題:二人きりの空間(ワルロゼ恋愛)
テニスの終了後、いつもの様に帰ろうとすると、そこには土砂降りの雨が待っていた。
行く途中は晴れだったので、傘も何も持ってきていない。かといって他の人に傘を借りるのも気が引ける。
ロゼッタがエントランスで右往左往していると、意中の紫の彼ーーワルイージが後ろに立っていた。
同じくワルイージもロゼッタに好意を寄せていることはまだ誰も知らない。
「ワ、ワルイージさん……」
意中の彼をいざ相手にすると、上手く言葉を発せられない。
「おう、どうした?」
「じ、実は、傘を忘れてしまったようで……」
ワルイージはまたとないチャンスを感じた。
ーーこれは、相合傘ってやつが出来るんじゃねぇのか……?
「分かった。取ってくる」
「え?ちょっと、待ってください!」
彼女の声を無視して、持ち手に薔薇の模様がある紫の傘を持ってきた。
細身のワルイージの傘は少し小さめだ。
「ほら行きますよ、お姫様」
「え、しかし……」
「傘をささずに帰ればその美しさがかすんでしまいますよ」
彼の紳士さが目立つ。
「……そこまで言うのであれば……」
本当は相合傘が出来るのが嬉しかった。これを狙って傘を置いてきたわけではない。
けれどーーこの日ばかりは、雨を降らせてくれた神様に感謝するしかなかった。
少し小さめの傘の中で肩を寄り添って歩く二人の影。
二人だけの傘の中での秘密ーー。
題:微かな温もりを感じて
遺物調査の帰り道。まだ三分の一も行っていないところで雨に遭った。
行く前は快晴だったので、何の準備もしていない。
かなりの大雨だ。このままでは風邪をひいてしまう。でも近くに馬宿もないし……。
ふとリンクの方を見ると、手で雨を遮るようにして天を見上げている。
ーーリンクは風邪ひかないのかな。
そんな心配が頭をよぎった。
そう思っている内にも雨足は強くなっていく。
「……くしゅんっ」
くしゃみが出てしまった。端ないと思うと同時に、寒さに身体が震える。
と、後ろからフードが羽織られた。
驚いて後ろを見ると、リンクがやったのだと瞬時に理解した。
恥ずかしさに顔が紅潮しているのが自分でも分かる。
そして更に驚いたことに、頭に手が置かれた。リンクが自分の頭を撫でていたのだ。更に顔が赤くなる。でもそれを、心地よく思う自分もいた。
ーー子供の頃風邪をひいた時にしてもらってたのかな。
城に着くまでそうしてもらっていた。
❁ ❁ ❁
それから2週間程、あの日のリンクの手の温もりを感じ、遺物調査と泉での修行に集中出来なかったとかーー。
題:馬鹿みたい
世の中には、勝ち負けなんてどうでもいいって人もいる。
逆に勝ち負けにこだわる人もいる。
少なくともロゼッタは、「勝ち負けにこだわる」方だった。
しかしある日を境に、勝ち負けなんてどうでもいいと思うようになった。
✧ ✧ ✧
マリオカート・バトル戦。
今回はパックンVSスパイ。4分間、パックンから逃げ切れられれば勝ちという、単純な内容。
ロゼッタはスパイ側。牢屋の近くに潜伏することが多いので、仲間が捕まればすぐに助けられる。
でも、今回のバトルは牢屋の周りをパックンが見張っていた。
これでは牢屋の鍵を開けられない。
潜伏場所を変えようとした瞬間、パックンに捕まった。
どうやらロゼッタ以外はもう捕まっていたらしい。第一ラウンド終了。
ーー悔しい。
勝ち負けにこだわるロゼッタは、悔しんだ。
その後もバトルは続きーー、結果はボロ負け。
ロゼッタは深い溜息を吐いた。
✧ ✧ ✧
ロゼッタのスマホに、一通のメールが送られてきた。
送ってきたのはベビィロゼッタ。相手チームのメンバーであり、ロゼッタの幼少期をモチーフとした人物だ。
ロゼッタは銀色の王冠を取った。どうせ後から寝るのだから。
『ママへ
ママ、今日のバトルですっごくくやしそうな顔をしてたよね。
ママが勝ち負けにこだわる人っていうのはしってる。だけど、それでママが落ち込むのはいや。
別に勝ち負けなんてどうでもいいって、ピーチお姉ちゃんが言ってたよ。
ベビィロゼッタより』
ロゼッタは天を仰いで笑った。そしてスマホを放り投げた。
ベッドに顔を填める。自分を元気づけるために、わざわざピーチに相談していたのだ。
勝ち負けにこだわることでベビィロゼッタを悲しませることになるのならーー。
ーー勝ち負けなんてどうでもいい。今までこだわっていた自分が馬鹿みたい。
自分の愚かさとベビィロゼッタの優しさで、涙が止まらない。
ーー勝ち負けなんてどうでもいい。その言葉が反芻した。
題:挨拶の星くず(大会編)
✰大会
今日は第7回マリオカート大会当日。
寡黙な新入生を相手に3ヶ月。新入生は大会に出られるほどにまで成長した。
リンクさんはその強さから、「マリカ界の第二主人公」やら「マリカ神」の異名をもつ。
え、私?私は……「チーム戦の守護神」……。
あ、笑わないでくださいね?同チー(同じチームのことですよ)の人を支えているは私ですが。
コースは「エレクトロドリーム」、「スカイガーデン」、「レインボーロード(スペシャルカップの)」、「リンリンメトロ」、「パリプロムナード」、「ロゼッタプラネット」の6コースです。ロゼッタプラネットは私が選びました。
大会、どうなるかなぁ。
✰チーム分け
いよいよチーム分けの工程。
私はマリオチーム。お、ヘイホーさんがいる。
と、相手チームのピーチさんがこう言ってきました。
「絶対負けないから覚悟なさい」
そう言って私に勝てたことありました?出かけた言葉をギリギリ飲み込む。
いったい何処からそんな自信が……あ。
私は相手チームの表を見て声をあげました。なぜなら、相手チームにリンクさんがいたからです。
私の教え子がチーム分けの時点でもう活躍している……。負けてられない!
