テーマ「初恋の日」
初めて、とは印象の割に幾らでもあるもので。
それが恋にしたって、選択肢というものが思い浮かぶ。
…因みに淫乱、淫売の類の話ではない。
いやまぁ、ひょっとしたらそう言う事なのかもしれないが、
実態としては、対象の話ということである。
詰まるところ、私にとって、
最も美しい恋しさは冬夜の満月であった。
凍てついた彼岸を思わせるようなわだつみを下にして
届かない頂から、その神聖を放射する。
あれを恵みというのだろうし、まさしく夜を支える一柱だと思われた。
定義の話に戻ると、だ。
私はあの夜を忘れない。
空を見る度思い出す。
相手が大きく高すぎる。
これだけ揃えば、良いではないかと、
思うのだけれど。
テーマ「耳を澄ますと」
木の葉のこすれる音が聞こえる。
枝がしなりその先の葉が反り返って、
ぶつかり合っているのだろう。
カラカラと缶も転がり、響く。
ジューンブライドには少し早い。
そそっかしいと言えば、楽しいか。
暗闇の中、扉の向こう側の世界は想像を掻き立て、
私は後悔を予感しながら、少しずつ溶けていく。
2026 4/22 テーマ「雫」
ずっと、ひびいてる。
にじんで分かんないお目々の代わり、
水のはねる声が、ひびいてる。
体は全部ぬるくて、ぬめって、私はお風呂にいるみたい。
でも、出そびれちゃうと寒いから、きっと私は風をひく。
かえる、かたつむり、あと、そう、なめくじ。
皆と違って、いつもぬるぬるしてないからだめなんだ。
雫が目に入りそうになって、一生けん命、目をつぶったら、
そのままはなの後、口に入っちゃった。
しょっぱい。
(「雪明りの夜」)
電気代の節約ということで、
夜をフケって布団へと入り込んだ私が
一生懸命に眠気を育んでいると、
ふと、閉じきった視界の奥、
そして、開いた目蓋の先、
カーテンの向こう側が
ぴかぴかと輝いている事に気が付いた。
ほんの少しは躊躇した後、
結局は執心をとった私は、
枕元に畳んであった朝冷えの為の上着をとって、
蛹の様になって服を着た後
もぞもぞと包みから這い出て
光の方へと引かれていった。
指先から伝わる熱伝導の気配に
またまた少し躊躇いながらも
一枚の薄布と一枚の厚地をはいで
景色を顕にすると、
そこにあったのは、満杯の雪と
少し欠けているお月様だった。
ふんだんに光と熱を享受している
都会育ち都会暮らしの私にとって
それは何度か経験はしている、
見覚えのない景色だった。
雪は溢れんばかりの月光を頂いて、
ほんの少し、
ほんのつゆ程だけとろめいた後、
殆どの残りをそのまま周囲へと分け与える。
ただそれだけの事が
こんなにも輝かしく映ることを
ずっと知らないでいたのだ。
余所見ばかりで、見えないでいたのだ。
すっかり、うちのめされてしまった私は、
それでもせめてもの抵抗として、
布団を手繰り寄せ
いつの間にか手元に収まっていた
アルコールで浮かれながら
そのまま、
ぼーっと夜更かしをした。
(12/24 「揺れるキャンドル」)
ぼ〜ぼ〜、と燃える火に、ふわりふわり、といった風な揺らめきが見える。
鼻腔をくすぐる甘い香りは、
ともすれば惨状を匂わせもする赤の表出を
神秘的なものへと昇華させているようだ。
「ねぇ、もう電気を点けてもいい?」
退屈そう、というには余りにも活力に満ちた声が静けさを裂き、
闇を晴らそうとする。
「もう少し、もう少しだけ、ね。」
私はそれに日の出の様な有難みを感じながらも、
幻想に包まれていたいという我儘を
つい、押し通してしまうのだった。