題:繰り返しの日々
人間の寿命は短い。
天界の12日が人間界にとっての12年のように、私にとっての1年は、人間にとっての百年。
「永遠などない」
人間はそう言う。でもそれは人間だからで、永遠はある。
星は死ねない。
死んでもまた新たな星になる。繰り返し繰り返し生まれ変わる。
それは魔女も同じ。
魔女はある程度成長すると肉体の成長が止まる。それに、仮に死んだとしても肉体と魂が縛られてるから、魂が離れることはなく、肉体が回復する。
死ねないから生まれ変われし、繰り返しの日々は大変つまらない。
私が生まれてから一万年以上が経った。
世界が変わっていく様は何度も見てきた。
魔女狩りが始まっても、魔法が禁忌になっても、どうでもよく思っていた。
……でも、今回だけはどうでもよく思えなかった。
私を魔女だと知りながら、仲良くしてくれた人が死んだ。
あっという間だった。たった九十年だった。この国の姫だった。よく笑う、可愛い子だった。
人間が死んでも何も感じなかった私が、人間が死んで初めて泣いた。
永遠なんてないということを、痛いほど思い知らされた。
人間は、寿命が短く儚いからこそ美しいものなのだと思った。
お題『永遠なんて、ないけれど』
題:真の涙
涙の理由って、色々あると思うんだ。
例えば、哀しい時、怒っている時、嬉しい時、楽しい時。
私は、『哀しい時』以外泣いたことがない。怒ったことはないし、嬉しいと思っても笑うだけ、楽しいと思った時も泣かない。
だから、哀しい時以外の時に泣くというのことが正直よく分からなかった。
……あの日までは。
☽ ☽ ☽
日が沈みかけた刻、私はリンクに告白された。
よく笑う昔のリンクは、ずっと前になくなってしまって。ハイリア人のリンクは、気がつけば私よりも大人になっていて。
あの頃の笑顔も可愛かったけど、今の凛々しい顔も好き。そして、ただ感情を表に出すのが苦手なだけで、ただ自分に厳しいだけで、根は優しいところも好き。
「ミファーのことが、ずっと好きだった。そ、の、付き合ってください!」
いつもの無口無表情からは考えられないくらいに顔を真っ赤にして、つっかえながら告白してきたの。
微かに震える突き出された右手をじっと見つめて、私はそっと、リンクの右手に自身の右手を置いた。
ゆっくり顔を上げたリンクは、困惑していたみたい。
だって、私は泣いていたんだもん。
哀しい時以外の時に初めて泣いた。あの時の涙は、きっと『嬉しい時の涙』なんだと思う。
「喜んで」
あの時の涙の理由は、『嬉しかった』。
☽ ☽ ☽
その後、二人は付き合うことになったと英傑達に伝えた。
リーバルはぶっきらぼうに「おめでとう」と言い、ダルケルは心底嬉しそうにリンクの背中をバシバシ叩き、ウルボザは「ついに恋が実ったんだね!」と大いに喜び、ゼルダはやや顔を歪めながら「とても喜ばしいことですね。おめでとう」と言った。
(私はリンクのことが好きなのに……)
ゼルダは苦しそうに左胸を抑えた。
お題『涙の理由』
題:いつもの
「コーヒーお願いします」
「分かりました。しばらくお待ちください」
お気に入りの店でいつものコーヒーを頼む。ここのコーヒーは体に染みる。
いつもの窓際の席で外を眺めながらコーヒーが来るのを待つ。
「お待たせしました。ご注文のコーヒーでございます」
「ありがとうございます」
はらはらと落ちていくもみじを目で追っていると、コーヒーが来た。
いつもならすぐに飲むけれど、今日の目的はコーヒーを飲むことじゃない。
隣に座っている“気になっている”同級生を観察するためだ。
肩までの金髪を後ろで束ねて、冷静な光を宿した碧の瞳、一見冷たそうな顔をしているけれど根は優しい……。
そして、その気になっている同級生ーーリンクさんが楽しそうに話している相手が……。
