語り部シルヴァ

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11/4/2025, 10:30:44 AM

『キンモクセイ』

いつも神出鬼没で
隣にいたはずなのに目を離せばどこかへ行ってしまう。
いるのはわかるのにどうも見つけられない。

求めれば求めるほど魅了される。
匂いだとか形だとか気がつけば魅了される。
虜になってしまう。

愛を伝える勇気が出ないけど、
いざ伝えようものならその時には既にもう居なくなる。

いなくなると匂いも色付いた風景もパッと消える。
きっと来年もまた来てくれる。
そう信じて来年を楽しみにして待つ。

あの脳裏にまで届く甘い香りを必死に思い出しながら。

語り部シルヴァ

11/3/2025, 10:14:49 AM

『行かないでと、願ったのに』

心電図が一定の音を鳴らす。
足音や医療器具がガチャガチャとうるさい音が
聞こえるのに心電図の音が一番耳に残る。

看護師が名前を呼んでも返事は無い。
急いで医師を呼ぶ別の看護師。
まるでテレビを見てるかのように私は
ただ目の前の光景を眺めているだけだった。

あの時あなたの名前を呼べなかった。
返事が帰ってこなかったら私はどうにかなりそうだったから。
元気になって退院して一緒に
金木犀を見に行こうと約束したのになあ...

まだそばにいて欲しい。行かないで欲しい。
そんな願いも叶わない。

気分転換に一人で金木犀を見に行っても
約束が守られなかったからか花はみんな地面に散っていた。

散ったはずの金木犀から甘い香りが漂っている。
まるでまだあなたがそばにいるみたいだ。

語り部シルヴァ

11/2/2025, 10:23:07 AM

『秘密の標本』

出来心だった。
完璧と言われるあのお嬢様の意外な一面を見てみたかった。
身寄りのない私を雇ってくれたお嬢様は何もかも完璧だった。
恐ろしいくらいに短所が無かった。

だからこそ意外な一面があればそれを知りたかった。
そんな思いで掃除といいながらあちこちを漁ってしまった。
ある日、ついに隠し扉のボタンを見つけて押してしまった。
普段は気づかないようなボタンは押すと
壁が人一人分通れるほどの道を隠していた。

静かにこっそりと歩く。
細く暗い道を、闇に飲まれそうな深さの螺旋階段を...

そしてひとつの扉が前にあった。
これを開ければ...恐る恐るドアノブに手を伸ばし
ゆっくりとひねる。

中には美しくも恐ろしく感じる標本が並べられていた。
昆虫に鳥、犬...そして人間も。
これ以上はまずい。
そう思い振り返るとお嬢様が満面の笑みで
両手で持つほどのハンマーを持っていた。

「あなたも綺麗に飾ってあげる。」
そう言って私にハンマーを振りかざした。

語り部シルヴァ

11/1/2025, 10:24:17 AM

『凍える朝』

カーテンが輝いてる気がして目が覚める。
真っ暗な部屋なはずなのに目を凝らさなくてもよく見える。
異様に寒い。昨日は日中汗をか程度の温かさはあったはず...

足先が冷えてる。
寒い。もう秋の終わりの兆しが見えてきたかもしれない。
冬用の布団を用意しなきゃ...

顔を洗う水も氷のような冷たさでより目が冴える。
早くココアでも飲んで体を温めよう。

今年も冷える時期がやってきた。
それは同時に今年の終わりを知らせるようなもんだ。

少し寂しく感じる...寒いせいだろうな。

語り部シルヴァ

10/31/2025, 10:11:08 AM

『光と影』

歩けばみんなに声をかけられ、
助けを求められれば全てをそつ無くこなし、
関わる人達の信頼は並以上。
妬むものはいるけれど、
そんな人とも仲良くしようとするもんだから
陰口を言う人は少ない。
まるで勇者みたいだ。

中学は気が合う友人として共に過ごして来たが
高校に入った途端激変した。
二人で話す暇なんて無くて君は申し訳なさそうに席を外す。
断るのが苦手な君はこれからも輝き続けるだろう。
けれど休みだけはどれだけ連絡が来ても
君はスマホを見ず同じ時間を一緒に過ごしてくれる。

「いつもごめんね。こんな時間しか合わせれなくて...」
「高校になったわけだし、
無理して合わせなくてもいいのに。」
申し訳なさそうに言う君に答えると
君はムッとした顔で「僕は君との時間が欲しいんだよ。」
なんて言うから影みたいな私を?
と笑いながら聞くと
「影がそばにいてくれないと光は輝けないんだよ。」
と顔を寄せて答える。その目に嘘は無いようだ。

君と私が別の性別ならこの先に進めたのかな。

語り部シルヴァ

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