語り部シルヴァ

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1/28/2025, 10:52:21 AM

『帽子かぶって』

「あ...もうない。」
作業の休憩にお昼にしようと
カップ麺の箱をゴソゴソと漁ったが掴めたのは虚無。
まだあると思っていたが、前に食べた分が最後だった。
仕方ない...今日の分は近くのコンビニに買いに行こう。

嫌々身支度を始める。
部屋着から外に出る用に着替えて、日除け用の帽子を被る。
洗面台の鏡で身だしなみを確認する。
よし、行こう。

ドアを開けると、冬のくせに太陽がギラギラしてる上に
気温が低いのか刺すような寒い風が吹いてる。

ドアを開けて数秒固まったあと、ドアを閉めて部屋に戻る。
もう...ご飯抜きでいいか。
それか高いけどデリバリーを頼もうかな...

帽子をポールハンガーへ雑に放り投げ、
服を脱衣所にポイッと投げる。
今日の天気は出不精の自分にとっては
死んでしまうから仕方ない。

そうやって自分を納得させゲーミングチェアに座って
作業を再開した。

語り部シルヴァ

1/27/2025, 10:39:04 AM

『小さな勇気』

席に座って下を向く。
暖房が効いているせいか中で汗をかいている。
それとも緊張しているのだろう...なぜなら...

目だけ少し上を見る。
少し前から乗ってきたおばあちゃんは
まだ僕の前で立っている。
少し揺れる車内はおばあちゃんを右へ左へとよろめかせる。

このおばあちゃんに席を譲りたい...
少し小っ恥ずかしい思いをするだけだ...!
そう思い勢いよく立ち上がる 。
周囲に視線が気にならないように目を瞑って声を出す。

「あ、あ、あの!良ければ座ってください!」

しんと静まり返る車内。ガタンゴトンと
線路と線路の隙間を踏む音だけが体に響く。
恐る恐る目を開ける。

おばあちゃんはキョトンとした顔をすぐ笑顔に変え
「ありがとう」と言って僕の座っていた席に座る。

自分が降りる駅までに言えてよかった...
アナウンスが自分の降りる駅名を呼び上げる。

降りないと...
そう思いドア付近まで行こうとすると
おばあちゃんに止められた。

「さっきはありがとうね。これよかったらどうぞ。」
そう言って黒飴をくれた。

受け取った黒飴は少し暖かく、
おばあちゃんがずっと握っていたように思えた。

語り部シルヴァ

1/26/2025, 10:44:58 AM

『わぁ!』

街灯が照らす夜道。
この時間帯は人通りが少なくなる。
1時間に1人通れば多いほうだ。

だからこそ、その1人に対して全力でいける。
気がついたら幽霊になってこの通りから出られなくなった。
だから色んな条件で成仏できるかどうかを試す必要がある。
成仏のために仕方の無いこと。
痛む良心を抑えて電柱に待機する。

少し待つと足音が聞こえてくる。
やっと来た。電柱に隠れてタイミングを伺う。
コツコツとヒールの足音。女性のようだ。
正直申し訳ないけど許して欲しい...

タイミングを合わせて...
「わぁ!」

...
女性は顔色変えずにそのまま歩いていった。

こうして全然人が来ない夜道で
霊感がある人をひたすら待つ耐久戦が始まった。

語り部シルヴァ

1/25/2025, 11:13:19 AM

『終わらない物語』

気付けば私は知らない森にいた。
彷徨う最中に見つけたのは不思議と
懐かしみのある洋館。
大きな扉を開けると洋館内を掃除していた
住人たちが歓迎してくれた。

お酒を飲んでパーティ。
楽しく過ごしているうちに眠ってしまった。
目が覚めると酔いも飛ぶようなことが起きていた。
洋館に入ったときから時間が
全く進んでいなかったのだ。

住人に聞くと...
「僕たちは台本に書かれた通りに動いている。
次のページが破られて台本が進まない。」

ならみんなで探そう。
そう提案して洋館の隅々を探した。
客室、ロビー、浴室...
どこを探しても見つからない。
壁に手をかけ一息つくと壁が凹み隠し扉が開く。

恐る恐る1歩ずつ進むと整列された不気味な棺と
破かれたであろうページが落ちてあった。
喜びながらみんなの元へ走っていくと
既にみんな集まっていた。

みんなの元へ近寄ろうとした時、
話し声が聞こえた。
「あの子の代わりが台本通りに来た。
あとはあの部屋で...」
なんのことかわからない。ただ1つわかるのは...

私は誰かの代わりということだ。

そんなの嫌だ。
私はこの物語を終わらせて家に帰るんだ。
どうにかして...終わらせないと...
どうすればいいかを考えていると置時計の近くに
少し錆びた秒針を見つける。
すごく鋭い...これなら...

私はゆっくりとみんなに近付いた。


目を覚ますとみんな同じタイミングで起き上がる。
荒れた部屋、ボロボロの衣装、
そして赤いカーペットの真ん中に
娘の動かなくなった体。

「「「「また...バッドエンド...」」」」

衣装を直して洋館の掃除をしよう。
そして待とう...また台本通りに動く役者を...

語り部シルヴァ

1/24/2025, 12:14:36 PM

『やさしい嘘』

「...」
「...」

両者沈黙の時間が続く。
事の発端は俺にある。
彼女のお兄さんの様態が悪くなったことを
お兄さんから連絡を受けお見舞いに行った。


元々体の弱かったお兄さんだが、
いよいよ入院しても難しいと言われた。
また彼女を誘ってお見舞いに来ます。
と言うとお兄さんは焦り、
まだアイツには秘密にしておいてくれと頼まれた。

正直どちらに嘘をつこうか迷った。
どちらにも嘘をつきたくないが、
そうなってしまったらどちらかが必ず傷つく。
例えそれがやさしい嘘だとしても...

その結果、お兄さんの頼みを優先した。
彼女は最後にお見舞いに行ってから
お兄さんと話すことなくお別れになってしまった。
彼女はひたすら泣いていた。
俺の胸を借りずにただ1人で我慢できずに溢れる涙を流して...

だから俺からはかけれる言葉もない。
喋ろうにも罪悪感が口を塞ぐ。

優しい嘘も結局は嘘。
バレてしまえば傷つくことだってあることを俺は
腫れぼったい目をしている彼女を見て自分を責めた。

そんなことをしてもこの場が
収まることが無いとわかってても...

語り部シルヴァ

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