『月夜』
夜の寒さは今日は非番のようで、
肌寒さの無い風が夜勤ながら春を届けに来ている。
良い夜だ。明日が休みでうまく寝付けなかったもので
散歩をしてみたが、すごく過ごしやすい気温だ。
静かな道を優しい風に吹かれてぼんやりした月が道を照らす。
心地よい。そういえばもう既に2月を終えて
3月に足を入れたのだった。
最近寒さが際立っていたからもう春が
目の前に来ていたのを忘れていた。
三寒四温。
そんな言葉がストンと落ちてきて、
この月夜の気候を体現するには相応しいものだった。
語り部シルヴァ
『絆』
どこかで親友が死んだ。
根拠は無い。ただなんとなく。
なんでかわからないけど、昔から一緒だったからか
相手が何してるかわかるほどに俺たちは仲が良かった。
この前電話してまたご飯でも食べて談笑しようと
言ったばかりなのに、あんまりだ。
...いや、もしかして死期を悟ったのかもしれない。
頭の良い親友なら何となくわかりそうだ。
今はただただこの直感が
嘘であって欲しいと願うばかりだった。
語り部シルヴァ
『たまには』
猛ダッシュも無駄になり、
ホームに着くやいなや電車は走り出してしまった。
この電車で帰らないと家に着く時間が少し遅れる。
少し。この違いが私にとっては大きい。
しかし行ってしまったものは仕方ない。
諦めてホームの椅子に座って待つことにした。
「あれ、先輩お疲れ様です。」
声をかけられて顔をあげると後輩が立っていた。
「珍しいですね。ホームで会うなんて。」
どうやら帰りの電車が一緒だったようで、
後輩は気づいてなかったらしい。
「こっちの電車ですよね?
一緒に帰れるなんてなんだか嬉しいです!」
先輩に可愛がられるタイプの後輩だから愛嬌がある。
...疲れていた気分も少し楽になるくらい。
こういうことがあるなら、
たまには1つ後でも悪くないかもしれない。
語り部シルヴァ
『大好きな君に』
人が少ない体育館というのはいつも寒いもんだ。
そんな寒さもいつかは思い出になるのかな...
と溢れるように出るあくびをなんとか我慢しながら
リハーサルを進める。
ただ人数が多く、自分は呼ばれたら返事をするだけ。
代表で卒業証書を受け取るのは式が終わったあと
教室で各クラスで受け取る。
来週で卒業...か。
二階の窓から差し込む光に舞い上がっている埃が透かされる。
どうせ振られるのはわかっているけど、
せっかくなら思いを伝えるべきか...
代表の練習をする君の背中を見て
またあくびが出そうになるのを我慢した。
向こうから思いを伝えられることなんて無いだろうし。
...もう小春日和な季節になったようだ。
ほんと。時間が過ぎるのは早いな。
語り部シルヴァ
『ひなまつり』
ひな壇に雛人形...じゃなくてお菓子を並べて
ぼんぼりの明かり...の代わりにリンゴを添える。
娘はこっちがいいらしい。
娘が真ん中に座るとただの食いしん坊だ。
それでも普通のひな祭りをしていた頃よりかは
満面の笑みを浮かべるようになった。
イレギュラーだろうか。
男である俺には縁の無かった季節行事で、
嫁は毎年お腹を抱えて笑っている。
家族円満ならそれでいいだろう。
そう思いながらカメラを構える。
ひし餅を美味しそうに頬張る娘の表情は
未来でいい思い出として蘇るといいな。
語り部シルヴァ