感してしまう。
愛している人に立ち去られた時でさえある程度の客観性と冷静さを保つ自分を、心底気持ち悪いと思った。


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「そっか。それは残念だったね」

目の前に座っている現在の恋人は、淡白かつ少しの残念さを帯びた丁度の良い声で私に返事をした、
あぁ、この人のこういうところがいつも私を救う。
暖色のライトがつくカフェの店内で私は途端に安心感を覚えた。
いつも幸福感と安らぎをくれる、この人はそういう人だった。

あの人がいなくなって憔悴していた頃、この人に出会った。気が紛れればいい、そう思って何気なく話したあの日の電話で、私達は妙に意気投合した。

話せば話すほど気分は明るくなり、
気づけばどんな重たい話でさえも、口からすんなりと溢れていった。あの人の前では勇気を振り絞らなきゃいえなかった本音や願望が、この人の前だと驚くほど自然に口から出ていった。

その人といる自分が好きかどうかが大事である、と誰かが言った。納得はするものの、同時に
その人といる時の自分が好きでなくても会いたくなることもまた恋である、と私は考えていた。


あの人との恋は、お互いを傷つける恋であった。
刺激的である種の熱烈さを帯びたその恋は、幸せと同じくらいの分量の痛みと切なさを帯びていた。

この人との恋はまるで温泉のようであった。
体の芯からポカポカと温まり、気づけば自然体で安らぐ私がいた。いつもそこにあるのは、安心感と楽しさで、そこには地味だが小さな幸福と安らぎがあった。

「君は本当によく笑うね」
甘ったるいミルクティーを飲み終わって笑う私を見てこの人が言った。
その顔にあの人を輪郭を重ねてみる。

あぁ、私は彼をちゃんと愛していた。
その確信と同時に、今ここにある幸せを実感する。
私はこの人と生きていくんだ、この人を愛し愛されながら。
よく笑う恋人の顔を見つめながら、胸の中が幸福で満たされていくのを感じた。

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「甘えるのは苦手でしょ?」

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ふと、あの人の声が聞こえた気がした。
大好きな、忘れることのないあの人の声。


あなたには甘えられなかったけれど、甘えたいと思う人に出会えたよ。
あなたのことを愛していたの。


今でもずっと胸にある、微熱のような温度の愛情を感じながら最後の一口を飲んだ。
やっぱり甘ったるくて、もう頼まないなとそう思う。
でもこの味をきっと私はずっと覚えているだろう。

十二月の風刺すような寒さで、急いでコートのポケットに手をしまう。

「今年はちゃんと春が来るかなー」

「え、どういう意味?いつもちゃんと来てるでしょ?」
楽しそうに笑うこの人を見ながら、つられて私も笑っていた。
冬がまた好きになれればいい、あの人がいなくなるまでは一番好きな季節だった。
十二月の風も悪くない、頬を掠めていく風に少しの愛着を感じた。

