『約束』
「ねえ、なんでそんなこと言うの?
"もう会いたくない"って...」
何気ない日常だった。休みの日に会ってお菓子を買って、
2人が好きな動画を見ながらゴロゴロする...
今日だってそんな一日を過ごすと思ってた。
けどどこか元気の無い君のことが気になって尋ねてみると
"もう会いたくない"と一言。
それから理由を聞いても俯いて何も言わない。
「今日は帰って。もう僕らは今日限りで終わりだから...」
君は歯切れの悪い言い方をする。相変わらずこちらを向かない。
やりたいこといっぱいあったって言うのに...!
自分の感情を一方的に押し付けたくなる。けれど震える君を見て全て理解した。
「...わかった。今までありがとう。
けど、これだけ...」
君に抱きつく。君が苦しくならない程度に強く抱きしめる。
君も同じようにしてくれる。
優しさと暖かさに包まれて心地いいはずなのに涙が出る。
「それじゃあさよなら。」
私はすぐさま帰る準備をして君の家から出た。
私たちは付き合う時、ある約束をした。
"彼は余命宣告を受けている。
その日が来た時彼から伝えられ、
私たちは文句を言わず別れを告げる。
そして私は彼のことを忘れる努力をすること"を...
語り部シルヴァ
『ひらり』
寒さが身に染みる。
結構な厚着をしたはずなのに
つま先まで冷えきっているのがわかる。
少し前まで寒さがマシになったと思えばこれだ。
レッグウォーマーでも履けば良かった...
暖かくなって、寒くなって、また暖かくなる。
きっとこの繰り返しをしているうちに寒さは消えていく。
赤くなっただろう鼻をズッとすする。
少し風も吹いてきた。
なんなら雪も静かに降ってきた。
まるで本格的な冬のようだ。
学校に急ごう。
早足で歩いているとひらりと舞う雪は私の鼻にピタリと
引っ付き静かに消えた。
きっと赤いから冷やしてくれたのだろう。
そんな冗談を思いつつ風情ある雪を押しのけて進み続けた。
語り部シルヴァ
『誰かしら?』
「あら...また...」
ドアをノックした音が聞こえてドアを開けると、そこには誰もいない。そこにあったのは木の実や魚が置いてあるだけ。
最近ずっとこんな感じ。
誰かのイタズラの割には木の実や魚は食べれるものだし何よりどれも新鮮でこの前料理に使ったらすごく美味しかった。
友人に聞いてみたけどみんな心当たりがなかった。
不気味だから相談すると村長に言おうよと言われた。
けれど私自身不思議と不気味に感じない。
だってイタズラならもっと腐った木の実や魚を持ってくるだろうし...
ふと思いついた。
ドアの前にクッキーを置いてみることにした。
翌日、またドアをノックする音が聞こえて急いで玄関に向かう。
ドアを開けると、贈り物をくれたお客さんがそこにいて思わず口角が緩む。
「あらあら、可愛いたぬきさん。あなただったのね。」
足に包帯を巻いたたぬきがクッキーを頬張っていた。
山菜を取りに行った時に偶然出会ったたぬきさん。
まさかのたぬきの恩返しだった。
語り部シルヴァ
『芽吹きのとき』
早朝の散歩中、
暑くなってきてマフラーを取る。
昨日も雪が降っていたから寒いと思ったが...
思ったより気温は下がらなかった。
それでも道の端には雪が積もっている。
ちかくにいるとひんやりしてそうで近寄り難い。
気がつけばもう2月も終わっていた。
ここから3月もあっという間に過ぎて4月になって...
そしたらまた1年もあっという間に過ぎるのだろう。
暖かくなってきたのはいいけど、何もできずに一年経ってしまうかもしれないと思うと春は来ないで欲しいとも思ってしまう。
ちらっと見た雪からふきのとうが顔を出す。
...ほんとう春がすぐそばまで来ている。
このふきのとうは冬を乗り越えて今顔を出した。
自分はどうだろうか。
この春で目覚めれるだろうか。
帰ったら求人を見たりときちんと向き合おう。
少しでもそう思えた自分を褒めれるのは自分だけだった。
...頑張ろう。
語り部シルヴァ
『あの日の温もり』
消防車とパトカーのランプが眩しく照らす。
現場は物珍しさで見に来た外野と消防活動をやってる消防士、
外野を抑える警察官。
みんな私が付けた炎を見に来ている。
どうかな?初めて付けた火は綺麗?
私が犯人だと知らない今近くに放火魔がいる気分はどう?
でも仕方ないよね。私よりも別の人を愛すると言い出した人は地獄の業火で焼かれてしまえばいい。
むしろこれくらい生ぬるいと思う。
死んでから燃やすより生かしたまま燃やせばよかった。
...次の参考程度に覚えておこう。
炎の勢いは増すばかり。ガスに油にいっぱい用意したからね。
少し遠目の場所からでも肌が少し焦げるくらいの熱さが伝わってくる。
もう、あの日に感じた温もりは忘れちゃった。
こんな煮え滾る感情はこんな炎じゃ燃やし尽くせないね。
語り部シルヴァ