『風景』
少し遠出をしていると美術展を見つけた。
入場料が無料だったという理由だが足を運ぶ。
美術館に入ることが少なく、少し挙動不審になってしまう。
それでも表面上は冷静にゆっくりと見て回る。
人物画、抽象画...
立体的なアート作品だったり色んな作品が展示されていた。
作品一つ一つ眺めていると、足が止まる。
いや、作品を見る度に足を止めていたが、
それの比ではなかった。
足を止められたという方が正しいかもしれない。
まるでその作品に飲み込まれるような。
魅力的な何かがあった。
その作品は海の底に日光が差す言ってしまえば
誰でも思いつくような風景画。
それなのに何故か無性に惹かれてしまう。
作品名は『溺愛』。
呼吸の仕方を忘れるほどに
この作品に惹かれる理由がわかったかもしれない。
語り部シルヴァ
『君と僕』
交換ノートをペラペラとめくる。
一言だけだがすごい量の一言が書かれている。
「朝起きて友達からLINEが来てたよ」
「お昼君が好きそうな服を買ってみた。
お小遣いは...ごめんね(笑)」
「夜更かししてみた。君のことを知りたくて...
けど寝ていたみたいで気がつけば朝になってたよ...」
僕のことを思いながら行動してみたり、
細かいお知らせを教えてくれるのは少し嬉しい。
君と僕お話できたらどれほど良かっただろうか...
「"キミのこともっと知りたいから教えてよ。"
そんな風にいつも思っている。
ちなみにキミが買ってくれた服ちょっとダサいけど
好きかもしれない。ありがとう<(*_ _)>」
僕が僕じゃなくなる時間。
キミは他にもなにかしているのかな。
僕らは二人で一人。今日は僕が頑張って生きる日。
語り部シルヴァ
『夢へ!』
校長先生と来賓の方の長話がやっと終わる。
約一か月前に聞いた気がするせいか
初めての高校イベントはものすごく眠たい。
もっと緊張とかワクワクで目が冴えるかと思ったけど、
そうでも無かった。
そして最後の長話であろう生徒代表の人の話が始まる。
これで最後かもしれない。
あくびを求める体をグッとこらえて先輩の話に耳を傾ける。
『ーーー。』
その先輩の声を聞いた瞬間、眠気が吹き飛んだ。
タイプの声とかそんなんじゃなくて、
声の重さとか話し方とかどうも聞き入ってしまう声だ。
今までに無い体験に汗がぶわっと出てきそうだった。
『最後に、素敵な高校生活を過ごせるよう
日々を悔いなきようお過ごしください。』
先輩の話が終わった。
あの人の声。もっと聞きたい。
自由時間になったら急いであの人を探しに行きたい。
今までに無かったこの感情を先輩なら教えてくれるだろうか。
そんな思いの中始業式は無事に終わった。
語り部シルヴァ
『元気かな』
-拝啓、○○へ。
4月の温もりが桜を目覚めさせ、
桃色の雨が降る日々が続いてます。
お元気でしょうか?私は相変わらず
時間を浪費しながら生きています。
アナタがそばを離れてから夜空を見上げる時間が増えました。
あの冬の寒さが嘘のように暖かくなってきましたね。
されどアナタの人肌の優しさを今でも愛しく思っています。
アナタのこれからの幸せを祈って...
書いていた手紙をグシャグシャにしてビリビリに破く。
別れた相手にこんなゴミみたいな手紙渡せるわけが無い。
君のことを思い出しているのはきっと私だけだろうし、
君に話しかける権利はもう私には無い。
君の知らない所でただただ君の幸せを願うだけ。
「...元気かな。」
零れた言葉は見上げていた夜空に溶けて消えていった。
語り部シルヴァ
『遠い約束』
魔法や剣術、様々なスキルが使える世界で俺は勇者になった。
魔王を倒し一日中宴をさせてもらった。
次の日から俺は旅の途中で通らなかった場所を訪れた。
自分が勇者であること、魔王を倒したこと。
それらを報告する度村人は涙を浮かべながら俺に感謝していた。
...正直言うとすごく嬉しかったし、浮かれちゃいそうだった。
けれど俺だけは安心してはいけない。
少しでも魔王が復活した時のため...最悪の場合を考えておかなきゃならない。
だから俺は各国の臨時教育係になったり、国の王ともしもの話をしていった。
だが...やはり歳には敵わない。
老いていく身体に自身の限界を感じる日々になった。
死ぬ間際にこの世界に届くように手紙を残した。
「もしもの事のために日々の鍛錬を怠らないでおくれ。
私が消えたら次自分の国を救うのは自分だ。」
勇者が魔王を倒してから数百年。
文献によれば勇者の最後の手紙の内容から各国は平和の維持を目指し、日々鍛錬しているのだそう。
昔からの約束を守れているからこそ今がある。
もしも努力を怠った国があるとすれば...
その国は、一瞬で滅ぶだろう。
我々復活した魔王軍の手によって...
語り部シルヴァ