ゆめ。

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6/28/2025, 12:45:06 PM

※👮🏻‍♂️hrmt


「君は変わらないね」

 夕飯の支度を進めていた時。ふと彼がそう言った。昔を懐かしむかのように。はて。私に当てはまる部分があるだろうか。そんなことはないと思うのだけれども。

出会った時に比べて歳をとった。肌のケアをすることも多くなった。社会の荒波に揉まれて社会の厳しさを知った。ただの純粋無垢な子供では居られなくなった。今までやってきたはずの恒例行事──季節のイベント事にすら手が回らなくなって。気付けばクリスマスが過ぎ、年末年始。ろくに祝いもせず睡眠時間に充てていたっけ。

そんな私のどこが、変わらないというのだろう。大きく変わった、変わってしまったじゃないか。

「あはは。やっぱりそうだ。キミは変わらない」

変わったのに変わらないとは??

「ふふ、そういうところだよ」

ていうかヒロくん笑いすぎ。




『君のそばにいると、夏の気配がする』

6/26/2025, 2:40:07 PM

※🟪🎴


「お前は幸せになれよ、」

 あの日、王は言った。一下僕に、幸せになれと。俺は掴めなかった幸せを、お前らは掴むんだと、そう言った。まるで私たちの幸せの中に貴方がいないのが当たり前のような。そんな苦くて苦しい経験をこれから先にして、それでもなお幸せになれると思うのか。思っているのか、貴方は。

ふつふつとした怒りが湧く泡沫。視界がぐらぐらと揺らめいて、声が遠くなって。意識がどこかに引っ張られるような、そんないつもの感覚がやってきてフェードアウト。

きっと目が覚めても、私はまた覚えていられないのだろう。







「──る、こはる、來春!」

 パチリ。聞き慣れた声がして意識が浮上する。うぅん、まだ眠い…寝かせてほしいな。

「だめ。俺が言うんだから起きろ」

 横暴な王様だなぁ。でもまぁ、仕方ないかと一人胸の内で納得した。我らが王──黒川イザナがそう仰るのであれば、下僕は従いましょう。

 むくりと体を起こし、寝ぼけ眼を擦り始めた私を見て大丈夫だと思ったのかイザナくんは部屋を出ていってしまった。あぁ、せっかくのイケメンが……ご尊顔……。と残念がるもそうは言ってられないと頭を切り替える。イザナくんが出ていったのはきっと朝ごはんを作るためで。その御膳で私はすっぴん&パジャマを晒すのか。否、それではいけない。イザナくんが良くても私が良くない。

布団をばさりと脱ぎ落とし、着替えと化粧の準備に取り掛かった。さぁ、ここからRTAである。もちろん競う相手は過去の自分。そして──王・イザナくんである。


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「ぬわぁぁ!また負けたぁ……」

 お前まだそれ続けてんのか。プレートを手に呆れ顔のイザナくん。何それ首の傾げ具合最高すぎない?かわいい、心のシャッター何枚撮らせれば気が済む?はっきり言ってもう容量オーバーなんだが。

「アホなこと考えてねーで、早く座れ」

 朝飯、要らねーのか?アッ、かわっ…!!…ちょ、嘘です嘘です!要りますとも、えぇ要りますとも!!あなたの作ったご飯を食べない?誰だそんな罰当たりなことしてるやつ!!!!




、途中です。ここから先シリアス展開の予定。


『最後の声は聞きたくない』

6/22/2025, 10:50:22 PM

※👮🏻‍♂️hrmt

「じゃあ、行ってくるね」

 うん、いってらっしゃい。
仕事に行く彼を、私は笑顔で手を振って送り出せたのだろうか。目覚めのいい朝。隣にいる彼。それに似つかわしくない心の奥に淀む黒い感情は、幸せな私をひどく苦しませる。

「私は、本当にここにいていいのかな」

ずるずると、玄関の壁にもたれかかる。淹れてくれた珈琲が冷めるから早く戻らねばならない。洗い物も、洗濯物だってある。それでも私の体は動いてくれなくて。彼のいなくなった部屋で一人寂しく呟いた。





 彼とは道端で出会った。とは言ってもナンパした、されたの関係ではない。私のカバンがひったくられた時、助けてくれたのが彼なのである。商談に使う大事な資料が入ったカバンを何を思って盗ったのかは知らないが、犯人はすぐさま確保された。無論これも彼によって。服装から警察官なのはすぐ分かったが、なんとまだ正式には警官ではないらしい。見た目では判断できない情報であった。

今はまだ見習い警察官なんです、と恥ずかしそうに言う彼のなんと眩しいことか。もちろんその後お礼と称してご飯を奢らせてもらった。だって学生に助けられたんだよ私?? お礼しなきゃダメでしょ、大人として。

お礼の言葉は素直に受け取ってくれたが、中々奢る、という言葉は受け取ってくれなかった彼を今でも覚えている。警察官だから当然のことをしたまでだと言い張る彼に、貴方はまだ雛鳥なんでしょ、お礼を受け取る権利はある。と言い返せばそれでもです、と頑なに受け入れてくれなかったっけ。

ここで、そうですか。じゃあこれで。と引き下がれば良かったのだろうが、生憎一度つけてしまった火を直ぐに消せるような性格ではなくて。寧ろ何が何でも受け取ってもらう、という変な意地が働いてしまった。

じゃあ私が頑張り屋なキミをナンパしたいって言ったら、いーよね?

