『星のかけら』
満点の星空を見る度に昔を思い出す。
小さい頃の僕は結構な泣き虫だった。
泣いた理由はいっぱいあった。
学校で飼っていた金魚が死んだ、友達と喧嘩した、
テストで納得のいく点が取れなかった。
そんなことがある度1人部屋の隅っこで泣いていた。
親に心配かけないように1人息を殺して...
ある日の夜いつものように
泣いて窓越しに夜空を見ていると、おじいさんが空からやってきた。
「どうしたんだい。
なんだか悲しそうな顔をしているじゃないか。」
物腰柔らかそうに尋ねてくるおじいさんを不審者とは思えず
泣いていたこと、泣いた理由を伝えた。
するとおじいさんは優しく笑いながら
星空を摘むように指を動かす。
そのまま僕の前に持ってくると星空は小さな飴になった。
「ほら、星空からもらった飴だよ。
これで元気を出しなさい。」
言われるがままに飴を口に運ぶ。
甘いけどなんの味かわからない。
それでも今まで食べた飴のどれよりも美味しかった。
「それじゃあね。可愛い泣き虫さん。」
おじいさんはそう言って僕の頭を撫でると
すうっと消えていった。
今思えば夢かもしれない。
それでもあの星空の飴のことは忘れられないし、
今でも寂しい夜に元気をくれる魔法になった。
お礼を言いそびれたからまた会えたらな...
少しセンチメンタルになった心に冷えた風が視界を滲ませる。
「おやおや、泣き虫さん。どうしたんだい?」
聞き覚えのある優しい声が夜空から聞こえた。
語り部シルヴァ
『Ring Ring...』
携帯をちらっと見る。
残念ながら携帯は微動だにしない。
いや、今日も来ないのかもしれない。
最近彼女から一向に連絡が来ない。
元々嵐のような人だがその嵐がずっと静まりかえっている。
普段は飽きない日々だなと思う反面、
いざ来ないと寂しく感じる。
おかげで勉強も進まない。
でもこっちから連絡するにせよ話題も無い...
勉強も手付かず、悩んでいるとついに携帯が
バイブレーションで揺れながら携帯が鳴る。
呼出音の一回目が終わる前に出る。
「も、もしもし...?」
携帯から聞こえる声はクスクスと笑いながら...
「やっほー。ずっと待ってたでしょ?」
どうやら彼女は僕のことについてはなんでも
おみとおしのようだ。
語り部シルヴァ
『追い風』
汗の匂い、冷たい風。
背景から聞こえる声援。
試合終了まで残りあとわずか、
このままだとこっちが負ける。
空気が完全に押されている。
まずい...
体もそろそろガタが来ている。
それでもまだ持ってくれ...
汗は冷や汗に変わっていく気がした。
もし負けたら...なんて先に1人反省会を開きそうになる。
でもそんなことしている場合じゃない。
すると後ろからキャプテンの声が聞こえる。
「お前らー!まだまだこっからだぞー!」
怒った様子じゃなくとても楽しそうな声。
そうだ。そうじゃないか。まだまだ楽しめるじゃないか。
強ばっていた口元が緩くなって笑顔になった気がする。
こんな状況だからこそ楽しくぶつかり合わないと。
俺と同じ気持ちなのか仲間全員前へと走り出した。
残り2分。追い風に乗る勢いで審判のホイッスルが鳴り、
ボールを託された俺はゴール目掛けて走り出した。
語り部シルヴァ
『君と一緒に』
今日も乗り越えた。
片付けも終わり今から帰るところだ。
去年まではゆるい部活だったが、
顧問の先生が変わった途端ガチ勢のようなキツさになった。
部室の掃除、ラケットなどの備品の点検は毎日。
顧問の先生が来るまでに準備運動、ストレッチを終わらせる。
試合に全力で挑む学校は当たり前かもしれない。
それでも今までゆるゆるだった僕らからすれば
地獄の日々へと変貌した。
確かにキツイ、初日の翌日は筋肉痛で大変だったし、
まあまあ仲の良い仲間はあっさりやめてしまった。
僕もやめてしまいたいと何度も思った。
それでも...
「や、お疲れ様。今日も厳しかったねえ」
ヘトヘトな僕の隣に疲れたーと楽しそうな君が来る。
同じクラスで2人で部活に入ろうと決めた時から
仲良くしてくれる君。
最初は僕よりも上手く先生にもよく褒められていた。
そんな姿がかっこよくて魅力的だった。
だから僕も必死に努力して君と並べれる強さになった。
今じゃ部活内では強いタッグと呼ばれるほど。
君となら、どんなに厳しくても一緒に乗り越えられる。
君も同じように思ってくれていると嬉しいな...
雑談混じりでコンビニで買った肉まんを分け合いながら
明日も頑張ろうと意気込んだ。
語り部シルヴァ
『冬晴れ』
寒い澄んだ空。
雲ひとつない青空の下は風を浴びるにはまだ早い。
マグカップを持つ手は手のひらは暖かいものの、
手の甲側は冷たい風が刺さる。
あかぎれや指が割れそうだ。後でハンドクリームを塗ろう。
今日みたいな日は外を歩けば風は寒く日差しは暑いだろう...
寒いと外に出たくない出不精の自分には関係ない話だ。
必要な時以外外に出てないから正月と相まって
運動不足がすごいことになっている。
いい加減...動かないとね。
そう思いつつ明日からにしようと頭は既に
引きこもる選択をしていた。
今日は...やることもないからマグカップと一緒に
ベランダで白い息でも吐いて寒さを楽しもう。
語り部シルヴァ