『君だけのメロディ』
新曲が投稿されて早速聞いてみた時に
その違和感は確信に変わった。
半年前、推していた作曲家が無期限の活動停止を発表した。
理由は明かされなかったが精神面の疲労や
恋人から夜逃げしたとか勝手な考察がされている。
しかしある日動画アプリでその作曲家が作品を投稿した。
コメント欄では復活を歓喜するファンで溢れかえっていた。
実際僕も嬉しかった。投稿された曲を何度も何度も聴いていた。
だがずっと聴いていると心のどっかで嬉しさよりも
違和感が増えてきた。
嬉しいはずなのにこの人の曲じゃない。
そんな気がしてならなかった。
作曲の方針を変えたのか...なんて思っていた。
そして今回投稿された曲を聴いてそれが確信に変わったのだ。
この人が絶対入れているメロディが無くなっていた。
僕がずっとその人を推していた理由がわかった。
そして僕はその人を推すのをやめた。
語り部シルヴァ
『I love』
今私の隣にいるこの人は寡黙でいつもお世話になっている。
大抵の愚痴は聞いてくれるし
私がやりたいことに着いてきてくれる。
無理しなくていいよと言っても
「好きでやってるから」と嬉しいことを言ってくれる。
主体性が無いように見えてしっかりと芯がある。
そんな人だ。
今俺の隣にいるこいつは元気があっていつも世話になってる。
静かな俺の世界を賑やかにしてくれて
色んな所に連れて行ってくれて知らないことを知れる。
強要するように見えてちゃんと俺のことを考えてくれている。
自分勝手のように見えて周りのことが見えている。
そんな人だ。
幼馴染とかじゃなくて入学式の時知りあった仲。
なのに何故だろうか。
私は
俺は
家族や他の友達よりも
この人の隣にいるのが心地よい。
語り部シルヴァ
『雨音に包まれて』
今日はずっと晴れの予報だったはずだ。
それなのにそれは暗いし世界は音を立てて濡れる。
近くに丁度いい公園があってそこで急遽雨宿りをしている。
空気が湿気っていて肌がベタついている感覚と
濡れた服がピッタリと貼り着くこの感覚が
梅雨だということを教えられた気分だ。
車が走る音も急な雨に走り出す人の声もあるはずなのに
やけに静かだ。
目を瞑れば雨音しか聞こえない。
柔らかい砂に当たる雨粒と
公園の遊具に当たる雨粒は音が違う。
そんな雨音に包まれているのも悪くないと思った。
...肌も衣服もべちゃべちゃじゃなければ。
語り部シルヴァ
『美しい』
私の日常は『美』で作られている。
部屋の内装、食事、仕事の内容、そして私自身。
私自身が美しくなければこの世界は美しくならない。
そのためにはどんなことも厭わない。
早寝早起き、食事制限、運動。
知識を得るために勉学に励み姿勢やマナーを学ぶ
苦手なことは多いがそれでも全ては美のため。
私が私自身を磨けばもっと美しくなれる。
洗顔やマッサージを終えて鏡を見る。
輝きを放つ鏡の前には鏡より輝く私が映っていた。
うん。今日も私は美しい。
語り部シルヴァ
『どうしてこの世界は』
「これ6番テーブルに!」
「3番のお客さんの注文まだー?」
「あっ5番テーブル誰か拭いてきてー!」
厨房内はとてつもなく慌ただしい。
休日でも祝日でもないただの平日だと言うのに...
なんなら怒号まで飛び交っている。
今日は何かあっただろうか。そう考える暇も与えてくれない。
忙しい。しんどい。
けどなぜだろう...この空間が、この忙しさがどうも心地よい。
「...ふふっ。」
なんだか楽しくなってきた。
「おいっ!笑ってないで手を動かせ!」
「あっ、はい。すみません。」
謝りつつも口元の緩みは戻らなかった。
どうやら僕はもう壊れてるらしい。
語り部シルヴァ