『special day』
音楽を流しながら衣をつけた鶏肉を油に落とす。
揚げる音が食欲をそそる。
あぁ...お腹がすいてきた...
5つ、10つとどんどん揚げていく。
今食べたら美味しい...絶対に美味しい。
唐揚げに伸ばす手は止めて作業する手を止めずに揚げる。
今日は特別な日。
そんな日は盛大に好きなものを作って好きなだけ食べる。
カロリーだとか栄養バランスだとか明日のこととか気にしない。
明日は休みだからいっぱい食べていっぱい寝るんだ。
そして何より今日は...給料日だ。
全部揚げ終えてご飯とお茶を用意する。
「よし、じゃあいただきます!」
これが私の特別な日の過ごし方。
語り部シルヴァ
『揺れる木陰』
大木に背を預けてズルズルと座り込む。
近くの駄菓子屋で買ったアイスを食べる。
既に少し溶け始めて慌てて口に運ぶ。
ひんやりした口あたりにふぅとひと息漏れる。
なんもない田舎の景色。
所々に田んぼがあって、うるさい蝉時雨と太陽。
もう何度も見ては飽きている景色。
そんな景色を一望できるここは近くに駄菓子屋もあって
休憩するにはうってつけ。
駄菓子屋でアイスを買って、この大木で休む。
俺の夏のルーティン。
避暑地の大木はとても高く、
風を受けて綺麗な青い葉っぱを揺らす。
陰は踊り夏を楽しんでいるようだ。
俺も、同じ気持ちだ。
語り部シルヴァ
『真昼の夢』
目を覚ますとやけに冷房の効いている教室だった。
移動教室だったのか教室内には誰一人とおらず、
俺は完全にサボり扱いだろう。
だが焦りも後悔も無かった。
別にこのままもう一度寝てやろうとまで思っている。
机が冷房によってひんやりとしている。
机に触れている部分が冷たくて心地よい。
冷たい...外の暑いはずの日差しが教室の冷たさによって
緩和されて暖かく感じる。
うとうとしてきた...このままもう一度...
目を瞑ると意識ごと体が引っ張られるような感覚に
意識は戻される。
目が覚めたのは見慣れたベッド、乾いた喉。
仮眠のはずが思い切り寝てしまったようだ。
エアコンも扇風機も自動運転が切れて外からの熱で
部屋が蒸し暑くなっていた。
「あっづ...」
懐かしいような記憶に無いような夢を見た気がする。
どんな夢かを思い出すよりも今は
重い体を動かして水分補給しなければと冷蔵庫へ向かった。
語り部シルヴァ
『2人だけの。』
"今日は部活早めに終わりそう"
"それじゃあいつもの場所で待ってるね。"
部活が終わり待ち合わせ場所に向かう。
視聴覚室や家庭科室とか
普段授業あまり使わない教室が集まった第2棟。
そこの最上階の視聴覚室前は特に人が来ない。
簡単な秘密基地のようで集まるにはうってつけだ。
四階もあって階段を登るのはすごく大変だけど...
登りきった景色はすごく綺麗で夕焼けの下走る車や
夕日を反射するビルのガラスがキラキラしている。
息を整えてる間に見るには絶景だ。
こんな素敵な景色をふたりじめなんて贅沢な話だろう。
だけど...
「ごめん、待った?」
振り返るとさっきの僕と同じように息が上がった君がいた。
君とふたりじめできるなら悪くない。
僕と君と、2人だけの秘密の場所。
語り部シルヴァ
『夏』
照りつける太陽に焼かれた
アスファルトの上を歩いて三十分ほど。
大人しく電車を使えば良かったと後悔している。
目的地まであと一駅のところを何を思ったか
歩けばいいと考え今に至る。
その一駅がかなり遠く地図アプリで確認してみると、
なんと歩いて50分ほどだった。
先に確認すればよかったと後悔しつつも
足を進めないとこの灼熱地獄から
抜け出せないから歩き続ける。
ここら辺はなぜか自販機が全く見当たらず、
ここまで飲み物の補充はできていない。
唯一所持していた駅を出る前に買った
ペットボトルのコーラを口に運ぶ。
...ぬるい。三十分も日に当てられたらぬるくなってしまうか。
ため息をついて地図アプリでルートを再確認する。
目的地まであと25分。
流れる汗がジリジリと太陽に焼かれる感じがした。
語り部シルヴァ