『鏡の中の自分』
⚠️嘔吐描写有り 苦手な方は飛ばしてね
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ふと、嫌な事を記憶の底からフラッシュバックする。
目の前が闇に包まれる。
暗くて、何も見えなくて、出口がない。
そんな空間に閉じ込められた記憶。
っ、…クソ、、。
悪態を吐いたところで変わらない、息が上がり呼吸がしづらくなってくると同時に気持ち悪さが腹から喉に向かって押し寄せてくる。
最悪…ッゥ"、ぇ、気持ち悪い、………。
吐き気を催し、急いで便所に向かいトイレの前に座り込む。どうせなら、胃の中のモノを全て吐いてしまおうと、指を突っ込み。自分のくぐもった呻き声が聞こえてくる。ずるりと自分の手を引き抜くと共にビチャビチャと汚い音が響き、嫌な臭いが辺りに充満してくる。
あぁ、気持ち悪い。嫌な思い出も吐く事も全部。
全部、吐き出し終わったようで徐々に、嘔吐感が治るとレバーを操作し、吐瀉物を流してしまう。
溜息を吐きながら立ち上がると、洗面所に行き、口を何回かすすぐ。
何気なく、目の前の鏡を見ると大きい傷跡のある目の下に深い隈がある酷い顔をした男がいた。
「っふ、は…はは、あーあ、酷い顔」
なぜだか笑いが込み上げ、乱雑に口を拭い、顔の傷跡に触れると、笑みがなくなり表情が曇る。
「………元からか」
何を思ったのか拳で鏡を殴っていた。
鏡にヒビが入り、顔が見えなくなる。
手からは血が出て、痛いが、……、
自分で自分自身の顔なんて見たくもない。
鏡の中の自分にも自身にも反吐が出る。
『永遠に』
死ネタ、グロ注意?カニバ注意かも⚠️
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あぁ、やッてしまった…、。
自身の血に濡れた手を一度見て、虚な目で自身を見る彼の姿を見て、今からでは遅い後悔をする。
彼が僕の相手をせず、周りの奴らばっかり気にかけていたから?
こんな、筈ではなく…ただ話をしたかった?
我慢が効かなくなって、彼を、誰も使っていない小屋に呼び出してナイフで彼を何度も刺した。
彼は優しいから、誰にでも優しいのも気にかけているのもしょうがないと最初は確かにそう思っていたはずなんだ。
でも、…そうだ、僕は気づいていたんだ。
彼が、僕に振り向きもせずに、…ある人の方しか、はなから見ていなかった事を、気づいていたんだ。
だから、僕は、……。
「ふっ、…あ、ははっ、はは、っ」
乾いた笑いが部屋に響く。
血に濡れてしまった手を乱雑に自分の衣服で拭い、彼の両頬に触れ、胸から腹、腰、腿…と、順々に触れた後、再度、彼の両頬に触れキスを落とす。
そして、小屋で必要な使えそうな道具をかき集め、ナイフで彼の肉をバラしながら、平たい石を熱し始める。
あーあ、君が悪いんだよ?
君が僕だけを見てくれないから。
周りを気にかけている癖に本当は一方向しか、眼中にないから。
熱した石に肉を乗せる。
ジューッと、肉が焼ける音が広がって、匂いが鼻の奥で広がる。やはり、人間だからか、心なしか臭い。
そろそろいいかと、裏返してみると表面にきれいな焼き色がついていた。もう片面も焼き色がつくまで焼くと、そのままガブリとかぶりつく。
これが彼の味か…舌で肉を血を咀嚼し、ゆっくりと飲み込む。
彼が、アイツのものに完全になる前に僕の血となって肉となって、永遠になると思うと嬉しくなって一人笑みを溢した。
『紅茶の香り』
「ねぇ、それ何の匂い?」
通りすがった彼からふわりと香る。上品な匂いに鼻腔をくすぐられると同時に、何処か気持ちがささくれ立つのを感じた。
「ん、?…、わからん。何か俺から匂いするか?」
自分の服を嗅いでみて、頭を傾げる様子に本人は気づいていないようだ。
「…いや、何でもないよ。試合頑張ろうね?」
気のせいだったみたいと言い、彼に向かってニコリと微笑む。
「あぁ!」
二人で腕をタッチし合って、笑い合う。
彼が、どこに行って誰と会ってきたとか僕には、お見通しだが、それを指摘するつもりも無ければ、どうこうしようという気もない。なんで、僕が彼に対して、こんなに苛つくのかもわからない。
だけれど、彼から香ったこの紅茶の匂いは…嫌いになりそうだった。
『どこまでも続く青い空』
あぁ、…口の中が血の味がする。身体に力が入らないし、もうどこも痛くない。さっきまで、身が焼けるように痛く、傷口からジクジクと熱を持っていたはずなのに今では、それが嘘だったかのように無い。
死因が失血死なんて、笑えるなぁ。僕の知り合いのお節介焼きに言ったら、全然笑えないって怒られそうだけれど。ふと、首を動かして隣を見る。彼もまた、地面に転がされて、死ぬ寸前と言ったところだろうか。
「まだ、生きて、ますか…?」
「生きてる、なんとか、な…だが、時間の、…問題だろう。まもなく、俺は死ぬ…」
掠れた声でそう答える彼は、かなり生気のない目をしていた。…今なら言えるだろうか、墓場まで持っていってやろうかと考えていたが、どうせ死んでしまう身だ最後くらい好きにしてもいいだろうと、決心し彼の目を見る。
「死ぬ、まえに、聞いてください、…」
「あぁ、…手短に、頼む…」
「僕、…貴方が、好きです。伝えるのは、こんなにも、…土壇場、ですけど…」
言えた!、なんとか言葉にする事が出来た。当の言われた本人は、目を数回、瞬いた後…僕の目を見つめ返してくる。
「奇遇、だな……おれ、も…だ……、」
彼は、最後に僕に向かって嬉しそうに微笑んだ後。ゆっくりと事切れてしまった。それを聞いた僕は、どうしようもない多幸感に包まれた。ゲホッと一度咳をすると、血が出てくる感じがする。ゆっくりと視界が黒く染まっていく、ふと、空を見ると、どこまでも青い空が広がっていた。
こんな、死なら悪くないと、一人。笑いを溢し、重たい瞼を閉じた。
叶うならば、また、彼と一緒の世界線で会いたい。
今度は、恋人として、…。
『衣替え』
次の月から、冬服に衣替え。
僕は衣替えが好きだ。まだ時期は秋だけれど、最近、冷たい風が吹いてきている。だから、みんな冬用の制服に変えて、ある人はパーカーを着ていた。その後、校則違反だと先生に怒られていたけれど。女の子達は、スカートの下にジャージを履いたりしている。あれは、寒いのはわかるけれど正直ちょいダサい。でも、それらも相まって、季節の変わり目を感じれる。
それが、面白くって、好きだ。
これが、社会人になると学校よりも、衣替えって概念が薄れる気がして少しだけ卒業が寂しくなった。
卒業まで残り四ヶ月半といったところだろうか。
シャツにズボン、セーターにネクタイをつけて鞄を背負うと、扉を開ける。
「行ってきます!」
外に出ると冷たい空気が頬を撫でる。そんな、冷たい空気を吸い込み、一度に吐く、一日一日を大事に過ごしていこうと、朝の日差しに照らされながら、そう思った。