Alan.Smithee☆彡

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10/10/2024, 5:08:27 AM

『呪文名:ココロオドル』



「ココロオドル1:この呪文は、相手の『魂』の善悪を判定して裁くことができるんだミュ。
失敗すると、きみの約16日分の生命力を削るけど…。
まあ、魔法少女に多少の犠牲はつきものなんだミュ」


 見たこともない生命体が、なんか好き勝手に言っている。
道端に落ちていた、ステッキを拾ったのがいけなかった。
小さな子どもが喜びそうな、きらびやかな装飾が施されているもんだから。
妹に見せたら喜ぶかな、なんて思ってしまったんだ。


「ココロオドル2:この呪文は、『時間』を2AWP/だけ進めてくれるんだミュ。
対価に、きみのこれからの行動すべてに不運が作用してくるけど…。
魔法少女に選ばれた時点で、世界の不幸を担うのだから、些末なものなんだミュ」

 
 未確認畜生が、なんかわけのわからない単位みたいな言葉も交えてのたもう。
これ見よがしに落ちていたステッキだった。
それこそが、そもそもの罠だったのかもしれない。


「ココロオドル3:この呪文は、『愛』を05倍だけ強くーーー」


まだ続きそうな理解できない説明を、挙手で遮る。
「魔法少女自体を辞退する呪文はあるの?」と。


「あるミュ。その呪文のせいで僕らの世界では、深刻な魔法少女不足に陥っているんだミュ。
『リリカル』なんて簡単な呪文じゃなくて、もっと難解で言葉で表しくいものに変えるべきだミュ」


私は間髪いれずに唱える、「リリカル」と。
その瞬間、目の前から不条理を言い渡してくる物体Xは消え、ついでにステッキもなくなった。


やれやれ、ひどい目に合うところだった。
これで、魔法少女にならずにすんだのだ。
なんだかんだ言って、普通の人間が一番いいんだから。





2024.10.10

9/26/2024, 1:33:47 PM

『ザムザ』


昼休みに一瞬だけ、うとうと寝てしまったのがいけなかったのだろうか。
目が覚めたら、友達が虫になっていた。

「む~、む~、むぅ?」

などと鳴きながら、教室をウニョウニョと動き回っている。

「……なにこれ?」

『何』ではなく『虫』だ。
はっきりと判る。
判ったとて、だ。

あたしは寝ぼけているのだろうか?
……目を擦り、瞬きをしてみるが結果は変わらない。

どう見ても虫である。
教室にある机ぐらいの……ダンゴムシ?
いや、小さなハサミがあるから、ゲジゲジかもしれない。
しかし、ハサミがあるということはゲジゲジではありえないわけで……うーん。

まあ、いいか、ゲジゲジで。

ちょうど、昼ご飯にと一個丸々もってきていたリンゴが視界に入る。
ぶつけてみる?虫嫌いだし。

「あ、いや、でも」

嫌いな虫とはいえ、あたしの友達なんだった。
いつも一緒にお弁当を食べている友達だ。

「で。なんで虫になっちゃったの?」
「む~?」
「わかんないか」

あたしはリンゴを机に置き、ウニョウニョと動き回る友達ことゲジゲジを観察する。

「人間が虫になるなんて、きみはザムザか何か?」
「む~」
「とりあえず、助けてあげたほうがいいよね?」
「むぅ?」

あたしは席を立つ。
すると、ゲジゲジは慌てたように逃げていってしまう。

「あ、待って!」
「む~……」

しかし、すぐに戻ってくる。
そして、近づこうとするとまた逃げていく。
それを繰り返すうちに教室を出ていってしまった。

そういえば、と思い出す。
友達はあらゆるものに、影響を受けやすい性格の持ち主だった。

つい最近、四時四十四分に合わせ鏡を実行して異世界に飛ばされたばかりだ。
連れ戻すのに苦労したんだよね。

今回のことだって、もしかして……。
なんか秋だからという理由だけで、読書に目覚めたんじゃ。
だとすると状況的に選んだのは、やっぱり『変身』だったり?

「ザムザって最後は死ぬんじゃ……」

廊下からたくさんの悲鳴が聞こえて、慌ててあたしも教室から飛び出した。
とりあえず、小難しいことは後回しにして、虫になってしまった友達を保護しなきゃ。

友達やめようかな、なんてちょっぴり考えながら……。





2024.9.26

9/26/2024, 5:55:46 AM

『線路』


私の部屋の窓からは、線路が見える。
線路とはいっても電車は走らない。
廃線となった寂れた線路だ。

生えっぱなしの草が、今では我が物顔で占拠している。

ある映画のワンシーンに憧れて、線路をこっそり歩いたこともある。
夏だったこともあって、無数の蚊に刺されて二度と近寄らなくなったけど。

だけど、虫刺されを気にする必要のない、この部屋から眺めるのは好きだ。

視界に影が入り込んで、線路を見ると、遠くのほうから電車が見えた。
廃線だから、もちろんそんなことが起こるはずもなく……。

「あー、なるほど今週もか」

仕事疲れの寝不足状態、気力体力0状態ーーそんなコンディションのときにだけ、なぜか走る電車が見えるのだ。

幻の電車は陽炎の中を突き進んでくる。
私はそれに向かって手を振った。

「やっほー。元気ですかー?」

なんて、意味のない言葉を見えない乗客に投げかけてみる。
当然、反応はない。

「私は生きる屍じゃー!」

そう自棄になって叫んでも、やっぱり反応はなかった。

「そっちはどうですかー?」

と、聞くけれど、もちろんこれにも答えが返ってくるはずもない。
でも、なんとなくだけど、この線路の先に向かって本当に走っているんじゃないかなって。
私は漠然とそう思っている。

