題:燃やし続ける
「早く!彼の命が、燃え尽きてしまう前に!」
ゼルダの悲痛な叫びが辺りに響き渡った。
❁ ❁ ❁
彼の命は、助かるのだろうか。
あの装置はまだ未確認部分が多々ある。そんな装置に彼を入れるなど……。
……分かっているけれど、彼を救うことができるかもしれないのは、この装置しかない。
仕方がないとは分かっていても、彼が何年後に目覚めるか、そして彼の身体に何か支障が出ないとは思えない。
不安しかないけれど、これに頼る以外の術を、私は知らない。
だから、彼が運ばれていくのを見送ってから。
私は一人で、ハイラル城へと赴いた。
「リンク、あとは頼みます」
何年後かに目覚める貴方に、希望を託して。
❁ ❁ ❁
彼の命の灯火は、まだ燃えているのだろうか。
彼が眠りについて、百年の刻が経った。
厄災復活時に覚醒した封印の力で、今も尚、私はガノンの力を抑え続けている。
そして、ガノンの力を抑えながら、彼に話しかけている。
目を覚まして、と。
私は、そろそろ限界。
このまま彼が目覚めなければ、確実にガノンは力を解放し、百年前を超える大厄災が訪れる。
そうなれば、本当にハイラルは終わりを迎えるかもしれない。
そのためにも。
彼が目を覚まし、今もガノンに乗っ取られている神獣を解放し、厄災を討つ手助けをしなくては。
彼こそが、最後の希望。
英傑達と共に、消えない灯火を宿して。
お題『消えない灯り』
題:澄み切った
冬の夜空は美しい。
空気が乾燥しているため、空が澄み渡っているのだ。
夜にいつも星空を見に外に出ているが、凍てついていてとても寒い。
しかし、何度見ても飽きない美しさ。
冬の星空が私の心を掴んで離さない。
そして、冬の星空にはたくさんの来訪者が来る。
空に降る流星群、友達、夢ーー。
たくさんの美しいものが、私の元へ訪ねてくる。
その時が一番楽しくて。
離れたくなくて、ついつい長居させてしまうのだ。
でも仕方がない。
それが冬の星空の魅力であり、凄さなのだから。
飽きずに見る星空と、飽きずに来る友達と夢と。
その楽しさを胸に。
今日も私は、凍てついた冬の星空の下を歩きます。
お題『凍てつく星空』
題:名前
ーー〇〇〇姫、どうなさいますかっ!?
ーー落ち着いて。まずは前線部隊を派遣しましょう。それから……。
ーー〇〇〇姫!クッパ軍がもうすぐそこです!
ーーもう……。分かりました。ここは私が対処します。
ーー!?ですが、〇〇〇姫……!
ーー大丈夫、安心して。私には、国民を守るという責務があります。それに、私は、この子も守らねばなりません。
そうやってこちらを向く、〇〇〇姫と呼ばれた女性。
儚げに、それでいて力強く微笑みかける。
……あれ?
なんて、名前、だったっけ。
✧ ✧ ✧
忘れた名前。忘れ去られた名前。
思い出せない。その名前の響きすらも、何もかも。
まるでそこだけ記憶が綺麗さっぱり無くなってしまったかのように、何一つ思い出せなかった。
ーーあの〝記憶〟は、何?
あのよく分からない〝記憶〟の断片であろうもの。
一瞬だけ聞こえた〝クッパ軍〟という言葉。あれはクッパ軍との戦闘の記憶ということなのだろうか。
だが、クッパ軍は最近動き始めた。まだロゼッタが幼い頃には動いていないはず。
なぜなら、クッパ軍の敵対する方には〝〇〇〇〟という脅威があったからだ。
(なら、あの〝記憶〟は、私には関係のないことなの?)
