テーマ「脳裏」
美しい、と
称せるような感傷だった。
今、考えると…、
いや、今に至るまで何度も考え直した結果として、
私が彼女に抱いた、あの感情の由縁は
容姿、ではなく
所作だったのだろうと確信している。
真面目な彼女が毎日着ていたのは、
見直してみなければ、
白と赤と黒を基調としていた事が分からない、特徴の薄いセーラーに、
太ももがギリギリ見え無いくらいの長さのスカートであり、
そして、身に着けていた装飾は、
男性が着けても印象が変わらないような黒フレームが楕円のガラスを包む平凡な眼鏡と、
ほんの少し配慮したような可愛げがある為に、
却って印象に残らないような、髪を纏めるためのクリーム色のゴムだった。
当時の私はルールを創作せしめる様な同輩に対して、
追従には至らない程度の遠巻きな憧れを抱いており、
その代償、或いは証左として、
変哲も無い風体の生徒を、
内心…
正確に言うと、
自覚するほどではあるが、口には出さないくらいの心持ちでもって、
軽蔑して見下し、
そして実際に、
敬遠していた。
教師からの心証の良さだけが頼りになるような連中とみなしていた彼女とは、
授業時の噛み合わせの運も相まって、
同じクラスにいながらほぼ一切の交流がなく、
一緒にいた数人の、進学時に別れてしまった知り合い達からの嘲笑への恐れもあって、
自分から話しかけることもなかった。
そのまま、出会いと別れを繰り返す中で、
何人かの客観的な事実として美人と言えるような女性と話す機会に恵まれ、
その上で、
私にはあの時以上の感動がもう無いのかもしれないと、
今の今まで思い続けてきている。
喋り方から歩き方に至るまでに感じる全ての物足りなさが、
あの時代のよく知りあわなかった彼女に連なっていると自覚してしまった今の私は、気づけば何度も何度も夢想してしまっているのだ。
掠めていたのだろう、青春の日々を。
11/9/2024, 11:38:59 AM