語り部シルヴァ

Open App
7/3/2025, 10:51:28 AM

『遠くへ行きたい』

「暑くなってきたねえ...」
「そうだな。」
「ここは冷房が効いてるけど暑いって感じるし、
暑い中アイスも食べれないから暇だよ〜」
「今度持ってきてやるよ。先生に相談しなきゃだな。」
「あ、私海行きたい海!」
「海もいいよな。今度行けたらいいな。」

「...行けるよね?」
「あぁ、きっと行けるさ。」

「あのね、私もっといろんな所へ行きたい。」
「うん。」
「海だけじゃなくて山とか見たい景色沢山ある。」
「行こう。絶対に。」
「約束...してくれる?」

俺は無言で指切りをした。
もってあと一週間。この時間で君と何ができるだろうか。

語り部シルヴァ

7/2/2025, 11:07:12 AM

『クリスタル』

私は病気持ちだ。
涙が水晶に変わる病気。たまに他の宝石に変わることもある。

鑑定士に見てもらうと
一生遊んで暮らせるほどの価値があるそうだ。
両親は大喜びしていた。病気の私にいつも感謝してくれた。
けどそれは私じゃなくて水晶にだろう。
最初こそ私の病気に寄り添ってくれたけど
今じゃ私の水晶のことにしか興味を示さなくなってしまった。

私が病気を治せばお母さんはどんな顔をするかな。
お父さんはなんて言うかな...

涙は真っ赤なルビーに変わった。

語り部シルヴァ

7/1/2025, 10:32:04 AM

『夏の匂い』

ジリジリと照り付ける太陽にアスファルトが焼ける。
靴に裏から伝わる熱がいかに暑いかを物語る。
湿気った風は体温を下げるどころか熱を籠らせる。

駅から出て数分なのにシャツが汗を吸って少しベタつく。
今日は自転車の方が良かったな...湿気った風が妙に匂う。
よく匂う...最近どっかで嗅いだことあるような...

悩んでいると空が轟く。
空を見上げた瞬間太陽が顔を隠し、雨が降ってきた。

夕立だ。あの匂いの正体は夕立だった。

語り部シルヴァ

6/30/2025, 10:35:12 AM

『カーテン』

何度も見たことのある映画。
今は海賊がお宝の鍵を見つけて物語はクライマックス。
視界の隅にはエアコンと
扇風機に吹かれて優しく揺れるカーテン。
太陽の光を浴びて白く眩しく輝いている。

暑苦しいはずなのにお互いピタリとくっつき
じっと映画を見ている。
夢か現実かなんてカーテンの裏から見る影のように
ぼんやりとしている。
どっちだっていい。この暑苦しさを感じるよりも湧き上がる幸せにはお互い抗えない。

同じ映画に揺れるカーテン。
夏の暑苦しさは燃えるような愛にかき消される。

そんな日常のワンシーン。
そんなひと夏のはじまり。

語り部シルヴァ

6/29/2025, 10:12:57 AM

『青く深く』

ゆらゆらと揺れる空はどんどん濃い青色へと染まっていく。
ギラギラと光る太陽がぼやけていく。
静かだ。何もかもが波に飲まれ海が飲み込んでいったようだ。

息苦しいはずなのに不思議と心地よい。
海が自分の体をゆりかごの赤ちゃんのように
ゆっくりゆらゆら揺らされているからだろうか。

海面へ行かないと。
けど...暑いのはやだなあ。
ここはずっとひんやりしてて気持ちいい。

このまま...このまま...
海に体を預けて目を瞑ろうとするとつんざくようなアラームが聞こえたと思えば体をグイッと引っ張られた。

気がつけば滝のような汗が流れ
部屋がジャングルのような蒸し暑さに包まれていた。

暑苦しさに目が覚めたようでスマホで時間を確認する。
「...シャワー浴びなきゃ。」
今日も仕事だ。あの空間にずっといたかった。

語り部シルヴァ

Next