心の灯火
手術は無事成功した。
あとは...こいつ次第だ。
静かに眠る友人を見つめながら今日も祈る。
友人は優しい。それが故に自己犠牲を躊躇わない性格だ。
今回も車に轢かれそうな子供を庇って
自分が轢かれてしまった。
打ちどころが悪く、手術が必要なくらい重症だった。
医者の腕と友人の体力があったのもあって
手術は成功したものの、一向に目が覚める気配がない。
バイタルサインにはしっかりと
心臓が動いていることを表すグラフが動いている。
看護師に許可を貰ってそっと手を握る。
自分の手は冷たいと言っていた友人の手は暖かい。
自分勝手かもしれない。わがままかもしれない。
でも目が覚めたらこいつとやりたいことがいっぱいある。
伝えたいことも...
だから命よ枯れないでくれ。
その灯火を絶やすことなく目覚めてくれ。
語り部シルヴァ
開けないLINE
"大事な話があるの。"
LINEのトーク一覧の1番上。
固定されたトークにはそう書かれていた。
ついさっきまで楽しくお話していたはず。
急に温度差の激しいメッセージが来たと感じる。
大事な話があると言ってロクなことが無かった僕からすれば
ほぼ呪いの呪文のようなものだ。
スマホを持つ手は震えるし目の焦点は若干合わなくなる。
呼吸も浅くなる。
仲良くお話していた君とも今日でお別れなのかもしれない。
それならいっそこのままで...
は未読無視してしまうのは明日学校で会うと気まずい。
深呼吸をしてため息のように息をはく。
よし。もうなるようになれ。
勇気を振り絞って開けなかったトークを押して
"どうしたの?"と返した。
返ってきたLINEに僕は驚愕するのはあと数分後の話...
語り部シルヴァ
不完全な僕
どんな事があっても守れるように力を手に入れた。
死ぬことがなく永遠に生きれるように体を捨てた。
どんな予測もできるように脳にCPUを搭載した。
感情に振り回されないように心を消した。
僕はより完全な生き物になるために今の人間が欲しいであろうものを全部搭載した。
おかげで災害に会った人を守れた。
愛する人を最後まで見届けれた。
突然の出来事にも対応出来た。
常に平常心でいれるようになった。
俺は完璧だ!完全体だ!
私は人の理想だ!
...違うよ。
どこからともなく声が聞こえた。
誰だ?
君が消した心だ。
今更何の用だ?
君は完全体じゃない。
力に嫉妬しているのだろう。
聞く耳を持たずに無視していると、強い声が聞こえた。
「君は...人の心を失った。人の体を失った。人であることを辞めたんだ。君は...不完全だ。」
消したはずの感情にもやがかかる。
僕は...俺は...私は...どうすれば良かったんだ。
語り部シルヴァ
言葉はいらない、ただ...
些細な喧嘩を友とした。
話し合いで終わるはずだった。
少し高めの土産を持って話し合ってあの時は
悪かったと言うつもりだった。
ところがそうもいかなかった。
茶室へ案内されると思ったが、庭の真ん中に呼び出された。
土産は持っていかれた。
キョロキョロと見渡していると、友がやってきた。
「や、やぁ。」
挨拶をしようとすると友はこちらに真剣を放り投げて来た。
受け止めるやいなや友は真剣で斬りかかってきた。
咄嗟に鞘で受け止め剣を抜き斬りかかる。
「おい!急になんだ!」
問い詰めようと思うが友の構えは緩みもしなかった。
ただ、鞘で刀を受け止めた時に違和感があった。
力が思ったより入ってなかった気がする。
これは真剣による喧嘩...そう受けとっていいのだろうか。
片手に持っていた鞘を放り投げ構える。
友はニヤついて刀を握り直す。
言葉はいらない...ただ...喧嘩するのみだ。
そう言いたそうな友の笑みを見て釣られて笑う。
語り部シルヴァ
突然の君の訪問。
インターホンが鳴る。
ネットでの注文はしてないはずだ。
めんどくさいのも嫌だから居留守でも決めよう。
そう思って無視していると
何度も何度もインターホンを鳴らす。
ここまで来ると誰がやっているかはわかる。
「...インターホンはおもちゃじゃないんだぞ...?」
「はいっ!先輩を呼び出すためのものです!」
自信満々な回答はやや斜め上の答えが返ってきた。
この後輩は今年の春に1人で校内を迷っていたところ、
助けたら懐いてきた。
ゲームや映画の趣味が同じでよく夜に電話しながら
遊んだりする仲になったが、最近容赦なくこっちの部屋に
上がりこんでくるようになった。
嫌じゃないが...もっとこう...危機感を感じて欲しい。
そう思いながらも後輩用に準備していた
お菓子とジュースを用意する。
「ほら、今日のお菓子だ。ジュースもあるからな。」
「先輩...用意周到ですね。餌付けで私を飼おうとしてます?」
お前のためだ。と心の中でイラッとするも
すぐにそれは世話焼きだと感じた。
突然来るお前のために用意してやっていると言うと
後輩は何を思うか。
想像すると少し面白くなった。
「先輩。1人でにやけながら笑うのはちょっと...」
語り部シルヴァ