語り部シルヴァ

Open App
7/13/2025, 1:05:16 PM

『隠された真実』

別れた元カノから手紙と一緒に花が来た。
紫色のトゲトゲした花びらにトゲトゲした茎...
花に疎い俺が知る訳もなく付き合ってた頃も
花についてよく喋っているのを聞き流していた。

「なーにそれ〜?」
彼女が俺の肩から顔を出して荷物の中身を覗く。
「お別れの手紙と花だよ。後で捨てる。」

頬にキスと頭を撫でて機嫌取りをして彼女を剥がす。
彼女は「重すぎて笑っちゃうね」と
悔しそうに言いながら飲み物を取りに行った。

捨てる前に手紙の内容を見る。
「今までありがとう。あなたのことは忘れない。」
もっと書いてるかと思ったけどこれだけか。
あと花も調べるか...

花の写真を撮って検索にかける。
"アザミ"という花らしい。
全部スッキリしたから手紙も花もゴミ箱に捨てた。

語り部シルヴァ

7/12/2025, 10:57:24 AM

『風鈴の音』

窓際に吊るした風鈴が風に吹かれる。
少し値段が張ったものの、
なんとなく市販より透明な音に感じる。
つんざくような音でも鈍い音でもない調度良い音。

気が付けば目を閉じて聞いてしまうくらいには
素敵な音だと思う。
この風鈴、些細な風でも綺麗な音が出るから
今日みたいなほんとにそよかぜでも音を出してくれる。
クーラーを止めて扇風機と桶に張った水に
足を突っ込みながら感じる風鈴の音は
日本の夏と言える風情ある音ものなのだろう。

今は太陽が一番照りつける時間だが暑さも
少しはマシになった気がする。

氷が溶けた麦茶をゆっくり飲む。
結露した水がズボンに垂れたが
それすら冷たくて気持ちいいと思う真夏日のお昼時。


語り部シルヴァ

7/11/2025, 10:31:00 AM

『心だけ、逃避行』

「ほら、行っておいで。」
胸を開くとハート型の小さなロボットがぴょんと飛び降りる。
こちらを向いてきたのでゆっくりと頷くと
小さなロボットは走り出した。

僕は人間を模して作られたロボット。
臓器と呼ばれるパーツは
人間が本来持っている場所に合わせられている。
各パーツは自立していて好きなように生きている。
だから僕の仲間はパーツが常時体外に出て
暴れ回っているなんてよくある話だ。

もちろん僕らは心臓なんてなくても生きていけるし
僕の心臓のパーツは随分と大人しい。
だが外の世界に興味はあるようでこうして仕事が終わったら
基本的に外に出して好きなようにさせている。

人間にこの話をすれば
「そりゃいいな。しんどい仕事も心が自由なら気楽だろう。」
と僕と同じような死んだ目で笑っていた。

人間は大変なんだなと思う。
人間もこんなこと出来ればいいのにね。

語り部シルヴァ

7/10/2025, 10:56:49 AM

『冒険』

まだ知らない世界に足を踏み入れる。
このドキドキがたまらなく楽しい。
しかしこの新体験はいつになっても心を踊らせる。
これからも同じことを繰り返して成長していくんだろう...

今日も新しい世界へ行こうじゃないか。
そうだな...この恋愛ものとか...

「おい。連絡入れてんのに無視すんな。」
「だーって!外暑いじゃんか!
涼しい部屋でゲームするのが正義じゃん!」

新しい世界への扉を探していると友人が部屋に入ってきた。

「ほーら正義もたまには太陽の日を浴びて
健康体になりましょうね〜」

しかもカーテンを開けて部屋に日光を差し込ませる。

「ぎゃー!し、死ぬ...」
「こんなことで死なねーよ。
アイス奢ってやるから外の空気吸いに行くぞ。」
「アイスなんか家にあるから...!」
「おたかーいハーゲンダッツ。」
「よぉし外の冒険もたまにはいいよな!」
「都合良すぎるだろ...」

今回は外の地獄のような暑さの世界への冒険だ。

語り部シルヴァ

7/9/2025, 10:53:04 AM

『届いて.....』

一定のリズムで刻む心電図。
静かな病室に響く...
清潔感のある病室はどこを見ても真っ白で
自分の吐く息ですら汚しそうになって息が詰まる。

今日で何日目だかもう忘れた。
君は今日も起きる気配は無い...
けどいつか目覚めてくれると信じている。

ふと見た窓の向こうは暑そうで
家の屋根も植物も走る車たちもみんな
太陽の光を眩しく反射している。
ずっと心地良い温度が一定になっている
この病室とは大違いだろう。

「なあ、あの暑い中食べるアイスが好きって言ってただろ。
さっさと起きてアイス食べに行こうよ。」
手をそっと握っても反応は無い。

いつもそうだ。
僕の思いは君に届かない。
「君のことくらいは届いてよ...」

心電図は一定の音を病室に響かせる...
それ以外は時が止まったように静かだ。

語り部シルヴァ

Next