『夢と現実』
私が居なければみんな幸せになれる。
私が居なければ私は幸せになれる。
私が居なくても生活は変わらない。
私が居なくたってなんも変わらない。
私が死んだ後をみたい。それが私の夢。
誰か泣いてくれるのか。
誰かが孤独を嘆いてくれるのか。
それを見て安心して生きたい。
それが夢。
でも死んだら終わりだから、怖いから、現実を見てる。
私の夢は、咲いたら刹那。
『さよならは言わないで』
恋をしていた。君の事が大好きだった。
でもね、私の恋はまだ叶わないみたい。
この人生じゃ、君と運命を共にする事ができないみたいなんだ。
恋が足りない。愛が満たされない。
17年の人生。名前も知らない誰かのせいで、それは幕を閉じてしまった。
まだ、もっと、誰もが羨むほど長く、
アスファルトの隙間からたんぽぽが顔を出したら、今日はいい日だ、って思える様な、
幸せってものを感じてたかったな。
狭い箱の中、花に埋もれて眠る私が見える。
目蓋を腫らして泣いているいる君も見える。
ごめんね。
私の声は届かない。
君の涙は宝石みたいだねって。思ったよ。場違いだけど。綺麗だな。
あ、待って。
さよならなんて言わないで。
君の顔を見ながら、私は少し焦っている。
「さよなら」なんて言われたら、もう会えない気がするからさ、絶対言わないでよ。
さよならは言わないで、またねって言ってよ。
そしたらね、君が飼いたがってた、猫になって会いに来るから。もう一回、次は家族になりたいなって思うの。
ほら、君と私、赤い糸で繋がれてるからさ、また一緒にいられると思うんだ。
だから絶対に見つけてね。私もいっぱい探すからさ。
だから、別れの言葉なんて言わないで。
「またね、純恋(すみれ)」
――あ、好き。
私はもう一度、君に恋をした。
震える君の身体を抱きしめたいと思った。
もう叶わない。
最後に君の涙を拭いたい。
もう触れない。
もっと君に愛を注ぎたい。
できない。
苦しいね。
ね、聴こえてるかな。
またね。
『声が枯れるまで』
声が枯れるまで貴女の名前を呼べば、貴女は私の隣に居てくれたのだろうか。
轟々と燃え盛る炎である私の隣は、少し寂しい。ガソリンである貴女が居てくれないと、私は、そうだ。見窄らしい。
声が枯れるまで貴女の名前を呼べば、呼んでいれば、貴女と私は一人になれたのに。
雌蕊と雌蕊では運命を共に出来ないのかしら。神様は意地悪ね。それとも、罪を犯した私に罰を与えたいの?
声が枯れるまで貴女の名前を叫んでいた。あの時の私は獣(けだもの)だった。
声が枯れるまで呪詛を唱えていた。まるで私が悪、みたいに貴女が言うから。
声が枯れるまで、呪いを。
声が枯れるまで、誓いを。
声が枯れるまで、愛を。
私は叫んでいたの。
愛を超える愛を叫んでいたのに。
なのに貴女は遠ざかっていくのね。
貴女は安らかに月へ登っていくのね。。
私を裏切るなんて最低ね。
地獄(こっち)までもう少しだったのに!!
『忘れたくても忘れられない』
真っ白な浴槽にて、刃が進む感覚。
素敵なあなたの笑顔。
「最後に踊りましょう」
︎︎貴女はそう優しく語りかけ、軽やかに僕の手を取りました。白く柔らかなその手に誘われて、音楽も無く六畳の舞踏会。
「貴女に逢えて幸せでした」
「僕もです」
︎︎スカートの裾が舞い、それに負けず劣らず、貴女はお美しい。その様は、蝶のような、薔薇のような、硝子越しに見るジュエリーのようで。僕と貴女の間には間違いなく円舞曲が流れていました。
「……」
︎︎舞台が終われば、深い口付けの時間らしく、貴女はその真紅の口唇を艶めかしく近づける。睫毛すら触れそうな距離で、彼女は目を閉じた。
「……」
︎︎何度も感じたこの口唇を、僕は忘れないでしょう。彼女がいつも纏っているパルファムの甘い香り。それを忘れることはないでしょう。貴女が私に吐いた嘘。それもね。
「優しく殺してね」
︎︎貴女はそう耳元で囁きます。まるで天使のような、悪魔のような、女神に近いなにかの声でした。全てバレているのだ。そう思えば気が楽でした。
「そんな生温いことしませんよ」
︎︎睡眠薬を溶かしたワインを飲んでいた貴女は、僕の胸の中で眠りに落ちます。他の男と夜を過ごすなんて、罪だ。だから罰を与えなければ。
「おはようございます」
︎︎浴槽にて、貴女は目を覚ます。まるで夢を見ているかのような虚ろな眼。きっと死んだと思っているのでしょうね。
「さようなら」
︎︎貴女は笑顔でした。勿論僕も。きっと、二人、それは素敵な笑顔だったでしょう。一生涯で一番素敵な笑顔です。貴女のその顔が愛くるしい。
忘れたくても忘れられない。
忘れることを許さない。
貴女の赤色。
『高く高く』
背の高い父に肩車された事を未だ覚えている。
いつもよりも何倍も高い位置から見る地面はとても遠くて、いつもよりも何倍も高い位置から見る天井はとても近かった。
遊園地で父に肩車された事を未だ覚えている。
いつもよりも何倍も高い位置から見る観覧車は少し小さくて、いつもよりも何倍も高い位置で見る人の姿は、とても小さかった。
野原で父に肩車された事を未だ覚えている。
いつもよりも何倍も高い位置から見る草花はビーズのように見えて、いつもよりも何倍も高い位置から見る大空はもっと広く見えた。
あの時私は、手を伸ばしたはずだ。手を高く高く伸ばして、空を触ろうとしていたはずだ。空は私が思っているよりも何倍も高いらしい。
あの青にはどれだけ高く手を伸ばしたら届くだろうか。
あの高い高い空は、どこから始まるのだろうか。
そんな事を思っていたことも覚えている。