見上げれば空は雲ひとつない快晴で、
大好きだったあなたの横顔を思い出しながら、あなたが笑顔でいればいい。そう思った。

ー終ー

8/24/2024, 2:23:25 PM

私は、あなたに憧れていたんだと思う。

あなたの言う
「いいんじゃない?」に
あなたの言う
「君はどうしたいの?」に
あなたの言う
「そんなことを言ったら、君のことを好きな人が悲しむよ」に

ずっと、ずっと居場所を感じて生きてきたのだと思う。


苦しくて、切なくて、
でも嬉しくてたまらなくて、安心して、

気づけば弱みを見せてしまうあなたのことを
私は心から好きだと確信していたのだと思う。

否定もせず、遠ざかりもしない。
けれどそこには、簡単には越えられない透明な壁がある気がいつもしていた。

その壁を越えたくて、もしかして私なら越えさせてもらえるんじゃないか。そんな気がして。

追いかけて追いかけて、
近づきすぎて、追い越して、
振り返った時突然小さく見えたあなたに
私はひどく驚いたの。

7/18/2024, 2:28:09 AM

短編 -遠い日のあなたを忘れることは-

※今回の内容は少しきつい言葉や表現が出てくるため、苦手な方は飛ばしてください‥ 余白より

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「どうして言った通りにできないんだよ?」

怒鳴り声が響き渡る、23時半。
母に投げられたティッシュボックスがコロコロと音を立て、床に落ちていった。

妹が泣き始めた。
この地獄が、今日はあと何時間続くだろう。



家には、怪物がいる。
怪物は、普段人間のふりをするのがうまい。
だからみんなは口を揃えて言う。
「本当に優しそうなお父さんだね」

私はみんなの言う'お父さん'がどれだけ優しいのか知らない。だから頷きもせず、否定もしない。
曖昧に微笑む私の脳裏に浮かんでいるのは、
豹変したあの姿。

原因はきっと、いろいろあるのだろう。
会社であった何か、プライベートであった何か。
何かに触発され、母に子に怒りをぶつけ発散する。
泣き叫ぶ子供に情け一つかけず、破壊と暴言を繰り返す。

そして決まって翌日、声色を変えてプリンを買ってくる。それだけで許されると思っている、恐ろしい生き物。

なんて、愚かな'怪物'だ。

そういえば当時、一番仲良くしていた男の子に
「お前、父ちゃんにちゃんと優しくしてる?」
と聞かれたことがあった。

「普通、かな」
と答えた私に彼は、


「女の子ってひどいよなー。
優しくしないとかわいそうだよ?父ちゃん。」

と言われてしまった。

当時それが相当応えた。
何も返す言葉が見つからず、黙ってその場を立ち去った気がする。


そして、きっと彼の父親は素敵な人なのだろうと勝手に寂しくなった。



誰にも相談できない。
友達に言ってしまったら、噂は勝手に一人歩きをはじめイジメに発展する可能性だってある。そんなことになったら、学校に行けなくなる。

ただでさえ近所には
怪獣が豹変した後の怒鳴り声や物音を聞いて、
何回か通報した人がいるんだ。

-私の口から何かを発言してしまったら、平穏から遠ざかってしまう。-

当時の私は本気でそう思い込んでいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー✂︎

「こんな話、わかってもらえる人がいるなんてね」

そう言った親友は。安堵と悲しみに満ちた表情をしていた。
その顔を見ながらふと、当時の私に思いを馳せる。

毎日が地獄だった、あの頃。
ずっと怯えて生きていた、あの頃。
やがて地獄の日々は終わりを迎え、
同じような経験をした親友が唯一の理解者になってくれた。こんなにも平穏な生活が送れるようになるなんて、当時は想像すらできないだろう。

そして私たち家族を苦しめてきた怪物には、それなりの報復が待っていた。

遠い日のあなたを忘れることは決してないけれど、
あの頃がなければ今の私もない。
そう思えば、その憎しみさえゆっくりと手放すことができる。

誰もが、人には言ったことのない'あの頃'を持っている。
'あの頃'の自分に伝えられる言葉があるなら私は迷わず、


「大丈夫だよ」



と言うだろう。



ーーーーーーーーーーーーーー

「ただいま!」

今、私の全ての幸せは
この家の中から生まれている。
大好きな人たちの、泣き顔ではなく笑顔を見つめ、
生きている。




-遠い日のあなたを忘れることは-完


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あとがき

初めまして、余白です。
前回と前々回の短編を読んでいただき、またたくさんのいいねを押していただき本当にありがとうございました。
心から嬉しかったです‥

今回も恋愛を描こうかと迷いましたが、
お題を見た瞬間に浮かんできたこちらの物語にしてみました。
激しいものが苦手な方、ごめんなさい‥

誰しも、人には見せない部屋や(心理的な)
社会で生きていく上で見せないようにしてる面があるのではないかな?と。思っています。
(全員ではないと思いますが‥!)

