『待ってて』
『寂しい。』
会話が一旦終わり、眠りにつくであろう深夜0時。
こんな時間に送っても迷惑をかけるだけ。
それなのにまた恋人に甘えてしまった。
すごく申し訳ないとも思うけれど、やめられない。
恋人になってから相手のことを思う度
この時間がどうしようもなく寂しい。
明日になったら会えるなんて言われるだろうか。
そうじゃない。今がいい。なんてわがままだろうか。
こんなこと送って呆れられるだろうか。
寂しさに不安が混ざる。
頭の中でぐるぐる悩み事が回っていると携帯が鳴る。
『待ってて。』
あぁ...恋人はこんなにもわがままな自分を許してくれる。
そんな優しさが好きで、時折恋人が壊れそうで怖い。
...今は恋人を信じて待つことにした。
語り部シルヴァ
『伝えたい』
オーブンが間抜けな音を出して止まる。
恐る恐る開けるとケーキの形をした
真っ黒な塊がプスプス音を立てながら出てきた。
見事に火加減を間違えてしまった。
予熱を入れすぎたか...
呼びにもう一個分残しといて良かった。
予熱の温度をしっかり確認してオーブンに入れる。
渡すのは明後日なのに練習だけでもすごく緊張する...
せっかくのイベントなんだ。どうしても伝えなきゃ。
オーブンは頑張って動いている。
さっき間抜けな音を出していたのに
懸命に動くオーブンを見て
頑張れと心で念じた。
語り部シルヴァ
『この場所で』
家具や荷物が片付けられ、本来の広さに戻る。
ここで沢山の思い出が作られた。
ご飯食べすぎて気分が悪くなったり、
恋人と一緒に昼寝したり、
やけ酒しようとしたらご飯を床にぶちまけたり...
なんだかんだ酷い思い出も今は
あぁそんなことあったなあと済ませれる。
「荷物は以上でよろしいでしょうか?」
「あぁ、はい。よろしくお願いします。」
かしこまりました!では運びます!
と爽やかな笑顔を残し引っ越し屋さんは
僕の荷物を載せて走り出す。
「じゃ、お世話になりました。」
空っぽになった部屋に一礼して
引越しトラックを追いかける。
語り部シルヴァ
『誰もがみんな』
私が歩けばみんな見てくる。
指をさしてくる人だっている。
みんな私の話をしてる。
私が見ればみんな目を伏せる。
はぁとため息が出る。
教室で自分の机にはいつも通り
黒のマジックでメッセージが書かれている。
"死ね" "ペテン師の子供" "顔見せんな"
ありきたりな言葉が綴られている。
言いたいことなら言えばいいのに。
みんな手を差し伸べない。
私の元に来るのは罵詈雑言たち。
...今日はもう帰ろうかな。
ここで学べることはもう無いらしい。
語り部シルヴァ
『花束』
「ふふ、あなたったらまた花を...」
照れくさそうに笑う君はそう言いながらも
花束を受け取ってくれる。
ここ最近嫁の体調が良くない。
入院という形でなんとか現状維持できているレベルだ。
私が不安なら、当の本人はもっと不安だろう...
だから会いに行ける日は毎回花束を買って嫁にあげている。
病院に怒られない限りは続けるつもりだ。
「これじゃ、お花屋さんを開けますね。」
そう言って今日受け取った花を我が子のように撫でる。
そんな優しい君だからこそ早く良くなって欲しい。
今はそう願うばかりだ。
「実は...あなたにこれをあげたくて。」
そう言って折り紙で色んな種類の花を束にして渡された。
どれも優しく丁寧に折られている。
そんな健気な姿勢に思わず涙が零れてしまった。
語り部シルヴァ