『やさしい嘘』
「...」
「...」
両者沈黙の時間が続く。
事の発端は俺にある。
彼女のお兄さんの様態が悪くなったことを
お兄さんから連絡を受けお見舞いに行った。
元々体の弱かったお兄さんだが、
いよいよ入院しても難しいと言われた。
また彼女を誘ってお見舞いに来ます。
と言うとお兄さんは焦り、
まだアイツには秘密にしておいてくれと頼まれた。
正直どちらに嘘をつこうか迷った。
どちらにも嘘をつきたくないが、
そうなってしまったらどちらかが必ず傷つく。
例えそれがやさしい嘘だとしても...
その結果、お兄さんの頼みを優先した。
彼女は最後にお見舞いに行ってから
お兄さんと話すことなくお別れになってしまった。
彼女はひたすら泣いていた。
俺の胸を借りずにただ1人で我慢できずに溢れる涙を流して...
だから俺からはかけれる言葉もない。
喋ろうにも罪悪感が口を塞ぐ。
優しい嘘も結局は嘘。
バレてしまえば傷つくことだってあることを俺は
腫れぼったい目をしている彼女を見て自分を責めた。
そんなことをしてもこの場が
収まることが無いとわかってても...
語り部シルヴァ
『瞳をとじて』
目を閉じると、真っ暗な世界が広がる。
わずかなノイズが混ざりウェーブしたり点滅したり、
不思議な感覚に包まれる。
明るい場所で目を閉じると白い世界が広がる。
この世界で意識が無くなればそれは"眠る"ということだろう。
そう思いつつ寝ぼけた頭をリセットするように
頭を横に勢いよく振る。
そういえば幼馴染の部屋に来ていたのを思い出した。
幼馴染に誘われて勉強して途中で
お昼寝に変わったんだっけか。
寝る前の記憶を思い出す度に目が冴えていく。
静かに伸びをして幼馴染の寝顔を覗く。
普段はうるさいけど、顔はしっかりしてるんだよな...
じっと覗き込んでいると、幼馴染が目を覚ます。
私で影になっているはずの瞳はキラキラしている。
寝ぼけた幼馴染の「おはよう」に私は
不意に可愛いと思ってしまった。
目を瞑っても、白い世界が広がって顔は暑くなるだけだった。
語り部シルヴァ
『あなたへの贈り物』
「よし...目を開けていいよ。」
彼女が目を開ける。
目の前には誕生日ケーキと
薄暗い部屋をぼんやり明るくするロウソクに彼女の目は輝く。
「わぁ...これって...」
「サプライズ。誕生日だから奮発したんだ。それと...」
そう言って袋を出して彼女にあげる。
「あっ!これって...!」
そう、彼女が前から欲しがっていたぬいぐるみだ。
「ありがとう!嬉しい...!」
ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる彼女の姿はとても愛おしい。
彼女に喜んでもらえるように準備したかいが
あったというもんだ。
そんな彼女を見ていると彼女は私の横に来て
私をぬいぐるみのように抱きしめる。
「苦しいよ〜、ほら、ロウソク消してケーキ食べよ?」
うん!と言い向かいに座る。
バースデーソングを歌いきりロウソクの火を吹き消す。
まだまだ幸せな時間はこれからだ。
語り部シルヴァ
『羅針盤』
天気は良好。
風も穏やか。
この様子だと唐突に来る嵐も無さそうだ。
1面海。ゆらゆらと揺れる船も心地よく感じる。
地図を取り出して目的地を確認する。
...うん。今どこにいてどこへ向かってるか全くわからない。
おそらく地図通りに行けてるはずだろうけど...
それでも不安しかない。
「船長!このまままっすぐですかぃ?」
舵手が大声で確認を取る。
右も左も海で島すら見えない。
それなのにわかるわけが無いだろ...
「あ、あぁ!まっすぐ進め!」
「おー!」船員の返事と共に船はまっすぐ進む。
船員にバレないように羅針盤を確認する。
赤い矢印は上を刺している。
北...とりあえず北に進めば問題ないだろう。
羅針盤を閉じて船の見晴らしのいい場所へと登る。
今はこの潮風を感じるだけでいいのかもしれない。
語り部シルヴァ
『明日に向かって歩く、でも』
目が覚めた時には太陽はすでに真上まで登っていて、
スマホは友達からの心配のLINEが大量に来ていた。
"1限目来てないけど大丈夫!?"
"姿見えなかったから一応プリントもらったよ〜
課題内容も載せとくね!..."
LINEの内容を見てはっと目が覚める。
授業を飛ばしてしまった。
昨日はちゃんと寝たはず...いやちゃんとではなかったっけ。
2日前に別れを切り出されて、
何も出来ずに一日を過ごしてしまった。
その反動で昨日は丸1日寝ていたのだろう。
正直まだ完全には立ち直れていない。
けど今日までも無駄にする訳にはいかない。
友達へ返事を送り、ベッドから降りて顔を洗う。
スマホの写真アプリを開いて消せなかった写真を消す。
...2人の後ろ姿の写真は消せなかった。
明日をよりよくするために半日からでも頑張ろう。
でも...今は振り返る居場所も残しておきたい。
1枚だけ写真を残して写真アプリを終了した。
語り部シルヴァ