短編 -遠い日のあなたを忘れることは-
※今回の内容は少しきつい言葉や表現が出てくるため、苦手な方は飛ばしてください‥ 余白より
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「どうして言った通りにできないんだよ?」
怒鳴り声が響き渡る、23時半。
母に投げられたティッシュボックスがコロコロと音を立て、床に落ちていった。
妹が泣き始めた。
この地獄が、今日はあと何時間続くだろう。
家には、怪物がいる。
怪物は、普段人間のふりをするのがうまい。
だからみんなは口を揃えて言う。
「本当に優しそうなお父さんだね」
私はみんなの言う'お父さん'がどれだけ優しいのか知らない。だから頷きもせず、否定もしない。
曖昧に微笑む私の脳裏に浮かんでいるのは、
豹変したあの姿。
原因はきっと、いろいろあるのだろう。
会社であった何か、プライベートであった何か。
何かに触発され、母に子に怒りをぶつけ発散する。
泣き叫ぶ子供に情け一つかけず、破壊と暴言を繰り返す。
そして決まって翌日、声色を変えてプリンを買ってくる。それだけで許されると思っている、恐ろしい生き物。
なんて、愚かな'怪物'だ。
そういえば当時、一番仲良くしていた男の子に
「お前、父ちゃんにちゃんと優しくしてる?」
と聞かれたことがあった。
「普通、かな」
と答えた私に彼は、
「女の子ってひどいよなー。
優しくしないとかわいそうだよ?父ちゃん。」
と言われてしまった。
当時それが相当応えた。
何も返す言葉が見つからず、黙ってその場を立ち去った気がする。
そして、きっと彼の父親は素敵な人なのだろうと勝手に寂しくなった。
誰にも相談できない。
友達に言ってしまったら、噂は勝手に一人歩きをはじめイジメに発展する可能性だってある。そんなことになったら、学校に行けなくなる。
ただでさえ近所には
怪獣が豹変した後の怒鳴り声や物音を聞いて、
何回か通報した人がいるんだ。
-私の口から何かを発言してしまったら、平穏から遠ざかってしまう。-
当時の私は本気でそう思い込んでいた。
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「こんな話、わかってもらえる人がいるなんてね」
そう言った親友は。安堵と悲しみに満ちた表情をしていた。
その顔を見ながらふと、当時の私に思いを馳せる。
毎日が地獄だった、あの頃。
ずっと怯えて生きていた、あの頃。
やがて地獄の日々は終わりを迎え、
同じような経験をした親友が唯一の理解者になってくれた。こんなにも平穏な生活が送れるようになるなんて、当時は想像すらできないだろう。
そして私たち家族を苦しめてきた怪物には、それなりの報復が待っていた。
遠い日のあなたを忘れることは決してないけれど、
あの頃がなければ今の私もない。
そう思えば、その憎しみさえゆっくりと手放すことができる。
誰もが、人には言ったことのない'あの頃'を持っている。
'あの頃'の自分に伝えられる言葉があるなら私は迷わず、
「大丈夫だよ」
と言うだろう。
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「ただいま!」
今、私の全ての幸せは
この家の中から生まれている。
大好きな人たちの、泣き顔ではなく笑顔を見つめ、
生きている。
-遠い日のあなたを忘れることは-完
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あとがき
初めまして、余白です。
前回と前々回の短編を読んでいただき、またたくさんのいいねを押していただき本当にありがとうございました。
心から嬉しかったです‥
今回も恋愛を描こうかと迷いましたが、
お題を見た瞬間に浮かんできたこちらの物語にしてみました。
激しいものが苦手な方、ごめんなさい‥
誰しも、人には見せない部屋や(心理的な)
社会で生きていく上で見せないようにしてる面があるのではないかな?と。思っています。
(全員ではないと思いますが‥!)
それが、幼少期の記憶やトラウマだったり
そこで育った弱い自分だったり。
たまにその部屋を覗いて
うずくまっている小さな自分に、
「やぁ元気?」
と話しかけてあげると、なんとなくその子に喜んでもらえるきがしませんか‥?(伝わるかな‥)
自分はできるだけ、
普段見ないようにしてしまいがちな
'小さくて弱い自分'を置いてきぼりにしないで生きたい。と常、思っています。
今回はどちらかと言うと'苦しみ'をみつめるような作風でしたが、同時に'楽しさ'をみつめる作業もとても大切なことだと思っています。
楽しいを突き詰めるような作品も描きたい!
と思うのですが、、、なかなか自分の描くものは、色で例えると寒色系が多い気がしています。
今後に期待‥ですね。(笑)
こちらでの短編がまとまったら、いつかKindleで出版もしたいな‥なんて思ったりもしています。
(短編をたくさん集めないと‥)
なんだか変な奴がいるな‥
と言うくらいで見守っていただけますと幸いです。
それでは、皆様また‥!
余白
7/18/2024, 2:28:09 AM