『小さな勇気』
席に座って下を向く。
暖房が効いているせいか中で汗をかいている。
それとも緊張しているのだろう...なぜなら...
目だけ少し上を見る。
少し前から乗ってきたおばあちゃんは
まだ僕の前で立っている。
少し揺れる車内はおばあちゃんを右へ左へとよろめかせる。
このおばあちゃんに席を譲りたい...
少し小っ恥ずかしい思いをするだけだ...!
そう思い勢いよく立ち上がる 。
周囲に視線が気にならないように目を瞑って声を出す。
「あ、あ、あの!良ければ座ってください!」
しんと静まり返る車内。ガタンゴトンと
線路と線路の隙間を踏む音だけが体に響く。
恐る恐る目を開ける。
おばあちゃんはキョトンとした顔をすぐ笑顔に変え
「ありがとう」と言って僕の座っていた席に座る。
自分が降りる駅までに言えてよかった...
アナウンスが自分の降りる駅名を呼び上げる。
降りないと...
そう思いドア付近まで行こうとすると
おばあちゃんに止められた。
「さっきはありがとうね。これよかったらどうぞ。」
そう言って黒飴をくれた。
受け取った黒飴は少し暖かく、
おばあちゃんがずっと握っていたように思えた。
語り部シルヴァ
1/27/2025, 10:39:04 AM