それが、幼少期の記憶やトラウマだったり
そこで育った弱い自分だったり。

たまにその部屋を覗いて 
うずくまっている小さな自分に、
「やぁ元気?」
と話しかけてあげると、なんとなくその子に喜んでもらえるきがしませんか‥?(伝わるかな‥) 

自分はできるだけ、
普段見ないようにしてしまいがちな 
'小さくて弱い自分'を置いてきぼりにしないで生きたい。と常、思っています。

今回はどちらかと言うと'苦しみ'をみつめるような作風でしたが、同時に'楽しさ'をみつめる作業もとても大切なことだと思っています。

楽しいを突き詰めるような作品も描きたい!
と思うのですが、、、なかなか自分の描くものは、色で例えると寒色系が多い気がしています。
今後に期待‥ですね。(笑)

こちらでの短編がまとまったら、いつかKindleで出版もしたいな‥なんて思ったりもしています。
(短編をたくさん集めないと‥)

なんだか変な奴がいるな‥
と言うくらいで見守っていただけますと幸いです。


それでは、皆様また‥!


余白



6/30/2024, 3:38:47 AM

ー入道雲が喰らった初恋ー




入道雲が君の全てを覆い隠した。

あの夏 君は、本当はなんて言いたかったったのだろう。


「俺らは、ずっとこの距離だと思うよ。
 良かれ悪かれね。」

真夏の空の下、大きな入道雲を眺めていたら届いた
君からの返信メール。
そこに書いてあったこの一言を、三年経った今もずっと忘れることができない。


誕生日おめでとう。
大人になってもずっと仲良しかな
それともお互い家族ができたりして、
会わなくなるのかな なんてね




確か、僕はこんなメールを送ったと思う。







先に好きになったのは、僕だと思う。
君は知らないだろうな、話したことがないから。

ヤンチャで派手で人気があって、大体の先生のお気に入り。一生関わる事なんてないと思ってた。

隣の席になった君は、思ったよりフレンドリーなやつで、僕がなにげなくいう一言にいちいち大爆笑してた。
中学に上がるまでには、周りからもセット扱いされるくらい仲が良くなっていた。





君は、僕になんども「好きだ。」と言ってくれた。
その度にこの言葉が僕の頭を支配する。

「大切すぎてどうすればいいかわからない」

君を失いたくなかった。
恋愛関係なんていつかは終わる。
長い長い学生生活の間、僕はただ必死に
''君との関係を永遠のものにしよう''と友達に徹し続けた。

二十歳の誕生日
僕が抱くこの気持ちは愛である、
そう気づいたときには、もうすべてが遅かった。


「俺らは、ずっとこの距離だと思うよ
良かれ悪かれね。」


いつからだったのだろう?
君に近づこうとするのに、ある一定の距離までしか近づくことができない。
それ以上先は、どうしても進む事ができなかった。
ーお前とは友達以上にはなれないよー
ーお前に俺の弱さの全てを見せられないー
そんな声が、聞こえた気がした。

失いたくないが故に僕がとったあの行動は、
僕らの絆を永遠にするものではなく
君と僕の間に目には見えない深い溝を作る行為だったと、僕はその日初めて気がついた。

君は恋人の家に入り浸るようになった。
弱さを共有し、互いに慰め合いながら生きているらしい。
永遠を望んだその先に僕が見たものは、
友情にも恋愛にもなりきれなかった行き場のない愛情と歪んだ執着心だった。






あのメールをもらった夏から三年。
君への愛情が、まだあと少し、ほんの少しだけ残っている。この夏に全て溶けてしまいそうなほどに、ほんの少しだけ。
 
「俺らは、ずっとこの距離だと思うよ。
良かれ悪かれね。」

君のことだからきっと、僕を傷つけまいと遠回りして言葉を選んだんだろう?
あの夏、本当はなんて言いたかったの?


見上げた空に、あの日見たような入道雲。 



僕の中にある君への想いを全部、
この先永遠に覆い隠してくれる気がした。







ー入道雲が喰らった初恋ー終

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