私情だし。何度か瞬きして、言葉を反芻しているのであろう。それでも訳が分からないといった顔をしている彼のなんと愛らしいこと。



……、まだ途中です


『どこにも行かないで、って縋る私はきっと我儘』

6/20/2025, 2:58:17 PM

※🟪🎴


「アイツの事が好き?…そんなわけないだろ」

 フン、と鼻で笑った貴方にそっか、と返しながらも俯いた表情はこれでもかという程に微笑んでいる。私が見ているのを知っているのか否か。表情を見た時に目が合ったから恐らくは前者だろうとは思うけれど。どちらにせよ間が悪いなぁ、と思う。

 彼──イザナくんの前にいる彼女は鈴鹿唯(スズカ ユイ)という名前の女の子。一ヶ月ほど前からイザナくんと一緒にいるところをよく見かける。好きなんだろうな、とと思う、単純に。目は口ほどに物を言う、とはまた違うけれど、彼に対する態度があからさまなのだ。鈍い鈍いとよく言われる私ですら、彼のことを好いているであろうことは容易に想像できる。

うーん、どうしよう。
そこまで考えて、頭を抱えた。このまま見ないふりをしてもいいけれど、後々のことを考えるとそれは避けた方がいい気もする。かと言って、世間一般の人が言うようなこの"イイ雰囲気"をぶち壊して話しかけるのは少し気が引けるしなぁ…。

うんうんと唸りながらどうしたものかと思考を巡らせていると、件の彼女が彼の名を呼ぶ声がした。少し驚きの意が込められていたような気が。予想外のことはしない方がいいと思うよ。

イザナくん。


「さっきから何してんだ、テメェ」

ぱちくり。ぱちぱち。
瞬きを何度か繰り返し、彼の言葉を反芻する。さっきから何してんだ。…さっきから、何してんだ。なんだ、バレていたのか。それならそうと、場所を移してくれても良くないかと思った私はきっと悪くない。だって気まずいことこの上ないじゃないか。まぁ彼は王様だから、別に構わないとも思うのだが。

「そ、そーですよね!気になりますよね。
 …もうっ、瑠李さん!察してくださいよぉ」

イザナくんが気づいていた事が予想外だったのか、一瞬驚いた顔をしていた彼女。しかし次に口を開く時にはコロッと表情を一転させていた。今の彼女はまさに恋する乙女である。意地悪な姑的要素は微塵も感じられない。女の子とは、やはり恋をして生きる生き物なのだと強く実感する。

「あはは、そうだよね、ごめんね。見られてると緊張するよね」

気が利かなくてごめん。後はごゆっくり。
そう言ってその場を後にしようとすれば掴まれる腕。犯人は凡そ検討がついている。私に嫉妬させようとして、向けられる好意に気が付かないフリをして。彼女がいるにも関わらずアピールをやめさせないでいた人。馬鹿なことをしておきながら自分が我慢の限界を迎えた時には私を引き止めるだなんて。


「自分勝手が過ぎますよ、イザナくん」



そうしてイザナくんはこの後、渋々私に嫉妬させようとしたことを認めて謝ってくれた。もちろん唯ちゃんをきちんと振ることも忘れずに。
その最中、どうして疑いもしなかったのかと問われたが濁しておいた。だって、言ったら貴方拗ねてしまうでしょう?


「私に向けられた貴方の嫌いは、飛びっきりの愛の証だって。特別なものだって。私は知っているから」


だから貴方を疑う必要はなかったんだよ。…なんてね。


『好き、嫌い? 迷わず"好き"一択』

6/17/2025, 12:54:32 PM

※🪶🪭

「掌中の物、必ずしも掌中の物ならず」

 そうでしたよね、諸伏さん────?
空を見上げたことで我慢していた雫がポロポロと重力に従って流れ落ちた。手の中にあるものが、必ずしも自分のものであるとは限らない。誰が言ったかは覚えていないが、三国志に出てくる有名な言葉なんだと聞いた記憶がある。それを教えてくれた彼の姿は、もうないのだけれど。





 3年前の冬、彼──コウメイこと諸伏高明は意識不明の重体になった。何でも犯人を追いかけていた際に崖から転落し、強く頭を打ったとのこと。初めは信じられなかった。医者の言葉も、彼の同僚である勘助くんと由衣ちゃんの言葉ですらも。でも、病室に入って、実際に目にして理解した。理解してしまった。ああ、嘘でも何でもない。これは紛れもない事実で、現実なのだ、と。

「コウメイさん、行ってきますね」

高明さん、と呼んでいたのはあの日まで。名前を呼ぶのですら辛くて。本当は顔を見るだけで泣いてしまいそう。でも顔を見に来なければいつの間にか彼が死んでしまっているような気がして。だから仕事に行く前の数分、彼にいつも会いに行くように病室を訪ねては去るように心がけた。あまり長居すると、もう一人では立てないだろうと思うから。

伝えたい言葉があった。

届けたい想いがあった。


好きです、って、言いたかった。


でももう、届かないのだ。


遙か遠くに行ってしまった、彼には。



『届かない想い』

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