✰最終コース
大会は順調に進み、最終コースになりました。
ロゼッタプラネットーー雪と氷を基調としたコース。ゴール手前にほうき星の天文台があるのが魅力です!
スタート。スタートダッシュを決めて先頭に立つ。今のところリンクさんが全て1位を取っているので焦る。
1周目と2周目で抜かしたところは何回もあったけれど、その度に挽回される。
いよいよ最終コーナー。不味い、このままでは負けてしまう。同じチームのウェンディさんも全力で援護してるけどリンクさんには無意味だし……、どうしよう!
アイテムボックスから出たのは赤こうら。リンクさんはキノコを持っているから、最後のショートカット中に投げれば大幅ロス!1位になれるかも!
ショトカ地点(ショートカット地点)目前。ショトカに行こうとするリンクさん。ここだ!投げた赤こうらはリンクさんに向けて一直線ーーとはいかなかった。
フェイント……。リンクさんはショトカするフリをしたのだ。私はそのままショトカ地点にアイテム無しで突っ込む。ダート噛みまくってる。負け確定。
リンクさんはイタズラが成功した子供みたいな笑顔を向けた。怒るに怒れない……。ズルいよ、新入生。
✰表彰式
結果、私達マリオチームの負け。
リンクさんは表彰台の上で優勝トロフィーを高々と掲げている。
すると、マリオさんがポンと私の肩を叩いた。
「リンク、あの3ヶ月でこんなにも強くなるなんて……きっとロゼッタの教え方が上手いからだね」
それは褒め言葉なのか嫌味なのかは分からない。けれど、ほんの少しだけ誇らしかった。
挨拶の星くず END
題:挨拶の星くず(リンク編)
✰ある朝のこと
今日、マリオカートの正式なメンバーとして入る日……らしい。
マリオさんによると、「皆面倒見のいい先輩だから。特にこれから君がお世話になるロゼッタって人」とのこと。
お世話になるって……部活みたいなもの?そもそも部活っていうのもよく分からない。
とにかく!今一番優先すべきなのは!自己紹介のことだろ!
✰自己紹介
舞台の裏からちょっと見た程度だけど、かなりいる。
入る前にマリオカートについて少し頭に叩き込んでいる。確かメンバーの数は……50人だった気がする。
50人の前で自己紹介って、結構ハードル高くない……?
でもやらないといけないので、とりあえずマイクの調子を確認してから自己紹介。
「……リンクです。今日からマリオカートのメンバーとして頑張っていくので、先輩の皆さん、どうかよろしくお願いします」
会場から拍手が挙がる。
会話が聞こえなくもない……ん?イケメン?嬉しいけどそこまでイケメンか?
で、俺のお世話になる人は……あ、あの片目を隠した水色のドレスの人かな。一応その人の特徴も頭に叩き込んである。
上手くやっていけるかな……。不安ばっかりだな。
✰ロゼッタ
暇だったからウーフータウンという場所の庭に腰掛けている。
ロゼッタさん(?)に挨拶しようと思ってあちこち探したけど居なかったし、道中女性の先輩方がめっちゃ絡んできたし。
「大きいがっこうだなぁ……」
正直がっこうというものを知らない。マリオさんに紹介してもらったけどイマイチ分からなかった。だってハイラルにはがっこうなんてもの、ないんだもの。
そんな風にボーっとしていると、不意に声をかけられた。
「リンクさん!」
誰かが呼んでる?そう思って声のした方を向くと、ロゼッタさん(?)がいた。
ロゼッタさん(?)も探してたのかな……。申し訳なく思う。
するとロゼッタさん(?)は俺の目の前に立った。だから俺も立った。背高いな……と思っていたら、ロゼッタさん(?)が何かを差し出した。
「……何でしょう?」
思ったより低い声がでてしまった。警戒するつもりはなかったんだけど……。ごめんなさい。
「これ、挨拶代わりでなんですが、どうぞ」
星のようなもの。律儀だな。
「これは……?」
徐ろに口を開く。
「星くずです。硬そうに見えますが、中は柔らかいので大丈夫です。味は……甘いハチミツの味がします」
へぇー。この見た目からは甘いハチミツの味が想像できない。
けれど、嬉しい。
「あ、ありがとうございます。ロゼッタ……さん?」
確認するように名前を言う。
と、彼女の顔がパッと輝いた。
名前呼んだだけなんだけどな。
そして彼女は、去り際にこう言った。
「私が貴方を任されたので、くれぐれも逃げ出さないように」
不思議に思った。
だって、マリオカートに入って、頑張っていくって決めたんだから、逃げ出すはずがない。
ロゼッタさんはマリオカートに一生懸命なんだな。
そう思って微笑みかけたけど、彼女は気づいただろうか。
✰『挨拶の星くず(大会編)』、書こうと思っています!