彗星

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題:二人きりの空間(ワルロゼ恋愛)

 テニスの終了後、いつもの様に帰ろうとすると、そこには土砂降りの雨が待っていた。
 行く途中は晴れだったので、傘も何も持ってきていない。かといって他の人に傘を借りるのも気が引ける。
 ロゼッタがエントランスで右往左往していると、意中の紫の彼ーーワルイージが後ろに立っていた。
 同じくワルイージもロゼッタに好意を寄せていることはまだ誰も知らない。
「ワ、ワルイージさん……」
 意中の彼をいざ相手にすると、上手く言葉を発せられない。
「おう、どうした?」
「じ、実は、傘を忘れてしまったようで……」
 ワルイージはまたとないチャンスを感じた。
 ーーこれは、相合傘ってやつが出来るんじゃねぇのか……?
「分かった。取ってくる」
「え?ちょっと、待ってください!」
 彼女の声を無視して、持ち手に薔薇の模様がある紫の傘を持ってきた。
 細身のワルイージの傘は少し小さめだ。
「ほら行きますよ、お姫様」
「え、しかし……」
「傘をささずに帰ればその美しさがかすんでしまいますよ」
 彼の紳士さが目立つ。
「……そこまで言うのであれば……」
 本当は相合傘が出来るのが嬉しかった。これを狙って傘を置いてきたわけではない。
 けれどーーこの日ばかりは、雨を降らせてくれた神様に感謝するしかなかった。
 少し小さめの傘の中で肩を寄り添って歩く二人の影。
 二人だけの傘の中での秘密ーー。

6/2/2025, 12:55:27 PM