『夫婦』
夢を見た。大人びた君が隣で寝ている。
優しい日差しがカーテン越しに部屋へと行き渡る。
静かな外、君の寝息だけが聞こえる空間。
寝相のせいか寝る前は繋いでいなかった手。
視界も耳も肌の温もりも幸せで満たされている。
これが夢なんだろうな...
あぁ、覚めて欲しくないな。
この景色を目にしっかりと焼き付けていたい。
これから先...一生忘れることなく...
けれど幸せに包まれた体はゆっくりと目を閉じる。
目が覚めたら...君にこの話を...
夢を見た。君であろう視点から私を見る夢。
君はきっと忘れないと思うしこんな素敵な夢を見たって
ふにゃけた笑顔で話すだろう。
1人だと大きいベッドから出て仏壇に線香を添えて鈴を鳴らす。
両手を合わせて目を閉じる。
数秒して目を開けて仏壇の君に話しかける。
「今日君が見てきたであろう世界を見てきたよ。
私あんな幸せそうな顔してたんだね。
そういえば、今日はいい夫婦の日だってね。
...君が生きてたら一緒にお祝いしたかったよ。」
語り部シルヴァ
『どうすればいいの?』
誰かと話さない時間がこんなにも寂しいものだったかな。
秋の風がこんなにも寒いものだったかな。
ひとりぼっちを痛感させる日々からどうも抜け出せない。
少し前に恋人と別れた。
傷心してしまった私は今も立ち直れず
ずっと同じ場所から進むこともできてない。
これから先の未来が曇った夜空よりも真っ暗だ。
もうこの命を終わらせようかな。
人に迷惑をかけるかもだけど
そんなの死人に言ったって無駄だからね。
駅を通過する電車がホームに差し掛かった瞬間
1歩を踏み出そうとした。
電車は警笛を鳴らす。
その音にビビってホーム側へと後ずさりする。
電車は通過して行った。そしてそんな私を
誰も叱ることなくスマホを見つめる人ばかり。
死ぬことすらろくにできない私は
これからどうすればいいんだろう。
涙すらとうの昔に枯れた私を焦がすように
秋の空はいつもより暑かった。
語り部シルヴァ
『宝物』
「...」
昼休みに校舎裏にある穴場でスマホと睨み合う。
最近気になる子とついに付き合うことができてはや半年。
思った以上にことがよく進み彼女ともより
交流が深まっていって幸せな日々を過ごしている。
ただ...気になるのは頼っていい、
甘えていい境界線がまだ分からないところだ。
もちろんそういうのはお互い話し合ったり
長い時間を経て相手を知ればわかるものだろう。
そして相手にそれを聞こうか今迷っているところだ。
文章はできている...あとは送信するのみ...
「何してるの?」「わっ!!」
急に彼女に声をかけられびっくりして体が跳ね上がる。
その拍子に送ってしまったのか彼女のスマホから
通知音がなる。
「ん?君から...?」
彼女はスマホを取り出し俺が送ってしまった文章を
じーっと見つめる。
「ふーん。そんなこと考えてたんだ。」
彼女はニヤニヤしながら俺の顔を覗き込む。
「照れてる?可愛いね。私はいつでも大丈夫だから
遠慮なく言ってね!」
俺の反応を見て満足したのか彼女は笑いながら答える。
こうやって相手に気を使わせないように言えるところが
さすがだと思う。
「じゃあ、今度2人きりの時にお願いしようかな。」
そういうと待ってましたと俺より喜ぶ彼女。
彼女の笑顔に心臓は跳ね上がる。
本当、彼女は大切にしたい...
誰も彼女に見せたくないし触れられたくもない。
同じ空気を吸わせたくない。独り占めしたい。
...俺の大事な宝物。命に替えても守り続けたい存在。
語り部シルヴァ
『キャンドル』
ライターで火をつけ、部屋の明かりを全て消す。
部屋の真ん中で火がゆらゆらと優しく燃える。
誕生日に友人から貰ったアロマキャンドルを使ってみた。
優しい明かりからは気持ちがリラックスできるラベンダーの香りが漂う。
急に寒くなった夜は少しセンチメンタルになりやすいが、
なるほどこれはいい...
淹れておいたコーヒーの入ったマグカップを両手に持ち暖を取る。
パーカーを羽織って両手にはコーヒー。
アロマキャンドル...
いろんな温もりが体の芯をゆっくりと温めてくれる。
今度するときは本を読もう。
今日はここまでにしようかな。
そう思いアロマキャンドルの火をふっと消す。
真っ暗な部屋は温もりを忘れるようにしんと静まりかえる。
両手に持ったコーヒーも冷めてきた。
また...寒くなってしまった。
語り部シルヴァ
『冬になったら』
気分転換に山に来た。
秋の山は過ごしやすい気候に映える景色...最高だ。
紅葉もイチョウも赤や黄色だけじゃなく
橙色や山吹色と1色じゃなくいろんな色で山を染めている。
秋は山の色が映えてて目にいい刺激を与えてくれる。
秋が好きなのもあって季節の中じゃ短いのはとても残念だ...
今年も秋の特権を味わえるのもあと少し...
今のうちに沢山秋を楽しもう。
自販機で買ったコーヒーを飲みながら
木々の隙間から見える空を見上げる。
秋晴れから差し込む陽の光は
山の色づきをさらに輝かせている。
冬になったら...また秋が恋しくなるなあ。
一足先にしんみりとした寂しさが
コーヒーの温もりを際立たせた。
語り部シルヴァ