( 📍 ) 【お題、言い出せなかった「」】
#💧 #👺🦊 #妹系主人公 【お題、ページをめくる】
妹に生まれてよかったと思った。お兄ちゃんは鈍くて流行に疎い人で、何考えてるか分かんない人だった。周りからもたくさん言われていたし、私自身もそう思う。もうちょっと表情筋動かしてくれたら分かりやすいんだけどな、とか。それでも強くて優しい兄を持てて私は幸せだった。お兄ちゃんが危険な仕事をしてたから親が殺されたんだ、なんて根も葉もないことを言う人だっていたけれど。兄が一人の人間として、私を生かしてくれたから私は今妹としてここいるのだ。
◇
だけどお兄ちゃんの妹として生まれてこなきゃよかったのに、と思う自分もいる。それは兄の友人であり仕事の同期でもあるという鱗滝錆兎さんと話している時だ。兄の友人だからこそ知り合えた。でも彼は私に対して何とも思っていない。当然だろう、大切な友人の、ただの妹なのだから。毎日こうして出会い頭に頭を撫でられるのはきっとそういうこと。貴方さまはすぐ傍にお慕いしている一人の女がいることになんてお気付きにならないのでしょう?
───どうか私(妹)がいたことは忘れないで。
◇
見慣れた筆跡、乱れた口調、整った文字…は微かに震えていた。
#⚡ #💕 #恋する乙女系主人公 【お題、8月31日、午後5時】
もう、時間なんだけどなぁ……。
夕暮れ時。お気に入りの団子屋さんの前で、お客さんがぞろぞろと帰っていく姿を見送る私。本当なら今頃、私もあのお客さんたちと同じように帰っていたんだろうなと姿の見えない彼を思い浮かべてはぶんぶんと頭を振って消す。だめだめ!これは仕方ないことなんだから、文句言わない!!
こうなるかもってことはお誘いした時から何となく分かってた。
◇
今朝方、お師匠様から一日の休暇をいただいた私は彼に街へ共に来てはくれないかとお声がけするために駆け寄った。雀が彼の肩に乗っていたから嫌な予感はしていたのだけれど。
#💧 #🎴 #無気力系主人公
似た者同士。目の前でぎゃあぎゃあと言い合いをする男女を見て、俺はそんな言葉が頭に浮かんだ。もっともそれを言うと更に仲が拗れそうだから、敢えて言わないんだけど。
◇
今目の前にいるのは片や丙の俺の同期、片や甲の元水柱。二人は最近、師弟関係になりよく話すようになったが前まではそうじゃなかった。なぜなら元水柱──京 澄実(かなぐり すみ)さんが俺の同期──竈門 炭治郎(かまど たんじろう)を避けていたからだ。詳細は部外者なので知らないのだが、何でも価値観が違うため衝突を避けていたのだという。俺ならばそうだったんですねと流してしまうところにこの男は食いついた。だから避けられるんだごぞ、炭治郎。
澄実さんはあまり炭治郎と関わりたがらない。だから稽古をつけることも師弟関係になることも本当は前向きではなかったんだけど………まぁ、言わずもがなである。
澄実さんの音は聞き取りづらい。それは炭治郎も同じだという。音が小さい、というわけではなくて…霞んでいるという表現が一番正しいと思う。掴めない音は、誰とも違う音。聞きなれない音だから感情が読めない。表情にもそんなに出ない人だから余計に何を考えているのか分からない。そんな人。それでも、俺は澄実さんと炭治郎は似ていると思う。
鬼を目の前にすると澄実さんは、聞き馴染んだ鬼を憐れむような音を出す。誰かを助けることに躊躇いがない。助けに行く一歩が踏み出せる。強くて、優しくて。でもどこか泣きたくなるような音がした。鮮明な、深い悲しみの音。普段は聞こえないこれらの音は澄実さんと行った合同任務で聞こえたものだった。あれ以降、一度も聞こえたことはない。
容姿も、性格も、表情も、好きなものも、普段させてる音も、何もかもが違う。別の人間。正反対と言ってもいいかもしれないぐらいだ。だけど、その根っこの部分は何一つ変わらない優しさで溢れているんだって、俺は思ってる。