そして、たまたまこのコンディションのときだけ私の目にも見えるんだ。

だから、私は今回も語りかける。

「週明けから、またがんばります!!」

私の言葉が届いているかはわからないけれど。
それでも、こうして私は線路の先へと思いを馳せることが好きなんだ。



2024.9.26

9/25/2024, 12:28:09 AM

『さよなら来世、まだ現世』


ばあちゃんが静かに語りかけてくる。
いいかい?よくお聞き、と。

「わたしたち妖怪の存在は人間さまのお陰であると知りなさい。恐怖を与えるのは、ただひとりの人間さまの為にするものではない。多ければ多いほどいい。
 ー…、おまえは人間さまから忘れられてはいけないよ。そうなったら、人間さまの恩恵から与えられるわたしたち妖怪の存在は、形をなくすのだから」

わたしは五歳だった。
それを理由に言いわけをするわけじゃないが、当時は難しくて理解できなかった。

それよりも、長時間正座をしていたからか足の痺れの方が気になった。
ごまかすように、小さく足の指を動かす。
ばあちゃんが説教する時はいつもくどく、そして終わりが見えない。

ポケッとそんな風に意識をそらしていたら、苛立つ気配を感じて、慌ててうなずいた。
話は、ばあちゃんが納得するまで続いた。

きっと、わたしがちっとも理解できていないことに気づいていたんだ。
いつまでも終わらないことが、それを証明していた。

ばあちゃんが繰り返し教えてくれた言葉。
その言葉の意味を理解できるようになったのは、わたしが百歳をこえたあたりからだ。

わたしの夢は来世で猫として生きることなので、さっさと現世を終わらせたい。
妖怪なんて、もともとあってないような、形のないものなんだし。

だから、わたしは誰ひとり驚かす真似もせず、絶賛引きこもり中だ。

だというのに、いまだにわたしたち妖怪を信じるものがいるもんだから、夢の実現は未確定だし、ばあちゃんもまだ当然、生きている。




2024.9.25

9/24/2024, 1:21:08 AM

『少年イカロス』

「てっぺんまで登ると、太陽に手がとどくんだ」

俺のとなりで、ジャングルジムに登っていく遊歩が言った。

「そうなの?すごいね」

そう答えるも、俺は信じてなどいなかった。
でも、遊歩は真剣だった。

「うん。だから、登るんだ。登って世界ではじめての太陽にふれた人間になるんだ」

それからは、二人して黙々と登った。
てっぺんから見える景色はいつもの公園でしかなかった。
当然、太陽だってはるか頭のうえだ。

「イカロスにならずにすんだね」

ちょうど音楽の時間に習ったばかりの歌を思いだす。
所詮、人間は太陽にはさわれない。
わかっていたことなのに、なぜかひどく落ち込んできた。

「遊歩?」

ずっと黙ったままの親友が気になり、横目で彼を見た。
遊歩は器用に腰かけながら、両手をめいっぱい空へとのばしている。

キラキラと瞳をかがやかせながら、「あったかいな」とつぶやいた。
「え?」
「すげぇ。な?そう思うだろ?」

遊歩はニッと笑顔を浮かべながら、俺に同意を求めてくる。
彼と空とを交互に見るも、太陽の位置はかわらないままだし、俺は遊歩のようなかがやきも持っていない。

キラキラな心を持ってジャングルジムに登ったら、感じ方もかわるとでもいうのだろうか。


遊歩、おまえは太陽にさわれたのか?


結局、真偽を確かめることもできないまま、その日はサヨナラした。
俺はまだ子どもで、頭のなかの世界はすごく狭くて、自分のまわりのことだけが全てだった。
大人になれば、世界は拡がっていくのだろうか。
だといいな。

そう思っていたのは、昔のことでーーー。


上司からのチクチク言葉を反芻しながら、公園のベンチに座り空を見上げる。
太陽に手をのばしつつ、かつての親友でもあった遊歩を思いだしていた。

彼とは中学にあがり、少しずつ疎遠になっていった。

なあ、遊歩。
今もかがやきを忘れていないか?
今も心にイカロスを宿しているか?
そのイカロスは、大人になった傲慢さで太陽に焼かれていないか?

どうか、かがやいたままのおまえでいてくれ。
できうるならば、いつまでもそうであって欲しい。

それがひどく一方的な願いと知りながらも、強く思わずにはいられなかった。




2024.9.24
   

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