『夢へ!』
校長先生と来賓の方の長話がやっと終わる。
約一か月前に聞いた気がするせいか
初めての高校イベントはものすごく眠たい。
もっと緊張とかワクワクで目が冴えるかと思ったけど、
そうでも無かった。
そして最後の長話であろう生徒代表の人の話が始まる。
これで最後かもしれない。
あくびを求める体をグッとこらえて先輩の話に耳を傾ける。
『ーーー。』
その先輩の声を聞いた瞬間、眠気が吹き飛んだ。
タイプの声とかそんなんじゃなくて、
声の重さとか話し方とかどうも聞き入ってしまう声だ。
今までに無い体験に汗がぶわっと出てきそうだった。
『最後に、素敵な高校生活を過ごせるよう
日々を悔いなきようお過ごしください。』
先輩の話が終わった。
あの人の声。もっと聞きたい。
自由時間になったら急いであの人を探しに行きたい。
今までに無かったこの感情を先輩なら教えてくれるだろうか。
そんな思いの中始業式は無事に終わった。
語り部シルヴァ
『元気かな』
-拝啓、○○へ。
4月の温もりが桜を目覚めさせ、
桃色の雨が降る日々が続いてます。
お元気でしょうか?私は相変わらず
時間を浪費しながら生きています。
アナタがそばを離れてから夜空を見上げる時間が増えました。
あの冬の寒さが嘘のように暖かくなってきましたね。
されどアナタの人肌の優しさを今でも愛しく思っています。
アナタのこれからの幸せを祈って...
書いていた手紙をグシャグシャにしてビリビリに破く。
別れた相手にこんなゴミみたいな手紙渡せるわけが無い。
君のことを思い出しているのはきっと私だけだろうし、
君に話しかける権利はもう私には無い。
君の知らない所でただただ君の幸せを願うだけ。
「...元気かな。」
零れた言葉は見上げていた夜空に溶けて消えていった。
語り部シルヴァ
『遠い約束』
魔法や剣術、様々なスキルが使える世界で俺は勇者になった。
魔王を倒し一日中宴をさせてもらった。
次の日から俺は旅の途中で通らなかった場所を訪れた。
自分が勇者であること、魔王を倒したこと。
それらを報告する度村人は涙を浮かべながら俺に感謝していた。
...正直言うとすごく嬉しかったし、浮かれちゃいそうだった。
けれど俺だけは安心してはいけない。
少しでも魔王が復活した時のため...最悪の場合を考えておかなきゃならない。
だから俺は各国の臨時教育係になったり、国の王ともしもの話をしていった。
だが...やはり歳には敵わない。
老いていく身体に自身の限界を感じる日々になった。
死ぬ間際にこの世界に届くように手紙を残した。
「もしもの事のために日々の鍛錬を怠らないでおくれ。
私が消えたら次自分の国を救うのは自分だ。」
勇者が魔王を倒してから数百年。
文献によれば勇者の最後の手紙の内容から各国は平和の維持を目指し、日々鍛錬しているのだそう。
昔からの約束を守れているからこそ今がある。
もしも努力を怠った国があるとすれば...
その国は、一瞬で滅ぶだろう。
我々復活した魔王軍の手によって...
語り部シルヴァ
『フラワー』
散歩中、ふと足元に咲いていた花が無性に気になった。
低い植木の隅っこに咲いていた花。
真っ白で太陽の光に反射してさらに白く輝いている。
この花の名前をどうしても知りたい。
写真で検索できる機能を思い出して写真を撮って検索にかける。
『ハナニラ』という名前のようだ。
青い筋が花びら一枚に一つあって綺麗な花なのに花言葉が恨みや卑劣といった見た目に反して黒い花言葉があると教わった。
見た目によらないのは花も同じなのかもしれない。
よいしょと立ち上がり、散歩を再開した。
次また気になる花を見つけたら調べよう。
陽気に包まれて気持ちは完全に春。
どんな花を見つけれるか楽しみだ。
語り部シルヴァ
『新しい地図』
「ここが...」
船からゆっくりと足を下ろし数日ぶりに地に足を着く。
ずっと揺れていたせいか踏みしめる大地が
想像以上に固く感じる。
地図の外側にやってきた。
踏みしめた大地に感動して足が少し震える。
受付で新しい地図を端末にインストールする。
知らない地名や新しいクエストなんかの情報に
端末がオーバーヒートするくらいに一気に流れ込んでくる。
どうしよう。すごく興奮が収まらない。
昔は知らない場所に着くとずっとオドオドしていたのに
今じゃ胸の高鳴りを抑えるのに必死だ。
とりあえず今日は宿を見つけて明日から開拓していこう。
この新天地を、僕の冒険の物語を。
語り部シルヴァ