言い合いを止めようかなとも思ったけれど、この二人にとって言葉がないよりもある方がいいのだろうと思い直して上げた腰を元に戻した。落ち着くまで禰豆子(ねずこ)ちゃんとお話していようっと。
【ふたりを知るある男の独白。】
続く。
#💧 #🎴 #無気力系主人公
瞼を上げると、目の前で小さな女の子が男と女の間に挟まれ、手を繋ぎ、幸せそうに微笑んでいる。舗装された道を歩く男と女は夫婦なのであろう。目元は煤で汚れているかのように見えないが、ずっと笑っているのは見てわかった。幸せな家族、とはきっとこういうものを指すのだろう。どこか見慣れない、けれどもよく知っているはずのその光景に、私はもう、戻れない。
◇
「おかあさん!おとうさん!はやくはやくぅ!」
「はやくはやくぅ!!」
誰かの声が聞こえて段々と意識が浮上する。目の前にいるのは2人の手を繋いだ女の子。彼女たちの目線の先にいるのは2人の男女。見慣れた着物姿、どこか見覚えのある顔。2人とも早いなぁ、なんて言いながら歩いている。彼らが向かう先には木造の一軒家。辺りは木に囲まれていて、時折川のせせらぎと共に鳥の声が聞こえてくる、そんな家。春になると桜が咲いて、夏になると緑いっぱいの森になる。秋は枯葉が落ちるからサツマイモを食べられる。冬は、雪合戦ができる。…そんな、家。
「……?おねーちゃん?」
走りながら家に向かう2人の女の子。もう少しで家に着く、というところで途端に1人の女の子が手を離して家に駆け込む。離された手が空中を彷徨う。
「──、ごめんね」
どうして謝るの。どうして、泣きそうな顔をしているの。いつの間にか女の子は消えていた。家の中に佇む一家が見つめる瞳は私に向けられている。瞳は悲痛の色をしていた。何も知らない、分からない。なのに、なのに。そんなあなたたちを見て頬を伝ってやまないこの雫はなに?私は、その涙のわけを知ってる?忘れているだけ?
ぐちゃり。気味の悪い音がした後、家の中は血塗れになっていた。一家はもうそこにいなかった。
◇
真っ暗闇の中、どこかで誰かが叫んでいる。
忘れないで、覚えていてと。
怖がらないで、立ち向かう勇気を持ってと。
あなたはひとりじゃない。みんながついていると。
ずっと傍にいるよと。
だから何でもひとりで抱え込まないでと。
「苦しい、苦しいよ……」
後ろからの声にパッと振り返る。女の子が泣いていた。姉と対照の青い浴衣を着た、長い髪を2つの三つ編みで束ねた女の子。父と母と姉が大好きで、よくお手伝いをしていた女の子。…私が壊した家族の、末っ子の女の子。私が"私"という意識を持って押さえつけてしまった女の子。
「おねえちゃん、これ以上苦しまないで」
でも、でも。私がいたから皆殺してしまった。本来ならばあなた達はこれからもずっとずっと、鬼なんて知らずに生きていたかもしれないのに。
「そんなことないよ。私たち家族は幸せだった。私がいた過去と、おねえちゃんがいた未来。ほんとに、幸せだったの。ありがとう、おねえちゃん」
待って、まだ、謝りたいことが、たくさんあるの!
「でも、ここに長く居るべきじゃないよ。おねえちゃんはおねえちゃんを必要としてくれる人のところにいなきゃ」
またね、おねえちゃん。そう言って落ちていく私に向かって手を振る女の子の目には涙が溜まっていた。けれど、どこか幸せそうで。それに私は少し安心してしまって、意識が沈んでいくのに耐えられなかった。
*
「………さん、……みさん、澄実(すみ)さん!!」
ぱちりと目を開けるとそこには見慣れたみんながいた。命を懸けて大切な人たちを守る、同じ志をもった仲間。
あぁ、還ってこれてよかったと柄にもなく思ってしまった。
【心に映る風景は、私の一番深い後悔】
続く。