題:美しき、風
真夏の風は生ぬるい。全然気持ちよくない。
いや、風量が足りないのか?とにかくぬるくて不快な気持ちになる。
「ちょっと待って、日傘忘れた!」
「お疲れ」
「ちょっと?」
日傘忘れたんだ。これは確かにお疲れ。
「私の日傘小さいから二人は無理」
「え〜、デイジー、予備ないの?」
「無いわよ」
なんか可哀想になってきた……。でも、かと言って俺も一つしか無いんだなぁ。
涼しい風だったら良かったんだけど……。
「暑〜。日傘無しはキツイわよ〜」
「もしかしたら、リンクが貸してくれるかもよ?」
「え!それは恥ずかしいって!」
「え〜なんで〜?」
小声でなんか相談し始めた?
「……」
どうしよう、貸そうかな……。でもなぁ……。
……。
「良ければ使ってください」
「えっ」
「日傘を忘れたようなので」
「でも……」
「俺はダッシュで帰るので」
ピーチさんに日傘を渡した後、俺はダッシュした。
こうやってダッシュして風を感じるのも悪くないかも……。
その後……。
「良かったわね、ピーチ!」
「ええ、良かった……良かったんだけど……」
「どうかしたの?」
「持ち手の部分にリンクの体温を感じて恥ずかしい……!」
「マジ??」
「マジ……!明日めっちゃ綺麗にして返そ!!」
(……ピーチさん、リンクさんに日傘借りたんだ……。追い付きそうならリンクさん入れてあげたかったな……)
ロゼッタはピーチ達の会話を聞いて、心の中で風を感じて帰るリンクを思い浮かべていた。
お題『風を感じて』
題:進むべき方向
『心の羅針盤』。それは、一朝一夕で出来るものではない。日々の生活の中で、自分の心に耳を傾け、自分にとって本当に大切なものは何かを考え続けることで、少しずつ形作られていくもの。
人生の進むべき方向を示す指針という、とても重要な羅針盤。
何かに囚われることなく決められるとは、何とも便利な……。
……便利なのか……?
少なくとも私は心の羅針盤を感じたことはない。感じる人は特別な人なんだろうなぁ。
ま、私は特別じゃないってことでいいかな。心の羅針盤なんてどうでもいい。
人生、心の羅針盤通りに行くとも限らないし。
お題『心の羅針盤』
題:尊く
海の泡って綺麗よね。儚くて。
泡みたいに散れるのなら、泡になりたい。
ママを失った人生に、意味なんてない。
『だから泡になりたいの?』
うん、そうだよ。でなかったらこんな事言わない。言うわけない。
『星のように尊く生きなさいって言われたんじゃないの?』
……そうだけど、泡も充分尊いじゃない。儚いものほど尊いのよ。
『残された貴方が、ママの分だけ幸せになるんじゃないの?』
幸せになれるんならなりたいよ。幸せになれないから泡になりたいんだよ。
幸せなんて泡みたいに消えちゃうんだ。
なら、泡になる前に自分が泡になったらいいじゃない?
お題『泡になりたい』
題:刻の流れ
刻の流れとは残酷なもので、もう5月末。
もうすぐさよならですね、春。
「1年ってあっという間よね〜」
「そうですね~、もう春が終わってしまいます」
こうピーチさんと他愛のない会話をしている時間もあっという間。
夏は明後日。
ーーただいま、夏。
お題『ただいま、夏。』
題:海の向こうの貴方へ
瓶の中に手紙を入れてコルクの栓をする。自分でも馬鹿らしいと思う。
だけど。
だけど、あんなに恋焦がれるのは初めてだから。
海の上にそっと置く。波にさらわれていく手紙。
ーー虚しいな。
そう思った。想いが波に奪われていくようで。悲しくも思った。
けれど、どんなに虚しくても、悲しくても、彼女に想いを届けたい。
ーーどうか、海の向こうの彼女へ、届きますように。
その後、リンクの手紙が海の向こうの彼女ーーロゼッタに届いたことを、彼は知る由もないだろう。
お題『波にさらわれた手紙』