『そっと』
最近息子がやたらと勉強するようになった。
塾に行く時間が増え、あれだけ勉強よりも
ゲーム一筋だったのにゲームも控えるようになった。
理由はどうであれ勉強するのはいいことだが
急激に変わる息子に正直戸惑いを隠せない。
今日も勉強をすると晩御飯を食べ終わった後すぐに
自分の部屋へと行ってしまった。
来年から受験生。その準備を今からでもしようとするその姿勢
は親としてはしっかりした子に育ってくれて
嬉しいものだった。
今日も日付が変わる直前まで勉強をするんだろう。
少し差し入れをしようかな。
そう思い静かに息子の部屋へ移動する。
ドアに手をかけようとしたとき、息子の笑い声が聞こえる。
普段とは違う大人しめの笑い声。
女の子っぽい名前を呼ぶ息子。
時たま勉強に関連する話題で盛り上がっているようだ。
こんな気持ちは親のお節介かもしれない。
それでも今までの行動の理由が繋がった気がして
ドアから手を離しそっと部屋から離れた。
語り部シルヴァ
『まだ見ぬ景色』
「...でな、そこには俺何人分か
わかんないくらいのでかい鳥が〜」
お見舞いに来てくれたおじさんは
両手を大きく広げて楽しそうに話す。
このおじさんは僕が小さい頃から冒険に出ては
土産話を持ってきてくれる。
体が弱い自分にとってはいつも面白い話をしてくれる。
ドキドキハラハラ、それでいてすごくワクワクする。
「いーなー。僕もおじさんみたいに冒険してみたい。」
「はは、お前もいつか行けるさ。
行けるようになったらおじさんが連れてってやる。」
「ほんと?やったー!」
そう言っておじさんと小指を絡ませて約束をする。
早く元気になりたいな...
おじさんと冒険して色んな景色を見て...
おじさんの話をした後も自分の夢見る世界に
ワクワクが止まらなかった。
語り部シルヴァ
『あの夢のつづきを』
ガバッと勢いよく起きる。
外はまだ開けることのなさそうな暗い空。
時間を確認する。午前3時。
なんで起きたから数秒考える。
そういえば夢を見た気がする。
高校の誰もいない場所であの人と...
そんな懐かしい夢を見た気がする。
今日も仕事。それなのにさっきまで見ていた夢を
もう一度見れないかと悩んでしまう。
とりあえずトイレを済ませて水を飲んで...
布団を整えてもう一度寝る準備をする。
懐かしい夢をまた見たい。余韻に浸りたい...
迫ってくる眠気に意識を持っていかれながらも
夢を見れるように願った。
語り部シルヴァ
『あたたかいね』
バスが来るまでまだ時間がある...
くそ...席に座りたいからって早く来すぎた。
日が昇る中屋根の下は随分と冷える。
寒そうにしていると、同じクラスの友人に声をかけられた。
「お疲れ、随分と寒そうだね。」
「お疲れ。あーバス停の屋根のせいで寒くてね。」
そういうと友人はカバンからココアを取り出して渡してくる。
「ほい、これで少しは紛れそう?」
「え、嬉しいけど貰っていいのか...?」
「まーた買ってくるから大丈夫!
明日購買でなにか奢ってくれたらいいよ!」
「ありがとう。ってそれ購買目的だろ。」
バレた。と笑う友人。
こんなやり取りをしているだけでも温まるのだが...
話すと笑われそうだから言わないでおこう。
じゃーねーと友人は帰っていった。
ココアを開けて1口飲む。...思った以上にぬるいな。
ココアがぬるくても、友人の優しさが暖かいものだったから気にしないことにした。
明日好きなものを奢ろう。
語り部シルヴァ
『未来への鍵』
また...またダメだった。
自分の夢を掴むためにアイドルになったのに、
テレビ番組として出演するとどうも上手く話せない。
正直もうダメかもしれない。
ここまで来たけど結局一般人より
少し顔が知れてる程度にしかなれなかった。
私の未来はここで閉じて残りの人生を
のんびり生きた方がいいのかもしれない...
みんなには申し訳ないけど...
そう考えアイドルグループのみんなに話した。
後輩が何か言いたげそうな顔をしているので聞いてみた。
すると後輩は涙を浮かべ
「私がここまでこれたのは皆さんや先輩のおかげです!
今度は私たちが先輩を支える番です!先輩の目指す未来のために私たちが力になります!」
可愛い後輩からの頼もしい言葉に私まで涙が流れる。
この子たちが私の未来への鍵...
この子達のためにも私がしっかりしないと...!
「ごめんなさい...私弱気になってた。私もっと頑張るね!」
私の夢はいつまにか私"たち"の夢へと変わっていた。
そう...みんなで未来を掴むんだ。
語り部シルヴァ