学園一の美少女と名高いーーミファーさん。
腰までの赤いふんわりした髪を銀の髪飾りでとめて、温かみのある金の瞳、穏やかで心優しい性格……。
凡中の凡の私よりも、ミファーさんの方がお似合いだとは自分でも思うんだけど……。
リンクさんと出会ってから、学園に行って勉強をして部活をして帰るという平凡な日常が変わった。
全てが眩しく映り、世界は広いと実感し、いつもの日常がくだらなく思え。
恋を覚えた。
私はリンクさんが好き。だけどリンクさんのことが好きな女子は数え切れないほどいる。私はその中の一人でしかなく、リンクさんの世界にすら入っていないんだろう。
(無理だって分かってる恋なのに)
なんて諦めが悪いんだろう。無理なら諦めればいいのに。つい自嘲的になる。
ただの平凡なフルート担当の吹奏楽部と、学園一の美少女と賞賛される美術部と、学園一の美少年と賞賛されるサッカー部……。
私は二人の恋路をただ見ているだけの傍観者。二人が薔薇なら、私は疎ましがられる雑草。底辺でしかない。
いつもの日常が狂ってしまった。狂うのは、案外容易くて。いつもが続く方が難しくて。いつもが狂うことなんて、無いと勝手に決めつけて。
あっけない。
冷めないうちに飲もうと思っていた手の中のコーヒーは冷めていて。反対に私の恋は冷めなかった。
お題『コーヒーが冷めないうちに』
題:貴方は、私は
「こんにちは、お姉ちゃん!」
その声にハッとして振り返った。
その声の主は、紛れもない幼い頃の“私”だった。
そして“私”と手を繋いでいる人は、死んだはずの“ママ”だった。
「……………は?」
長い沈黙の後、出た言葉はその二文字だけだった。
(なんで幼い頃の“私”がいる?なんで死んだはずの“ママ”がいる?なぜ“あの頃”のキノコ王国なの?さっきまでリンクさん達といた筈……。時が戻ったのか?いや、時属性の魔法は原理が解明されていないし、そもそももう存在していない。ならなぜ?なぜ生きている?……)
私の頭の中で、無数の疑問が浮かんだ。
考えすぎて頭がおかしくなったようで、突拍子のないことを言ってしまった。
「体に異常は」
「え?えーと……“私”も“ママ”も元気よ。ね」
「ええ。定期的に検査はしているけど、特に異常はありませんわ」
「……………そう、ですか」
これは明らかに私の過去の記憶とは違う。似ても似つかないもの。
ーーパラレルワールド?
馬鹿馬鹿しいとは思うが、それしか思い付かなかった。
だって、これが仮に時間が戻っただけのものとしても、私の過去の記憶にここに立ち寄った記憶も、ここでママと手を繋いだ記憶もない。
「……どうして生きてるの?」
「……どういうこと?」
「………」
「“あっち”の世界でも見守ってるわ」
「っ!」
瞬間、目の前が真っ白になった。
✧ ✧ ✧
「あ、ロゼッ……ええっ!?」
「なんで泣いてるんですか!?」
帰ってきたらしい私は、二人に困惑の眼差しを向けられた。
泣いてるって……泣いてる自覚、なかったんだけどなぁ。
「あはは……」
「あははじゃなくて!」
「涙拭いてください!」
本気で心配してくれる二人ですが、私は路上で泣きながら笑った。
お題『パラレルワールド』
題:空の鏡
澄んだ秋空にかかる満月。
それはまるで、私の世界を照らしているよう。
そしてそれは、私の胸のときめきを、そのまま表しているようで。
この満月が貴方も見ていると思うと、私が貴方に向ける気持ちがバレてしまいそうで怖い。
もし貴方との関係が崩れてしまったらと思うと胸が締め付けられる。
満月の下で揺れる赤いマムの花。
花言葉は『あなたを愛しています』。
貴方を愛している私には、丁度いいわ。
今は10時50分。
時計の針が重なってる。
私の愛は今宵の月のように反映しているのかしら。
お題『時計の針が重なって』