※👮🏻♂️hrmt
「じゃあ、行ってくるね」
うん、いってらっしゃい。
仕事に行く彼を、私は笑顔で手を振って送り出せたのだろうか。目覚めのいい朝。隣にいる彼。それに似つかわしくない心の奥に淀む黒い感情は、幸せな私をひどく苦しませる。
「私は、本当にここにいていいのかな」
ずるずると、玄関の壁にもたれかかる。淹れてくれた珈琲が冷めるから早く戻らねばならない。洗い物も、洗濯物だってある。それでも私の体は動いてくれなくて。彼のいなくなった部屋で一人寂しく呟いた。
*
彼とは道端で出会った。とは言ってもナンパした、されたの関係ではない。私のカバンがひったくられた時、助けてくれたのが彼なのである。商談に使う大事な資料が入ったカバンを何を思って盗ったのかは知らないが、犯人はすぐさま確保された。無論これも彼によって。服装から警察官なのはすぐ分かったが、なんとまだ正式には警官ではないらしい。見た目では判断できない情報であった。
今はまだ見習い警察官なんです、と恥ずかしそうに言う彼のなんと眩しいことか。もちろんその後お礼と称してご飯を奢らせてもらった。だって学生に助けられたんだよ私?? お礼しなきゃダメでしょ、大人として。
お礼の言葉は素直に受け取ってくれたが、中々奢る、という言葉は受け取ってくれなかった彼を今でも覚えている。警察官だから当然のことをしたまでだと言い張る彼に、貴方はまだ雛鳥なんでしょ、お礼を受け取る権利はある。と言い返せばそれでもです、と頑なに受け入れてくれなかったっけ。
ここで、そうですか。じゃあこれで。と引き下がれば良かったのだろうが、生憎一度つけてしまった火を直ぐに消せるような性格ではなくて。寧ろ何が何でも受け取ってもらう、という変な意地が働いてしまった。
じゃあ私が頑張り屋なキミをナンパしたいって言ったら、いーよね?
私情だし。何度か瞬きして、言葉を反芻しているのであろう。それでも訳が分からないといった顔をしている彼のなんと愛らしいこと。
……、まだ途中です
『どこにも行かないで、って縋る私はきっと我儘』
6/22/2025, 10:50:22 PM