もしあの〝記憶〟がロゼッタとは全く関係のないことなのだとしたら、その真実には辿り着けない。
忘れ去られた響きーー。
虚しく、ただ人々の記憶から抹消されるのを待つだけの、悲しい存在。
その抹消されるのを待つものが、〝〇〇〇〟だったら……。
きっと〝〇〇〇〟は、クッパ軍との戦闘を全て一人で対処したのだろう。
そんな英雄が忘れ去られるのは、なんとも心苦しいことだ。あってはならないことだ。
(……そもそも、私とあの人とは何か面識があったかしら)
ロゼッタは、〝記憶〟にでてきた〝〇〇〇〟という人との面識は全くない。
つまり、ロゼッタとは無関係ということが、段々濃厚になってきた。
失われてしまった響きーー。
その〝〇〇〇〟の響きが、消えてしまう。跡形もなく。
その失われてしまった響きを取り戻すためにも自分は必要なのだろうと、ロゼッタは必然的に確信した。
その鍵が、ロゼッタなのだから。
お題『失われた響き』
題:あの時の後悔
ーーあの時に戻りたい。
そう思うのには、もう飽きた。
それすらも、飽きた。
✧ ✧ ✧
《あの時》。
あまりにも抽象的で、興味の湧く言葉。
私は、《あの時》の後悔が忘れられなくて、何度も戻りたいと思っている。それはもう、飽きるほどに。
《あの時》、こうしていればママは助かったんじゃないか、と。
最近あの子達に読み聞かせた【時を繋ぐ糸】という本のタイトルが、なぜか頭の隅にある。
それがフィクションだと分かっていながら、私はそれを欲しているのだ。
ーーバカみたい。
こうやって自分を嘲るのも、もう飽きた。自分を嘲る自分がバカみたいだと、また嘲るのも飽きた。
……時を繋ぐ糸。
その糸が本当にあるのなら、私はそれが欲しい。欲しくてたまらない。
……《あの時》の後悔を無くすために。
後悔を。……そう、後悔を。後悔、後悔、後悔ーー……。
こう考えるのも、もう飽きた。
✧ ✧ ✧
時を繋ぐ糸は、見えるのかな。それとも見えないのかな。
時を繋ぐ糸というのは、時間軸ということなのか。
絶え間なく押し寄せてくる自分の質問に、自分は無視で返す。
ーーそんなモノ、あるわけがない。
そうやって、否定する。
《あの時》のことを、ずっと考えてるくせに。
無責任。薄情。
それらの言葉は、私にとてもよく似合う。なんなら、私のための言葉と言っても過言ではない。
私はいつも自嘲的で、《あの時》のことを今でも考えてる意気地なしだと思う。
けれどそこに、一つの可能性を見出すもの。
✧ ✧ ✧
《あの時》の後悔は、きっと一生消えない。
なら、どうするのか。
それはチコ達が解決してくれる。
チコ達に囲まれて、笑って、楽しんで暮らす。
それが、私の《あの時》の後悔に埋まった心を助けてくれるはず。
この後悔の心を、きっとーー。
お題『時を繋ぐ糸』
題:鮮明に
夢を見た。
でも、一部分だけ。そこしか覚えていない。
けれど、他の部分を覚えていないぶん、そこだけが鮮明に思い出せる。
その夢の断片は、チコがほうき星になったとき。
そこだけが幻想的に、神秘的に、夢の中で輝いていた。
長い夢がそこだけ思い出せる。それは、その部分が印象的だったということ。
確かにあの夢の断片は、印象的だった。
見たら絶対に忘れられないような場面だった。
そして、現実でも、私はあのときを忘れられない。
美しい蒼のほうき星が頭上で輝く、あの光景。
夢の断片と、全く同じの光景。
夢とはなんなのか。それを考えた。
もっと鮮明に夢の全てを思い出せないものだろうか。
夢とは、もう一度寝ても続きを見れない。なぜなのか。
あの夢の続きが見たい。
あの夢の伝えたかったことを知りたい。
あの夢の意味を知りたい。
そう強く願うのに、もう二度と、その夢の続きを見ることはできなかった。
夢の断片だけで、ここまで考えたことはなかった。
全ては、あの時の光景に。
お題『夢の断片』