『隠された真実』
別れた元カノから手紙と一緒に花が来た。
紫色のトゲトゲした花びらにトゲトゲした茎...
花に疎い俺が知る訳もなく付き合ってた頃も
花についてよく喋っているのを聞き流していた。
「なーにそれ〜?」
彼女が俺の肩から顔を出して荷物の中身を覗く。
「お別れの手紙と花だよ。後で捨てる。」
頬にキスと頭を撫でて機嫌取りをして彼女を剥がす。
彼女は「重すぎて笑っちゃうね」と
悔しそうに言いながら飲み物を取りに行った。
捨てる前に手紙の内容を見る。
「今までありがとう。あなたのことは忘れない。」
もっと書いてるかと思ったけどこれだけか。
あと花も調べるか...
花の写真を撮って検索にかける。
"アザミ"という花らしい。
全部スッキリしたから手紙も花もゴミ箱に捨てた。
語り部シルヴァ
『風鈴の音』
窓際に吊るした風鈴が風に吹かれる。
少し値段が張ったものの、
なんとなく市販より透明な音に感じる。
つんざくような音でも鈍い音でもない調度良い音。
気が付けば目を閉じて聞いてしまうくらいには
素敵な音だと思う。
この風鈴、些細な風でも綺麗な音が出るから
今日みたいなほんとにそよかぜでも音を出してくれる。
クーラーを止めて扇風機と桶に張った水に
足を突っ込みながら感じる風鈴の音は
日本の夏と言える風情ある音ものなのだろう。
今は太陽が一番照りつける時間だが暑さも
少しはマシになった気がする。
氷が溶けた麦茶をゆっくり飲む。
結露した水がズボンに垂れたが
それすら冷たくて気持ちいいと思う真夏日のお昼時。
語り部シルヴァ
『心だけ、逃避行』
「ほら、行っておいで。」
胸を開くとハート型の小さなロボットがぴょんと飛び降りる。
こちらを向いてきたのでゆっくりと頷くと
小さなロボットは走り出した。
僕は人間を模して作られたロボット。
臓器と呼ばれるパーツは
人間が本来持っている場所に合わせられている。
各パーツは自立していて好きなように生きている。
だから僕の仲間はパーツが常時体外に出て
暴れ回っているなんてよくある話だ。
もちろん僕らは心臓なんてなくても生きていけるし
僕の心臓のパーツは随分と大人しい。
だが外の世界に興味はあるようでこうして仕事が終わったら
基本的に外に出して好きなようにさせている。
人間にこの話をすれば
「そりゃいいな。しんどい仕事も心が自由なら気楽だろう。」
と僕と同じような死んだ目で笑っていた。
人間は大変なんだなと思う。
人間もこんなこと出来ればいいのにね。
語り部シルヴァ
『冒険』
まだ知らない世界に足を踏み入れる。
このドキドキがたまらなく楽しい。
しかしこの新体験はいつになっても心を踊らせる。
これからも同じことを繰り返して成長していくんだろう...
今日も新しい世界へ行こうじゃないか。
そうだな...この恋愛ものとか...
「おい。連絡入れてんのに無視すんな。」
「だーって!外暑いじゃんか!
涼しい部屋でゲームするのが正義じゃん!」
新しい世界への扉を探していると友人が部屋に入ってきた。
「ほーら正義もたまには太陽の日を浴びて
健康体になりましょうね〜」
しかもカーテンを開けて部屋に日光を差し込ませる。
「ぎゃー!し、死ぬ...」
「こんなことで死なねーよ。
アイス奢ってやるから外の空気吸いに行くぞ。」
「アイスなんか家にあるから...!」
「おたかーいハーゲンダッツ。」
「よぉし外の冒険もたまにはいいよな!」
「都合良すぎるだろ...」
今回は外の地獄のような暑さの世界への冒険だ。
語り部シルヴァ
『届いて.....』
一定のリズムで刻む心電図。
静かな病室に響く...
清潔感のある病室はどこを見ても真っ白で
自分の吐く息ですら汚しそうになって息が詰まる。
今日で何日目だかもう忘れた。
君は今日も起きる気配は無い...
けどいつか目覚めてくれると信じている。
ふと見た窓の向こうは暑そうで
家の屋根も植物も走る車たちもみんな
太陽の光を眩しく反射している。
ずっと心地良い温度が一定になっている
この病室とは大違いだろう。
「なあ、あの暑い中食べるアイスが好きって言ってただろ。
さっさと起きてアイス食べに行こうよ。」
手をそっと握っても反応は無い。
いつもそうだ。
僕の思いは君に届かない。
「君のことくらいは届いてよ...」
心電図は一定の音を病室に響かせる...
それ以外は時が止まったように静かだ。
語り部シルヴァ