『またね!』
電車が発車するまであと10分。
これから僕の一人暮らし生活が始まる。
この電車がその第一歩だ。
楽しみと不安が混じりどこか落ち着かない。
車窓から見える見慣れた景色を見つめていると
少し寂しくなる。
うるさい感情たちを内心なだめていると、スマホが鳴る。
"やぁ、もう出発したかい?"
唐突に先輩からのメッセージだ。
思わず立ち上がりそうになるくらい心臓が跳ね上がる。
"いえ、あと数分で出発です。"
"そっかそっか。気をつけてね"
「ありがとうございます。と...」
返信をして既読が着いたのを確認して
再び車窓からの景色を見つめる。
すると車内に出発のアナウンスが鳴りドアが閉まる。
出発だ。
電車がゆっくりと走り出した瞬間。
外から僕の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。
車窓を覗くと先輩が走っていた。
「先輩!?」
先輩は大きな声で叫んで何かを伝えようとした。
正直何を言っているかわかんなかった。
けど先輩の顔は笑顔で僕を見送ってくれた。
「...また会いましょう。先輩。」
きっと先輩がそう言ったことを信じてボソッと声が漏れる。
電車は勢いに乗ってスピードをあげる。
本当に、一人暮らし生活が始まった。
語り部シルヴァ
『春風とともに』
その人は突然現れた。
街を支配しようとする悪い王様に頭を抱えていた僕たち。
抵抗しようにも何十、何百もの兵士を持つ王様に
一般人の僕たちはどうしようもなかった。
そんなとき、1人の旅人がやってきた。
できる限りのおもてなしをした。
僕が数ヶ月我慢してやっと食べれる
乾いたパンを旅人にあげる。
旅人はそのパンをちぎり半分僕に譲ってくれた。
「お気に召しませんでしたか?」
「いや、ご飯はみんなで食べる方が美味しいからね。
このパンの半分を君と分け合う方が嬉しいよ。」
おもてなしをするはずの相手に優しくされて
思わず泣きそうになる。
そんな様子を見てか村人はパンをかじり
僕の家を出ようとする。
「それじゃあ王様をやっつけてくるよ。」
「えっ、旅人なのにどうしてそこまで...」
「君がお腹いっぱい食べて喜ぶ顔が見たいから。」
旅人は行ってきますと笑顔で僕の家を出ていった。
これは春風とともに現れ、僕たちを助けてくれた旅人のお話。
語り部シルヴァ
『涙』
夕日が咲いた桜たちを照らしながら沈んでいく。
この時間に散歩するのが日課になった僕たちは
今日も一日楽しかったと振り返りながら
オレンジ色に染まりつつある公園を歩く。
昔は好きじゃなかった夕焼けも
君と一緒だからか好きになってきた。
そんな君となら、
これからもお互い幸せになれるかもしれない。
そう思い今日はちゃんと伝える日だ...。
散歩道の折り返し地点。
少し高い位置にあるここは人通りが少ない。よし...
「あのさ。」
「うん?」
「これからもずっと一緒に散歩したりしてくれないかな?」
そう言いながら結婚指輪を見せる。
君は口を覆い驚いていた。次第に目が滲んでいく。
「そんなに泣く!?」
驚いていると君は目を擦りながら答える。
「違うの、花粉症今来たっぽい。」
語り部シルヴァ
『小さな幸せ』
・うっすらと虹が見えていた。
・野良猫が私にニャーと鳴いた。
・買い物したとき会計がピッタリ二千円だった。
そんな些細な良いことがあれば「良いことリスト」に
内容を書いて百円貯金する。
私の密かな楽しみ。
自慢じゃないが私はあんまり運が良くない。
だからこそ些細な幸せを見つけては
それを形にすることにした。
どれだけ運が悪くても、
どれだけ嫌なことがあっても忘れることは難しい。
ならその分見える形で小さな幸せをコツコツと集めていく。
これくらい良いことあったなら明日もきっと...
なんて願いを込める。
もし小さな幸せを見つけたらここに共有しよう。
あなたの小さな幸せにまた百円。
チャリンと幸せが貯まる音。
語り部シルヴァ
『春爛漫』
目が覚めて時間を確認する。
...遅刻だ!
慌てて布団を押し退けベッドから飛び降りる。
やけに静かな朝に体を止めて一旦冷静になる。
そうだ。もう学校は終わってしまった。
卒業式も数週間前に終わったはずなのに
未だに生活習慣が身体に刻まれている。
洗面台で顔を洗ってテレビをつける。
見慣れないテレビ番組がやっていたが
面白くなかったからすぐ消した。
ここ最近時間を持て余している。
学校に行くことが無いと思うと
こうも暇になってしまうんだなと思う日々が続いている。
少し考えて外に出る準備をした。
外は眩しいくらいに輝かしく、
春の香りと桜や他の花が綺麗に咲いていた。
「...暖かい。」
暇を求めるくらいに毎日を充実できるよう頑張ろう。
着々と進んでいく季節に置いていかれないように、
僕も1歩ずつ進むことにした。
語り部シルヴァ