『どうすればいいの?』
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僕は…あの時どうすればよかったのだろうか。
今でも、元カノと別れた時を思い出すと、よくその時、どうすればよかったのか問いかける。
問いかけても、勿論答えなんか出ない…。
〈貴方は本当は、私の事なんか愛していなかったんでしょ?付き合う前と何ら変わらないじゃない。元から貴方が取っ替え引っ替えしていたの私知っていたのよ…私とも遊びだったのよね。…さようなら〉
そう言われ別れたのを一語一句余さず覚えている。
「どうしたんだ?」
「…え?いや、なんでもないよ」
後ろから友人に話しかけられて、ピクリと体を震わせて驚く。
「そうか…なら、俺とさお菓子作ろうぜ」
彼の突拍子のない言葉に再度、驚き。
ーー何故こうなっているのだろうか?
されるがままにエプロンを付けられ、今は生クリームをかき混ぜている。
「ねぇ、これいつまで?」
「ん、もういいぞ」
ボウルの様子を見ては、オーケーサインを出され机にボウルを置き、泡立て器を洗い場に出す。
「ねぇ、次はーー
そう言ったところで口を閉ざす。
自分からお菓子作りに参加しようとしていることに気づき動揺する。そんな彼はふふっと、楽しそうに笑うとそうだなだと少しだけ考えたあと、今度はこれ混ぜてくれと別のボウルを渡された。
「しょうがないなぁ…」
言動では渋々と言った感じで受け取り、内心では彼に感謝をしながら、クリームチーズを混ぜ始めた。
『宝物』
「それずっと持ってるよな」
僕が使っている少し黄ばんでしまっている栞を指差しながら、新しいの買わねえのと疑問を口にする。確かにもう、10年くらいは使っているし、花は黄ばんで見栄えはあまりよろしくはないし、替え時というのもごもっともな意見だけど。
「替えない、これがいいの」
だって、これは貴方がくれた宝物だから。
「大切に使っていただいて光栄だな」
「……は?」
そう言って呆気に取られている僕を置いて、風呂に入ってくると言い行ってしまった。
ずっと前にくれた物だし、貴方がその時に言った台詞がいらないからあげるだったから、忘れてしまっていると思っていた。だけれど覚えていたとしり、顔に熱が溜まるのを感じながら、ミモザの花の栞を見た。
『キャンドル』
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布団に入り、寝る準備万端というところでさっきまで気になっていた事を口にする。
「…ごめん、一つ聞いてもいい?」
「ん、なんだ?」
一つのキャンドルをつけながら振り向くとニコリと微笑んでくる。そのキャンドルが原因なんだけど…。
「なんで、キャンドル?」
「いや、眠れないって言うから、知り合いから貰ったアロマキャンドルって言うやつ使ったら変わるのかなと、あー、この匂い嫌いか?」
「いや、そうじゃなくて…あー、ありがとう?」
「ん」
そう言いながら、ベッドに入ってくる。
ほのかに香る甘い匂いを嗅ぎゆっくりと目を閉じはじめる。おかげ様でなんだか眠れそうな気がした。
『たくさんの想い出』
一応死ネタ⚠️
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ねぇ…君とさ最初に付き合った頃の事覚えている?
あの頃はさ、僕、荒れててさ…いろんな子取っ替え引っ替えしてた頃だったし、沢山喧嘩したよね。口喧嘩もしたけどさ、お互いヒートアップすると手も出たりしてさ、あの頃は、本当にごめん。
僕ってさ、過去色々あったから…よく情緒不安定になったり、夜魘されたりさ…事あるごとに自分を卑下しては別れようって言ってたよね。今は、君に話せて過去とも向き合えて、なんとかやれてる。
思えば、よく離れようとしなかったよね。傷つけるような事も愛想尽かされちゃうような事も沢山、沢山言ってたのに、大丈夫?辛かったな?とかさ優しく声かけてくれて、…あの時の優しさは僕にとって本当に救いだった。
後、君さ僕の料理好きだったよね…いつも美味しそうに食べてくれてさ、特にお菓子だったかな?
記念日とかも沢山祝ったし、遊園地とか、デート沢山したし、数えきれないくらい沢山の物を貰った。
特に嬉しかったのはさ、今となっては、本当は僕から言いたかったけれどプロポーズしてくれた事だよ。
本当に、本当に、さ……、
「たくさんの、想い出を、…ありがとう、…大好きだよ。これからも、ずっと…ッ…」
棺に手を置き、声を殺しながら泣く。
安らかに眠っている顔を見ながら百合の花を添え、手紙と貴方が好きだったお菓子も入れた。
『子猫』
続き書けたら書く
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子猫を拾った。
いや、正式に言えば…人なんだけども、。
闇のような綺麗な黒髪で柔らかい猫毛をしていて、自分に対して少し警戒心を抱いている姿を見ていると黒い子猫にしか見えない。
そんな子猫に最初出会った時は、路地裏で酷く衰弱して倒れていた。もう何年も着古されたパーカーにズボンを履いていて、足首や手首からは生傷が見えていた。
これは、絶対におかしいと思い身体を持ち上げた時の軽さや身体付きから食事もロクに摂れていないのだろう。これ、わんちゃん犯罪かな、…なんて考えつつも放って置けない性分が働き、抱えて家に帰ってきて今に至る。
寝ている間に新しい服に着替えさせたまでは良かった。自分のだからかまだ幼いに体には大きいみたいでぶかぶかとしている。問題は、食事を摂ってくれないし話してくれない。まぁ、いきなり起きたら見知らぬ大人の家に居て、話しかけられたり飯を出されても困惑するだろうし、直ぐには信頼できないだろう。
子供は、嫌いではない。ないのだが扱いがわからない。こういうときに友人が居てくれたら助かるのだけれど連絡してみたところ外せない用事があると焦ったように切られてしまった。自分でなんとかするしかない。
「…パスタは嫌いか?」
「……」
「あー、それとも別のがいいか?」
「……」
どうすればいいのか全く分からん。
パスタも冷めてきてしまったし、一旦下げるかと皿を持ち上げようとすると腕を掴まれた。真っ黒な大きい目で見つめられる。すると、くぅーっと弱々しい腹の音が鳴ると顔を赤く染め逸らしてしまう。皿を持ち上げようとしていた手を離しフォークを差し出す。
「沢山食えよ、おかわりもあるから」
こくりと頷き、フォークを手に取りゆっくりと食べ始める姿を見てホッと息を吐くと同時にこの拾ってしまった子猫をどうするかなと頭を掻いた。